No.702

(対象画像がありません)

じれったい奴等め

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.21

#お題 #両片想い

「絶対に恋やわ……好きやで」「それ以外に言葉が見つからない」 忍足ははぁ~と大きく息を吐く。滝も、は…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

じれったい奴等め

「絶対に恋やわ……好きやで」
「それ以外に言葉が見つからない」
 忍足ははぁ~と大きく息を吐く。滝も、はぁ~と長く息を吐く。
「そうだよね。ボクも、好きだと思うよ」
「これが恋じゃないなら、何て言うんだろうな?」
 不二がため息交じりに笑う。大石が頬を掻きながら笑う。
 だがこの四人は、なにもお互いに告白をしあっているわけではない。男子中学生が道端で好きだの恋だの話していても、だ。
「なあ、不二、大石。そろそろ引き取ってくれへん? ウチの部長」
「それはこっちの台詞だよ、忍足。テニス馬鹿でしかなかったウチのカタブツ部長」
 議題の中心が恋であることは間違いないが、その対象は自分たちでなく、自分たちが所属するテニス部を率いている部長たちだった。
「ホントにあれ、どうにかならないかな」
「学校ではどんな感じいなんだい?」
 困ったように首を傾げた滝に、大石が訊ねる。
「学校では概ねいつも通りだよ。概ね、ね。ただ、ふとした瞬間に言葉を止めて俯くんだ。そうしてため息を吐く。それは決まって、彼を連想させることがあった時なんだ」
「うちの手塚もそんな感じだな。ため息の回数が格段に増えてる。何か悩み事があるのかと訊いても、まあ話してはくれないんだよ。珍しくスマホを眺めてる時間も多くなっててね」
「他のヤツらと手塚のこと話題にすると、すーぐ入ってきよるしなあ」
「跡部の名前を出すと、あからさまにこっち睨んでくるんだよね。いや、手塚は睨んでるつもりないんだろうけど。話に入ってきたいなら、遠慮せず入ってくればいいのに」
 面倒くさいな、と不二はその顔に似合わず悪態をつく。
 だが面倒くさいと思っているのは他の三人も同じようで、うんうんと頷いていたりする。
 青春学園テニス部部長・手塚国光は跡部景吾に恋をしている。
 氷帝学園テニス部部長・跡部景吾は手塚国光に恋をしている。
 名前に反応する、話題に入ってきたがる、というだけでは、恋だなんて認識はできない。しかも同性同士だというのにだ。
 しかしこの四人は恋だと確信している。
 何しろ、相手のことを話す時だけ表情がひどく優しくなるのだから。
「手塚があんな顔するとは思わなかったな」
「写真撮れれば良かったんだけどね」
「ウチはよくティールームで手塚の話をしとるからなあ、女子が何人か保健室運ばれてったわ」
「近くで見てる俺たちも、当てられちゃうくらいだからね。あれ耐性のない女の子にはキツいと思うよ」
 気の毒に、と滝が首を横に振る。
 それはぜひ見てみたいなと、機会があれば写真や動画を送ってほしいとお互いに交渉をしてみたりもした。
「あれで付きおうてへんのやから、驚きやわ……はよくっつけっちゅーねん」
「ていうかあれ、たぶん片想いだって思ってるよね、二人とも」
 四人共が、ああ~と脱力しかける。周りが気づいてしまうほどにあからさまに相手を想っているのに、どうして気づかないのだろう。
 あり得ない、と思っているのだろうか。男同士だから? それともその感情はテニスにしか関わりがないと思ってのことか?
 その時、大石がひとつの仮定を口にした。
「まさか二人とも、自分の気持ちさえ自覚してないなんてことは」
 しんと静まり返る。道端なのだから、それなりに車や通行人の立てる音は聞こえてくるのに、その一角だけ無音になったような感覚だった。
「いやいやいや」
「さ、さすがにそれはないでしょ?」
「ない、とは思うんだけどね……手塚だからね……」
「……うん、手塚だからな……」
 普段の手塚国光を知っていると、テニス以外には興味がなさそうなのも知っているから、どうにも自信がない。自覚をしていないなら、お手上げだ。
 別に、仲を取り持とうとか橋渡しをしようと思っているわけではないが、せめて気づいていてほしい。
「景吾くんは、たぶん自分の気持ちに気づいてると思うんだけどね」
「手塚から好かれるわけがないって思とるんやろなあ……あーいう試合したせいやろうけど」
「いや、でも、きっかけってあの関東大会だよね、きっと、お互いに」
 関東大会で、青学と氷帝は初戦でぶつかった。その時に繰り広げられた二人の試合。
 永遠に続くかと思われたタイブレーク。がむしゃらにボールを追う二人の姿は熱く、見る者すべての心を撃ち抜いた。
 弱点を攻めた跡部と、肩を痛めた手塚。
 真剣勝負の中での出来事だが、それでも跡部は手塚に好かれるわけがないと、諦めてしまっているフシがあるようだった。
「確かにあの後からだもんな、手塚が跡部のこと気にし始めたの」
「全国大会の時、越前連れ戻しに行ってくれたよね、彼。礼がしたいが何がいいかなんて訊かれた時、肩のこととか全然気にしてないんだなって思ったのに」
「あ、そういえば、景吾くんがやたら機嫌が良いときあった! それか!」
「謎が解けたわ……なんや、それなら俺にも何かあってもええんとちゃうか」
 忍足が、口の端を上げながら呟く。跡部に引っ張られていった形だが、忍足もそれには一枚噛んでいる。礼がどうのと言うつもりはなくて、二人がちゃんと交流してくれているのが嬉しかった。
「その節はどうも」
「ありがとう、忍足」
 代わりに、と不二と大石がぽんぽん肩を叩いて、四人で笑い合う。
「こんなところで立ち話もなんだし、どこかお店入らない? 今さらだけどね」
「うん、そうだ、……ね……」
 滝が提案し、それに答えかけ、適当な店を探そうときょろりと辺りを見回したところで、不二周助が開眼した。
「え」
「不二? どうし――え」
 大石がその視線を追いかけて、それを見つけて顔を引きつらせる。
「うわ、なんやあれ……」
「おやおや。おやおやこれは」
 忍足と滝も気づいて、四人の視線が一気にその一点に集中した。
 視線の先に、連れ立って歩く手塚と跡部の姿。
 道路の向こう側、非常に目立つ長身の男たち。間違いなく二人だと気づいた四人は、にわかに色めき立った。
「ちょお待て、何しとるんあの二人。俺らに黙って」
「デートかな。ボクたちに黙って」
 話題の中心だった二人の親密そうな様子に、思わず浮かれてしまう。口許が緩み、体が前のめりになった。
「あ、そういえば今日、部長会議だって言ってた」
「ああ~それかぁ……その帰りってとこかな」
 大石が、思い出したようにポンと手を打つ。どうもデートの約束をして逢っていたわけではないようで、がっくりと肩が落ちた。
 だがしかし、部長会議ということならば他校の部長も一緒だったはず。それをちゃっかり二人きりの時間に変えているのだから、押さえるところは押さえている。
「跡部のヤツ、嬉しそうな顔しとるわぁ……」
「手塚も機嫌よさそうだね」
「あれ機嫌がいいんだ……」
「もう少し顔に出ればいいんだけどな」
 街路樹の陰から、二人の様子をそっと見守る。会話は当然聞こえてこないが、テニスのことでも話しているのだろうか。跡部が話しかけ、手塚がそれに頷くという形のようだが、二人はそれでも嬉しそうだった。
「なあ、今手塚が跡部と位置変わったやん……」
「車道側だったからかな……ちょっと大きい車とすれ違ったしね」
「彼氏かいな……」
「ねえ、跡部のあれって、ちょっと照れた顔? うわ、手塚が顔を背けた。可愛いなんて思ってるのかな」
「なんであれで気づかないんだ、二人とも」
 ひそひそと囁きながら、恋する鈍感二人を眺める。通り過ぎていく車たちが邪魔で、できることなら定点カメラでも取り付けたい気分だった。
「あ、お店入るみたいだよ。景吾くんナイス」
「待て待て、こっちに気づいてもうたやんけ。アホ、こっちに来んでもええわ、そのまま二人で店入れや……!」
 そんな四人に、手塚が気づいてしまう。じっとこちらを見て、カフェのドアに手をかけようとした跡部の肩を叩く。視線で気づかれたのか、それとも男子中学生がこんなところでたむろしているのがおかしいと思ったのか。
 どちらにしろ、下手を打ったのだと四人は頭を抱える。すぐ傍の横断歩道から、二人がこちらに渡ってきてしまった。
「ようテメーら。珍しい組み合わせだな」
「や、やあ跡部。ちょっとあの、えっと、本屋で偶然逢ってさ」
 大石が頬を掻きながら跡部に答える。逢ったのは本当に偶然だが、まさか、たびたび二人の件で情報交換している仲だなんて言えやしない。
「手塚たちは、会議の帰り?」
「ああ、なかなか有意義な時間だった」
 不二の問いかけに、手塚がコクリと頷く。その後にちらりと跡部を見やったのを、四人は見逃さなかった。ああそれは有意義な時間だったのだろう。「跡部にも逢えたし」とでも思っているのではないだろうか。
 しかしそれならそれで、こちらには気づかないふりをして店に入っていってほしかったと、四人はそろって頭を抱える。
「なんだ、お疲れのようじゃねーの。ちょうどいい、テメーらも一緒にどうだ」
 跡部が、先ほど入ろうとしていたカフェを指さす。この流れでは「じゃあ二人で店に入るから」とは当然ならないだろうなと、四人は乾いた笑いを漏らした。
「心配しねーでも、俺様の奢りだぜ。ありがたく思いな」
 断れる雰囲気でもない。できれば二人でカフェを楽しんでほしかったけれど、ものは考えようである。
 店内でイチャイチャ仲良くしている二人を堂々と見られるではないか。
「うん、じゃあお言葉に甘えようかな」
 にこやかにそう返した滝の意図に気づき、他の三人も頷いた。
 横断歩道を渡り、しゃれた雰囲気のカフェへと入る。店内に客はちらほら。友人同士とみられる女性たちや、仕事中に見えるサラリーマン、ゆったりとお一人様を満喫する人もいた。
 だが、大人数向けでない店内では、六人が一緒に座れるところはなかった。
「二名様と四名様でなら、お近くの席でご用意できますが……」
 迎えてくれた店員の申し訳なさそうな声に、忍足たちはむしろグッジョブとばかりにすぐ案内を頼んだ。
「そっちの方が景色ええやろ。跡部と手塚はそっちで和んどきぃ」
「ボクたちこっちでいいよね?」
 窓際の二名席と、わずかに隙間を挟んだ四名席。忍足たち四人は自然な流れで四名席の椅子を掴んで引く。跡部と手塚は二名席に座るしかなくなって、視線を合わせて、さっと逸らした。
「いや、俺は構わねーが……」
「俺も問題ない。元々お前と入る予定だっただろう」
 照れくさそうに視線を泳がせる跡部と、口許に手を当てながら腰をかける手塚と。入店早々面白いものが見られたと、四人は満足だった。
「ふふっ、跡部の奢りなら、高いもの頼んじゃおうかな」
「不二、テメェな。まあいい、何でも好きなもん頼んでおけ」
「跡部のそういう男前なとこ、いいよね。好感が持てるよ」
 ありがとうと言いながら、メニューの中から無難にスコーンと紅茶を頼む。滝や忍足もケーキセットを注文し、大石はクマの形をした限定ケーキをオーダーしていた。
 四人で作ったグループラインに、不二からのメッセージが入る。
『跡部に好感が持てるって言った時、手塚の手が強張ってた』
『俺も見たで。慌てたんやろか』
『さっさとくっつけばいいのにね』
『じれったいなぁ……』
 そんな風に画面の中でやり取りして、口に出せないもどかしさも味わった。
「手塚は? 遠慮すんなよ」
「…………では、このセット、ショートケーキで」
「フ、随分と可愛らしいもの頼むんだな。なら俺はシフォンケーキを」
「別に可愛くないだろう……」
 ぼやく手塚を、跡部が眩しそうに見つめる。こんな顔をしておいて、なぜまだ告白のひとつもしていないのか、やっぱり不思議でならなかった。
 ややあって、オーダーしたものが運ばれてくる。大石は可愛らしいクマのケーキをスマホのカメラに収めていた。どうも自分の相棒を思い出してしまったらしい。
「英二にうらやましがられそうだけど」
「目に浮かぶよ。ねえ、英二は気づいてるの? あれ」
「あ~……いや、どうだろ。たぶん気づいてない」
「そっか。巻き込んだら面白いかと思ってたけど」
 肩を竦め、不二はセットの紅茶を口に含む。
「ウチの方も、気づいとるかもってのはおるけど、これ以上多くなったら追っかけられへんしなあ」
「それはあるかも。多くなったらそれこそあちらに気づかれそうだし。このままでいいんじゃないかな」
 そう言って、滝はちらりとあちらを見やる。視線の先で、まだ口をつけていないフォークで相手のケーキを分けてもらう鈍感バカ二人がいた。
 思わず自分のフォークを取り落としそうになった滝だが、カップをガツンと乱暴に置く他の三人も、似たようなものだった。
「ああ、こっちもなかなか美味いじゃねーの」
「思ったより柔らかいんだな。分けてくれてありがとう、跡部」
 相手に分けてもらった一口分のケーキを食べ終わって、跡部と手塚は満足そうに頷く。そうしてようやく、自分が頼んだケーキにフォークを運んでいた。
 隣のテーブルで、四人は項垂れる。何を見せられたのかさっぱり分からないと言ったふうに、何も口にできなかった。
『ねえ……今の』
『なんであれで付き合ってないの? 完璧恋人同士じゃないか』
『実はもう付き合おうとるとかなん?』
『俺たちは今何を見せられたんだ……』
 ラインに次々と入ってくる困惑。友人同士でケーキをシェアというのはおかしなことではないが、手塚と跡部が と思うとハテナマークだけが波のように押し寄せてくる。
「あ、そ、そうだ景吾くん、聞いた? 数学の山本先生、結婚するって」
「へえ? そりゃめでたいな。学校を挙げて祝ってやろうじゃねーの」
「中学時代から付き合ってた人がお相手らしいよ。純愛だよねえ」
 滝が続けた言葉に、跡部が息を呑んだように見えた。
 そうか、と紅茶に落とされた視線は持ち上がらなくて、四人は悟る。跡部の恋はまだ叶っていないのだと。
 彼が望むのならば力を貸してやりたいが、と滝は忍足と顔を見合わせる。
「中学の頃から……ずっと相手のことが好きだったということだな。その一途さには敬意さえ抱く」
 だが、手塚が口にしたその言葉にハッと顔を上げた。
「そうだな。末永い幸せを祈るぜ」
「ああ、そうしてやってくれ」
 そうして、救われたとでも言うように頷いて笑う。手塚もそれに、満足そうに頷いた。
 二人の間に流れる穏やかな空気に、自分たちが彼らの末永い幸せを堂々と祝えるのはいつだろうかと四人は呆れた気分で息を吐いた。


お題:リライト様 /じれったい奴等め
#お題 #両片想い