華家
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No.693
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.12
#お題 #両想い
手塚の部屋で、二人で勉強をするはずだった。いや、確かにしていた。テーブルにはちゃんとテキストとノー…
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン
お題:リライト様 /とけかかったアイス
favorite いいね ありがとうございます! 2025.03.12 No.693
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手塚の部屋で、二人で勉強をするはずだった。いや、確かにしていた。テーブルにはちゃんとテキストとノートが開いたまま置かれている。
だけど今、どうしてか二人の唇は重なっていた。
あの夏の試合から仲良く(?)なってしまって、互いの家を行き来するような間柄になった。
おかしなのは、友人をすっ飛ばして恋人のような関係になってしまったことだ。
指先が触れたのがきっかけか、それとも視線が重なったのがいけなかったのか。最初にどちらがしかけたのか、もう思い出せないけれど、唇を重ねたのは先月の初め。
その後も、特に言葉で想いを伝え合ったわけではない。そもそも、どうしてそんなことになったのか分からないのに、無責任に言葉を交わすことはしたくなかった。
言葉を交わさずに唇を合わせることは無責任ではないのかといえば、まあ無責任ではあるのだが。
「手塚、そこ綴りが違う」
「……ああ、気づかなかった」
勉強の内容は、主に語学。ドイツ語だ。手塚が日常会話くらいはマスターしたいというのを、跡部が手伝っている状態だ。
手塚は卒業したらドイツに行くというのを跡部は知っていて、ああプロになるのかと、まるで何でもないように背中を押した。「お前なら当然だろう」としたたかな笑みで。
手塚はそれに、無言で頷くしかできなかった。
卒業したら物理的な距離が生まれてしまう状態だが、そうしたらこの関係はどうなるのだろう。
たまに逢ってテニスをして、時折キスをするという、恋人みたいな関係は。
遠距離になるからと、卒業をきっかけに一切を止めるべきなのか、それとも継続させてもいいのか。
それは、互いの間でまだ話題にされていない。答えが出てしまうのが怖いのかもしれない。恐らく、頷く他にないからだ。
何かを約束できるような付き合いの長さはないし、立場的にも、世間的にも、おおっぴらに恋人宣言もできない。そんな曖昧な関係を、続けていていいわけがない。話題にすれば、待っているのは別れだけだろう。
だから、おいそれと話題にできない。
別れたくないと思うから、音にできない。
それを考えると、やはり好きなのだろうかと、改めて思う。お互いに何も言っていないせいか、自分の気持ちさえ曖昧だ。
キスをしたいとは思う。その先も、機会があればしてみたいとも思う。興味が本位というわけでもないと思う。
正式に交際を申し込んでいるわけでもないのに、別れというものは発生するのか。なんてことも思うが、時が来れば嫌でも生まれてしまう。
ちゃんとした恋人になっていれば、距離ができても平気だろうか? 頻繁に逢えなくなっても、好きでいられるだろうか? 好きでいてもらえるだろうか?
そんな保証はどこにもない。
やはり、自分だけの我が儘や寂しさで、彼を縛り付けるべきではない。そう思った頃、部屋のドアがノックされた。
「はかどってる? おやつ持ってきたの」
それは手塚の母親である彩菜で、二人分のアイスクリームと紅茶をトレーに乗せて顔を出した。手塚はそれを受け取り、少し休憩しようと跡部を振り向いた。
「ああ、そうだな。ありがとうございます、いただきます」
「跡部くん、おうちが大丈夫だったら夕ご飯も食べていって。ね」
急にそれはと言い掛けた手塚を遮って、「ご迷惑でなければ是非」と跡部は答える。そうして彩菜が部屋を後にしてから、家に連絡を入れた。
「構わないのか?」
「女性の誘いを断れるわけがねえだろ。しかもお前の母親からのなんて。楽しみだぜ」
「いたって普通の食事なんだが……お前がいいのなら。ひとまずこれを食べよう。とけてしまう」
きちんとガラスの器に盛られたバニラアイスを、跡部に差し出す。
「ああ、サンキュ。しかし、なんていいタイミングで持ってくるんだ、あの人は。これで頭を冷やせる」
「なんだ、何か悩み事か?」
「少しな」
「そうか……実は俺も、少し悩んでいた。先ほど綴りを間違えたのもそのせいだろう」
言いながら、アイスを口へと運んでいく。冷たい感触は確かに頭を冷やしてくれる。甘ったるいこの味は、おかしな感覚を生み出しそうでもあったけれど。
「なんだよ、悩み事って。せっかく俺様が教えてやってんだから集中しろ」
「いや、お前が傍にいるから集中できないんだが」
「アー、……ン?」
頭を冷やそうと思ったのに、アイスが運ばれていく口許に視線がいってしまう。完全に勢いで、その唇に触れてしまった。
「……お前なぁ……」
「すまない、つい」
「つい、じゃねえよ、バカ」
そう言いながらも、跡部は手塚の眼鏡に手を伸ばしてそっと外した。
「するならするで、ちゃんとしやがれ」
指先で誘われて、もう一度キスをする。仕掛けたのは手塚で、煽ったのは跡部の方。
「甘い匂いがする」
「舌が冷てぇ」
「跡部、あとで聞いてほしいことがある」
「……ん、あとでな……?」
言ってみてもいいのかもしれない。ちゃんと恋人同士になりたいと。遠距離だろうがなんだろうが、つながっていたいのだと。
このキスは、少し長くなりそうだけれど、その後で。
#お題 #両想い