No.698

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少しばかり優しすぎる

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.17

#お題 #片思い

 馬鹿な男がいたものだ、と思う。それは何も、たった今思い始めたものではない。 ずっと、ずっと、気に掛…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

少しばかり優しすぎる

 馬鹿な男がいたものだ、と思う。それは何も、たった今思い始めたものではない。
 ずっと、ずっと、気に掛かっていた。
 手塚国光といえば、日本の中学生男子テニスの世界で、その名を知らない者はいないとまで言われているプレイヤーだ。
 俺も俺で、名を知られているが、手塚は俺とはまた違った意味でカリスマ性がある。プレイを観たい、ボールを受けたい、打ち負かしたい――そんな思いと、この男に認識されたい、プレイヤーとして爪痕を残してやりたいという二種類の思いがある。
 俺が手塚に抱く感情は、打ち負かしたいというもの。
 ――だった。過去形になったのは、あの日の試合を境にだ。
 いや、正確には今でも打ち負かしたいんだ。だけど圧倒的な力の差を見せつけてという昔の願望は、とうになくなった。
 手塚と俺との間に、圧倒的な力の差など有りやしねえのさ。
 対戦して分かった。
 力どころか、テニスに懸ける想いの強さにさえ、差がない。
 俺が意図的に攻め立てた左腕。持久戦を匂わせたのは俺の方で、受けて逆に挑んで来たのは手塚の方だ。なんて馬鹿なヤツだと思ったのが、最初。
 結局、肘をかばって肩を痛め、リハビリにと九州へ向かったこの男の復帰を、俺は誰よりも望んでいた。
 もう一度、戦いたい。
 どの口が言うんだと思うが、それは俺の確かな本音だった。
 果たして、手塚国光はリハビリを経て全国大会で復帰したわけだが、さすがに再戦は叶わなかった。立海の真田とはまた無茶な戦い方をしたようだったが、どこまで馬鹿なんだ。
 しかし完治したとこの男は言うが、爆弾を抱えてしまったことには変わりがない。元々の肘は俺がかかわったものじゃないが、肩は――俺が壊させたものだろう。初めての対戦で、認識をさせるどころか、傷跡を残してしまったんだ。
 後悔をしたかどうか。悩むことさえ、手塚に申し訳ないような気がした。
 だがあの怪我がなければ、俺は手塚の本質を見誤ったままだったし、自分の限界がまだ先であることも知らなかった。
 お門違いも甚だしいと思うが、俺はそういう意味では手塚の怪我に感謝をしていた。
 恨まれても、憎まれてもいい。むしろそうあるべきだと思った。
 相手の弱点を攻めて勝ち続けてきた俺だ、今さら悪役を降りたいなんて言うつもりはない。弱いところを攻めるのはセオリーだなんて言い訳も必要ない。
 俺はただ、自分の力を見せつけるためだけにそうしてきたんだ。紛うことなき悪役だ。
 恨まれても、憎まれても構わない。そう思う裏で、手塚には嫌われたくないなんて、勝手なことを考えたことがある。
 手塚国光というプレイヤーの、がむしゃらなまでの情熱を最初に引き出したのは俺だと、馬鹿なことも考えた。
 後悔と、感謝と、恐怖と優越感。
 そんなものを抱く俺を、コイツは友人だとほざきやがる。
 怪我をさせた上に、個人としてはちゃっかり勝ちをもぎ取っていった、対戦校の元部長をだ。
 馬鹿じゃないのか。
 普通は悪感情を抱いておかしくないのに、どうして。何を食って育ったら、そんなふうになるんだ?
 さらに、コイツは俺を心配しているという。本当に掛け値なしの馬鹿だ。
 俺が急いでいるように見える、と嫌なことを指摘してきやがる。
 俺はいずれ、跡部を継がなければいけない。自由にやれているうちに、好きなだけテニスに打ち込もうとしているのが、自分でも気づかないうちに行動に表れてしまっていたんだろう。
 無意識というのは怖いものだが、まさか寄りによって手塚に見抜かれるとは。俺もまだまだ未熟だぜ。
 言ってくるのなら、そうだな、樺地あたりか。それならまだすぐに納得もできるし、休んでほしいという思いも素直に聞いてやれる。
 それなのにどうして、最初に言ってくるのがコイツなんだよ。
 なんで、俺は泣きたいくらいに嬉しいと思ってるんだ。
 肩に触れさせてくれたことが、寄りかからせてくれることが、どうしてこんなに嬉しいんだ。
 嫌われてはいない。憎まれてもいない。恨まれてもいない。それだけでいいのに、心配してる、なんて。
 速い心音を聞かれたくない。
 十分で起こせと言ったが、こんな状態で寝られるわけがねえだろ。
 なんでなんだよ。
 どうして今、気づくんだ。
 これが初めての恋だなんて。



お題:リライト様 /少しばかり優しすぎる
#お題 #片思い