- きみに逢いに 2026/02/22 11:10:24 NOVEL,テニプリ,塚跡
- クリスマスには早いけど 2025/12/25 00:00:00 NOVEL,テニプリ,塚跡
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カテゴリ「塚跡お題100本マラソン」に属する投稿[100件](9ページ目)
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.19
甘酸っぱいセンチメンタルの続き 撥ねのけられなかった。 どういうことだ、と跡部景吾の頭にハテナマーク…
恋愛対象というものは
甘酸っぱいセンチメンタルの続き
撥ねのけられなかった。
どういうことだ、と跡部景吾の頭にハテナマークだけが押し寄せてくる。想像では、勢いよく撥ねのけられることはないにしろ、「すまないそういう趣味はない」と拒絶される道しかなかったのだけれど。
「………………何か言えよ」
手塚はずっと押し黙ったままだ。しびれを切らして、跡部は意を決して彼を振り向いてみた。そうして初めて気がつく。
手塚国光がぽかんとした表情をしていることに。
「は?」
思わず跡部も変な声が上がった。それはいったいどういう感情からの表情なんだ。いいのか悪いのかだけでもはっきりさせてほしい。
フラレる覚悟は、一応、できて、いるのだから。
「跡、跡部……それはつまり、どういうことだ」
だが手塚から返ってきたのは、拒絶でも許容でもなかった。どこまで鈍いんだと、天井を仰ぐ。そんな男に惚れてしまった自分が悪いのかと、大きくため息を吐いた。
「分かんだろうがよ、手なんか握ってりゃ!」
言いながら、重ねた手を互いの目線まで持ってくる。ただの友人としか思っていない相手の手なんか、握りたいとは思わない。
少なくとも、跡部はそうだ。
「では、俺に都合の良いように解釈して構わないのか?」
手塚は友人と手を繋ぎたいと思うような男なのだろうか、と思いかけた時、ぎゅっと手を握り返される。今度は跡部が、ぽかんと口を開ける番だった。
「え、都合、の、良いように……って、なんだ」
「お前こそ、鈍い。俺はお前を恋愛対象として見ているんだ」
「――は!? ちょ、……っと待て、なんでだ!」
にわかには信じられなかった。手塚の方も、同じ気持ちを抱いてくれていたなんて。
「待て、落ち着け手塚。恋愛対象ってものはな、普通は異性だ。いや、だからってお前を好きな気持ちが異常だなんて言いたかねえが。……本気、なんだよ。同情ならよしてくれ」
「そっくりそのまま返すが。一緒に観ようって言われた時、どんなに嬉しかったか説明してやりたい」
握りしめられた手が、口許に持っていかれる。
責めるようにも、噛みしめるようにもそう呟く手塚の吐息が手の甲に感じられて、跡部の頬が真っ赤に染まった。
「え、越前たちのアレに触発されただけってのは」
「ない。もういい加減に受け入れてくれ、跡部。俺も今必死に、夢ではないと言い聞かせているんだ」
「げ、現実なのかよこれ……」
「過去にタイムスリップするよりは現実的だと思うが」
さらに手を引かれ、背中からぐっと抱き寄せられた。急な接近に対処ができず、跡部はそのまま手塚の肩に額を預ける。
「〰〰お前あの映画ん中で、普通にタイムスリップ受け入れてたくせに……!」
嬉しくて、照れくさくて、気の利いた言葉が出てこない。跡部景吾ともあろうものが、こんなことで動揺してどうするのだと己を律したいが、
「跡部、お前ならリターンはどこに打つ」
耳元でそんな台詞を囁かれ、堕ちた。
手塚にばかり言わせたままでは、それこそ跡部景吾の名が廃る。仕返しに、跡部も手塚の耳元に囁いてやった。
「好きだぜ手塚ァ。大人しく俺に捕まっておくんだな」
お題:リライト様 /恋愛対象というものは
#お題 #両片想い #映画ネタ
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.18
跡部の部屋の大きなテレビで、映画を観た。 越前リョーマを主人公とした、歌とダンスとテニスという、驚…
甘酸っぱいセンチメンタル
跡部の部屋の大きなテレビで、映画を観た。
越前リョーマを主人公とした、歌とダンスとテニスという、驚きの要素たっぷりのものを。
「ただの同級生、ねえ……」
肘掛けに頬杖をついて、跡部はなんだか楽しそうに笑っている。画面には、越前がマフィアのたまり場に乗り込んだ場面が映っていた。
「竜崎とは付き合ってんじゃねーのかよ、あの王子様」
「ただの同級生だというんだから、特別な交際はしていないんじゃないのか?」
「いや、ただの同級生のためにマフィアんとこに乗り込んでいくのかよ。命知らずにもほどがあんだろ」
まあ危険極まりない行動ではあるな、と手塚も腕を組んで頷いた。間違って攫われた同級生と自分とを交換しろというのは潔い取引のような気もするが、無謀すぎる。
「竜崎の方はどうなんだ? 越前に惚れてたりすんのか」
「どうだろうか。仲良くテニスをしているところは、何度か見かけたことがあるが……そういう好意があるかどうかまでは分からない」
「役に立たねえな」
チッと舌を打たれて、手塚は眉を寄せた。確かに、色恋沙汰にはとんと疎い手塚だ。そういう話題の役になど立たないだろうが、貶されるのは嬉しくない。
しかも、好きな相手には。
手塚は跡部のことが好きだった。もちろん、恋愛としての意味で。
テニスを通して知り合って、連絡先を交換して、放課後や休日には何度か打ち合うくらいの間柄になれたのはいいが、その先の関係には発展できるのかどうか。
難しそうではあるが、絶対に無理だとは言い切れないような気もする。
少なくとも、友人と思ってくれてはいるのだろう。こんなふうに家に招いて鑑賞会などするのだから。最初は確か、昔の世界大会を観ていたのだが、それが終わったあとのこれだ。
これもテニスに関していなくはないし、自分たちもまったく関わりがないとは言えない映画だ。二人で観るのに、なんら異論はない。
こちらとしては、むしろ一緒にいられる時間が延びてとても嬉しい。
好意は、持たれていると思う。
だがこの関係を訊かれたら、先ほどの越前と同じように、「ただのテニス仲間」と答えられそうだ。それならまだいい。「倒すべき好敵手」の方が合っているかもしれないと、指先で額を押さえる。
どうにか進展しないものだろうかと、跡部の横顔を盗み見る。相変わらず綺麗な顔をしているなと、頬が染まるのを感じた。
「なんだよ、手塚」
振り向かないままで名を呼ばれ、ぎくりと心臓が嫌な音を立てた。なぜ気づかれたのか分からないと、何も答えられないでいたら、ふっと笑いながら跡部が振り向いてくる。
「お前の視線に気づかないわけねーだろ。アーン?」
今度こそ頭を抱えたくなった。人の気も知らないで、期待するようなことを言わないでほしい。
それはつまり、手塚が跡部を見過ぎているということではないのか。いや、それとも本当に、跡部が自分を気にかけてくれているということだろうか。
「…………もしお前が人質に取られたら、俺はどうするだろうなと考えていた」
じっと見ていたことに、何かそれらしい理由をつけなければと、一切考えたこともなかった仮定を呟いた。呟いてみてから、なんて馬鹿なことをと自分に呆れもする。
「なんだよ、助けに来てくれんのか?」
「それは行くだろう。だが、助ける前にお前は自分でどうにかするに違いないと思った。テニスの勝負は喜んで受けるだろうし、その上で何か交渉するしたたかさがある」
想像をしてみて、大人しく捕まっている跡部景吾というのがまったく頭に浮かんでこなかった。むしろ嬉々としてラケットを構える方が彼らしい。
そう、思ったことを素直に返してみれば、跡部は肩を震わせて笑い、やがてそれを高笑いへと変えた。機嫌は損ねていないようで安堵する。
「いいな、手塚。最高じゃねーの」
「そうか」
「俺のことちゃんと分かってくれてるって思うぜ。けど、お前も大人しく捕まるようなタマじゃねーよなあ。どう考えても。助けに行き甲斐がねえ」
ぽん、と肩を叩かれる。急に距離を詰められて、心臓が鳴った。キラキラとした金の髪が眩しくて、手塚は思わず目を細める。
「助けに来てくれるのか」
「まあお前が困ってりゃな。何を置いても助けに行ってやる。でもな、やっぱり俺も、ヤクザだろうがマフィアだろうがテニスで打ち負かしてるお前しか想像できねぇ」
楽しそうに笑う跡部が、やはり好きだと手塚は思う。理解してくれていると彼も言ったように、彼も手塚国光という男を理解してくれている。それが嬉しくて、思わず口許が緩んだ。
「てづ……」
どうしてか、跡部が声を飲んで目を瞠る。何か言いたげで、だけど何を言ったらいいか分からないような表情をしていた。
「跡部? どうした」
「い、いや、なんでも」
ふいと跡部が顔を背けた頃、画面は越前と竜崎が教会に入ったところだった。ナイフで切られてしまった髪を留めるといい、とリボンを投げてよこす越前の行動に、「キザだな」と跡部が呟く。
「竜崎が越前に好意を持っていたら、これは……嬉しいのだろうな」
「そりゃそうだろ。惚れた男が髪を気にしてくれてんだぜ」
そうして、三つ編みを直すのではなく解いてポニーテールへと変えた竜崎の姿に、越前はなんとも言えない表情をする。普段とは違った髪型に、心臓がおかしな音を立てたらしい。
「いやこれ越前のヤツ絶対竜崎に惚れてんだろ。なあ」
「ただの同級生、ではなくなったかもしれないな」
「甘酸っぱいじゃねーの。こいつらはうまくいってほしいもんだぜ」
苦笑する跡部に、手塚の中で何かが引っかかる。越前と竜崎にうまくいってほしいという気持ちはよく分かる。後輩のピュアな恋は応援も見守りもしてやりたい。
「……こいつらは、というのは……どういう意味だ? 跡部、お前もしかして……好きな相手がいるのか」
引っかかったのは、そこだ。彼らは、というのなら、うまくいきそうにない恋が身近にあるのだ。もしかしたら、自分自身の。
「え、あ、いや、えっと……」
珍しく不明瞭な答えに、確信した。跡部自身の恋なのだと。
ということは、自分の恋もうまくいかないということになるなと、手塚は痛む胸に手を当てる。
「……ただのテニス仲間に言われてもあれだろうが、……うまくいくことを祈っている」
めいっぱい気持ちを押し殺して、そう告げてやると、跡部の顔が寂しそうに沈んでいく。そんなに絶望的な恋ならば、いっそ俺を好きになってくれと言ってやりたい。
「…………ありがとよ、鈍感テニス馬鹿」
ふいとそっぽを向かれて、ハテナマークが押し寄せてくる。
いったいどういうことだと訊ねかけた手塚の手の甲に、そっぽを向いたままの跡部の手が重なってくる。
「……嫌なら撥ねのけな」
それが意味するところをにわかには信じられなくて、手塚は目を見開いたまま、間抜けにもぽかんと口を開ける。
テレビ画面の向こうで、何匹もの黒いにゃんこが越前の手から飛び出していった。
お題:リライト様 /甘酸っぱいセンチメンタル
#お題 #両片想い #映画ネタ
友達は恋人未満か否か
友人よりは、もう少しくらい親密。
だと思う。そう思いたい。
何しろ自分はあの男が好きなのだ。友人では物足りない。親友では駄目だ、恋人という関係になってみたい。
連絡先は知っている。主にテニスの誘いが会話の内容だが、たまに他愛のないやり取りだってする。
会話の最後には必ず「おやすみ」と入れてくれる。だからただの友人よりはほんの少し、ほんの少し親密だとは思う。
よくある「友達以上恋人未満」というヤツだ。
いや、かなり盛った。恋人ではないから、恋人未満というのは間違いでもないけれど、実際はそんなにいい雰囲気のことはない。テニスをするのは楽しいし、読書も誘えば付き合ってくれる。だけど、それだけだ。
もう少し親しくなりたい。逢うのに大した理由をつけなくてもいいくらいには。
誘ってみようか。次の土曜日。
テニスでも、それ以外でも構わない。顔が見られるのなら。声が聞けるのならば。
傍であの男の名を呼べるなら、あの男が俺の名を呼んでくれるのならば、なんだって構わない。
アプリを立ち上げようとして、先に彼からのメッセージ通知が来たときには、テレパシーかと馬鹿みたいに浮かれてしまった。
お題:リライト様 /友達は恋人未満か否か
#お題 #両片想い
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.16
あり得ない、と思った。 どうしてよりによってこの男なんだと、頭を抱える。 違う、違うと思いたい、違…
俺を惚れさせたんだ、覚悟しろ
あり得ない、と思った。
どうしてよりによってこの男なんだと、頭を抱える。
違う、違うと思いたい、違うはずだ。何度もそう否定するのに、否定するためにこの男のことを考えなくてはいけなくて、沼にハマる。
手塚国光は、目の前で優雅に紅茶の香りを楽しんでいる男をじっと睨みつけた。その男の名は、跡部景吾。
どうやら恋をしてしまった相手、だ。
初恋の相手が同性であることはまあ、理屈と感情に折り合いをつけて、どうにか納得することができる。
よく考えれば初めてなのだから、これが本当に恋と呼ぶ代物なのかも分からないではないか、と腕を組んで椅子の背にもたれた。
たとえ毎日でも顔が見たいなんて思っていたとしても。
そういえば声を聞きたいと思うことが多かったとしても。
いつだか不埒な夢に出てきたことを認めなければならないとしても。
これが恋だと、誰が決めるというのだろう。
ただの勘違いかもしれない。浮かれているだけだ。
しかし跡部に逢うのになぜ浮かれるのかという疑問が出てきて、思考がループする。
顔が見られて満足ではあるが、こんなことで満足しきってたまるかと苛立ちが募る。
声が聞けて嬉しくは思うが、もっといろんな声を聞きたいと思ってしまうのが腹立たしい。
「……手塚、今日何か機嫌悪いな?」
声をかけられて、ハッとする。困ったような表情に、胸が痛んだ。
「いや、特にそんなことはない」
「フン、その仏頂面で不機嫌そうに腕組んでおいて、よく言うぜ」
「この顔はいつもだが」
「違うな。少なくとも先週は、もう少し表情が柔らかかった。何かあったのか? 俺は力になれることがあるんなら、遠慮なく言え」
わずかに身を乗り出してまで、跡部がそう返してくる。そんなふうだったのかと思うと同時に、どうにもしようがなくなって天を仰いだ。
どうしてくれようか、この男。面倒見がいいというのも考え物だな。その心配りは、俺が特別だからではない。
「おい手塚、聞いてんのか。俺は真剣にお前を」
顔を上に背けて何も返さない俺に怒っているのか、跡部は声に怒気を混ぜる。
ああ、こちらだって真剣にお前を――好きなんだが。
もう認めてしまおう。跡部景吾が好きなのだと。
抱きしめてキスをして、その素肌に触れてみたいのだと。
言ってやったらこの男はどんな顔をするのだろう。そうだな、それを考えると楽しみにもなってきてしまった。
「跡部」
「な、なんだよ」
「聞いてほしいことがある」
意を決して跡部に向き直ると、力になれると思ってかパッと顔が華やぐ。いい加減にしろ。
「絶対に驚くはずなんだが、跡部。俺はお前を――」
さて、俺を惚れさせたのだから、それなりの覚悟をしてもらおう。腹をくくった以上、お前を逃がすつもりはさらさらないのでな。
お題:リライト様 /「俺を惚れさせたんだ、覚悟しろ」
#お題 #片想い
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.15
跡部の匂いがする。 手塚にとって、薔薇の匂いは跡部の匂いだった。薔薇の匂いとして認識するより先に、…
何でこんなにいい匂いがするんだろ
跡部の匂いがする。
手塚にとって、薔薇の匂いは跡部の匂いだった。薔薇の匂いとして認識するより先に、跡部の匂いだとインプットされてしまっている。
そのせいか、花屋の前を通るとつい足が止まってしまう。当然そこに跡部の姿などなく、美しい薔薇を前に残念な気持ちで一杯になるのだ。
「手塚って、花好きだったっけ?」
「いや、好きというわけでは……」
隣を歩く大石にそんな様子を気づかれて、訊ねかけられる。そんなにあからさまだっただろうかと思い起こして、そうだったかもしれないと眉間にしわを寄せ眼鏡を押し上げた。
別に、跡部の匂いを頻繁に嗅ぐような間柄ではないのだ。学校も違うし、特別親しいというわけでもない。テニスを通して互いを知っているという程度だ。
ただ、互いに部長であることと、生徒会を受け持っているということから何かと共通の話題が多い。練習メニューや学校の企画など、ためになることもたくさんあった。
跡部の方から声をかけてくることが多いけれども、手塚からも声をかけないわけではない。友人かと言われれば違う気もするが、しかしただの知人と言い切るには少し親密ではある。
一緒に歩いている時、話に気を取られていたのかわずかな段差に気づかず跡部がよろめいたことがあった。それを抱き留めた際、良い匂いがしたのを今でも覚えている。
シャンプーか、ボディソープか、はたまた柔軟剤か。
そこで香水かという思考に行き着かないのが手塚国光である。それはともかく、その時の香りを今でも忘れられない。
それからというもの、跡部に逢うと自然と距離を詰めてしまうのだ。そして今日もいい匂いだなんて思う。
だけど、自分でその香りを纏いたいとは思わない。何が原因の香りかはまだ分からないが、跡部だから似合うのだと思っている。たとえば自分からあの香りがしても気味が悪いだけだ。
「薔薇の香りというのは……よく使われているものだろうか」
「え? そうだな、柔軟剤とか消臭剤とか、よく見かける気はするけど。制汗剤とかにもあるんじゃないか? 女子向けだろうけど」
「手塚、誰か気になる女性でもできたのかな。香りが気になるとは、なかなか色っぽい話じゃないか。香水でもプレゼントしてみたらいいんじゃないか?」
「そういう話ではないんだが」
乾が、ノートを取り出してメモを書き込み出す。完全に面白がっているようだ。
そもそも気になる香りを纏う相手は女性ではない。色っぽい話になるわけがないと、息を吐いてふるふると首を振った。
「やけに記憶に残る香りだというだけだ。別に好意を持っているというわけでは」
ないと言いかけて、ふと思いとどまる。
好意を持っていないかといえば噓になる。何しろ相手は天才的なオールラウンダー・跡部景吾だ。
技術に加えてテニスに対して真摯な態度は、好感が持てる。氷帝の部員たちを率いる技量だけでも尊敬に値するし、カリスマと呼ばれているのも頷ける。彼に対して、悪意はない。好意と言えば、好意だ。
香りが気になるというのも、跡部でなければこんなに気にしたりしないだろう。
他の誰かだったりしたら、単にいい匂いだなと思うだけだ。
こんなに何日も何日も考えたりしないし、逢うたびに近くに行ってまで香りを堪能しようとは思わない。
「相手の香りが脳に残っているというのは、どういう状況だろうか」
「…………好きなんじゃないか? いい匂いだって思ってるんだろう?」
「俺もそう思うよ、手塚」
「いや、相手は男性なんだが」
「おっとそうきたか」
大石が項垂れて額を押さえる。乾も、眼鏡を押し上げて言葉をなくしている。やはり、恋愛という方面ではあり得ないという反応だろうと解釈して、どこかで安堵してしまった。
だって、まさかあの跡部景吾に恋をしているなんて思えない。
「うーん、まあ印象的な相手だってことは間違いないと思うけど。憧れとか、ほら、あるだろう?」
大石はそう言うけれど、手塚はしっくりこなくて頷いてやれない。
憧れというのは、跡部に対して抱いているものとは違うような気がする。多彩な技を持っているのはすごいと思うが、それは彼のプレイだからこそ活きるのだ。
跡部は憧れよりももっと近い存在で、だけど、遠い存在だとも思っている。
顔が見たい。そうすれば、この気持ちがどんなものなのか明確に分かる気がすると、手塚は眉間にしわを寄せたその時。
なんの因果か運命か。
道路の反対側に、跡部景吾の姿を見つけてしまった。ちょうど車に乗り込むところで、視線がかち合う。
「跡部」
「よう、手塚じゃねーの! また妙なとこで逢うもんだな」
跡部のよく通る声が耳に届く。彼は車に乗り込むのをやめて、安全を確認してからこちら側へと渡ってきた。胸がざわついて、指先がそわそわと落ち着かない。
「やあ跡部。奇遇だね」
「ああ、元気そうでなによりだ」
「近くに用事でもあったのかい」
「ちょっとそこの画廊にな。いい絵があったんだ」
なるほどと三人で頷く。画廊と言われてもどこにあるのか、どんなものが飾ってあるのかも分からないが、跡部がいい絵だと言うのだからそれなりに値の張るものなのだろう。
何にしろ、逢えたのは嬉しい。
やはり今日もいい匂いがする、と鼻から息を吸い込んだ。
薔薇の香り――いや、跡部の香りだ。
だけど嬉しいばかりで、この気持ちがなんなのかさっぱり分からない。
逢いたいし、顔が見たいし、声が聞きたい。できればもっとずっと近くでその匂いを嗅いでみたい。
それがいったいどういう感情から生まれる物なのか、逢ったら分かると思っていたのに。手塚は顎に手を当てながら考え込む。だが、そう簡単に答えは出てきそうになかった。
「テメェらせっかくだ、どこかでティータイムとしゃれ込むか?」
言いながら、跡部は顎で車を指す。もう少し一緒にいられるのだなと思い頷いて、この際だと手塚は跡部に向かって訊ねかけた。
「俺は構わないが。その前に跡部、一つ訊きたいことがある」
「アーン?」
大石と、乾と、跡部の不思議そうな視線が集まってくる。手塚は跡部の視線だけを見つめ返した。
「なぜお前は、いつもこんなにいい匂いがするんだ?」
ずっと気に掛かっていたと続けると、傍で大石と乾が硬直したようだった。
「おっと……こりゃ……たいへん……」
「この可能性は考えていなかった。データ不足か」
そう呟く声が震えているようにも思えたが、手塚は跡部の答えの方が気になる。
「なんだ手塚、この香りに目ぇつけるなんてさすがじゃねーの。俺専用に調合した香水だからな」
跡部は機嫌が良さそうにそう返してきてくれた。なるほどオリジナルの香水なのかと納得して、跡部らしいその発想に「そうか」と答える。
「なんならお前にもやろうか?」
「いや、俺には合わないだろう。お前だから似合うんだ」
「テメーもなかなか言うようになったな。さて、じゃあ乗れよ、車。紅茶が美味しいところにつれてってやる。無論、俺様の奢りだぜ」
跡部は大石たちを振り向いて促す。けれども、二人はどうしてか遠慮がちに手のひらを向けている。
「い、いや、俺たちはいいよ。せっかくだけど遠慮させてもらう」
「積もる話もあるだろう。うん、二人で行ってくるといい」
「アーン? 手塚と二人で積もる話も何もあるかよ。まあ無理にとは言わねえが。お前は来るだろ、手塚」
手塚は一も二もなく「ああ」と頷く。大石たちのおかしな様子は気に掛かるが、そんなことより跡部と一緒にいたい。もしかしたら、何か分かるかもしれない。もっと、近くにいれば。
「では二人とも、明日また学校で」
そう言って、先に歩き出した跡部を追いかける。足取りが軽くなってしまう理由も、やっぱりまだ分からない。
「手塚、跡部のこと好きみたいだね……気づいてなさそうだけど」
「あの様子じゃ、しばらく気づきそうにないな。理解した時、手塚がどうするのか見物ではあるが」
「手塚のことだからすぐに告白すると思うなあ」
「跡部からの告白を食らうかもしれない。向こうも好意はありそうだと思わないか」
「ど、どうだろう。まあ、応援はするよ。けどまあ、ここに英二がいなくてよかった。絶対に騒ぎ立てるからな、アイツは」
「ああ、目に浮かぶようだよ」
そんな会話が繰り広げられているとは知らず、手塚国光は車の中で跡部景吾の香りを楽しんで、満足げにしているのだった。
お題:リライト様 /「何でこんなにいい匂いがするんだろ」
#お題 #片想い #無自覚
お前の笑顔、好きかも
整った容姿だなと、ふと思う。隣を歩いていると、男女問わずに視線が向かってくるのは、きっとみんなが跡部を見ているせいだろう。
だが当の跡部はそれを気にも留めていない。いちいち気に留めていては気力が保たないということだろうか。それくらいに、意味深な視線が多かった。
「いつも思うが、あの不躾な視線はどうにかならないのだろうか」
「アーン? 何言って、……ああ、なるほどね」
俺が何を言いたいのか悟って、跡部は言葉を句切る。苦笑した口許に思わず目を瞬いた。なぜこの場面で、心臓が痛むのか分からない。
「俺はもう慣れちまってるし、不躾ってほどじゃねえだろ。好奇に満ちた視線なんて、可愛いもんだぜ」
「お前は、嫌ではないのか?」
「俺様に見惚れて向かってくる視線は、別に嫌じゃねえよ。美しい物に目が行くのは別におかしなことじゃないだろ」
「……そうか。お前が気にしていないなら、俺が気にしてもしょうがないな」
自分の容姿を自覚しているにしても、すごい発言だな。
跡部でなければ、呆れてもしまうのだが、跡部ならばその言葉もなんら不思議がない。
美しい、と大袈裟な表現はできないが、跡部の顔は見ていて妙な気分になる。ずっと見ていたいような、だけどじっと見ていたら厄介なことになりそうな、ざわめきが胸を支配するんだ。
「気にしてんのかよ? まあ慣れねえと煩わしいかもな」
「それもあるんだが、何か……イライラするというか、腹が立つというか……よく分からない気持ちがわき上がってくる」
跡部が言うように、俺自身は見られるということに慣れていない。生徒会長として全校生徒たちの前で登壇することは多々あっても、それは〝俺〟が見られているわけではない。
「ふはっ、手塚、まさかテメェ、自分より俺様がモテるからって嫉妬してんじゃねえだろうなあ?」
跡部が肩を震わせながら笑う。そんなわけがないだろうと、むっと口を引き結んだ。
「気になるなら、離れて歩くか? 多少は違うだろ」
ふっと諦めのような笑いを浮かべて、跡部が歩調を速めてしまう。
「跡部」
俺はそれを思わず引き留めた。離れれば視線は気にならなくなるかも知れないが、それは道行く人が跡部を眺めるということに変わりはない。
腕を強く掴んでしまったからか、跡部が驚いて俺を振り向いてくる。
何を、どう言えば、いいんだろうか。
「…………嫌だ」
「……なんだよ」
「離れて歩くのは、嫌だと言っている。不自然ではないか?」
つい今し方まで隣を歩いていたのに、急に離れて歩くというのは、おかしい。俺たちがケンカをしたわけでもないのにだ。
「いや、俺はお前が気にしてるから」
「確かに気になる。だがどちらが重要かというのは、言うまでもないだろう」
跡部にしてみれば全くの善意なのだろうが、俺は嫌だ。腕を掴む手の力が増してしまう。
困ったような表情を浮かべる跡部には気づいたけれど、放してやれない。今放したら、距離が生まれてしまうはずだ。
「手塚、お前、ちょっと冷静になれ。何言ってるか分かってねえだろ」
「俺はいつでも冷静なつもりだが」
「どの口が言いやがる!」
放せと跡部は俺の手を振り払ってしまったが、離れてはいかないでいてくれた。俺はそれにホッとしてしまって、跡部の頬が赤いことに今気づく。
「跡部? どうした」
「テメェのせいだろ。この天然タラシが」
「よく分からんが、貶されている気がする」
「貶してはねえが褒めてもねえ。呆れてんだよ」
跡部はくしゃりと髪をかき混ぜる。そうしても綺麗な顔が崩れることはなくて、さすがだななんて思った。ただ、それでまた視線が増えたのはいただけない。あの連中は、跡部の何を見て惹かれるのだろうか。いや容姿なのは分かっているが、跡部の何を分かっているんだ。
「……なるほど」
そこまで考えてやっと、自分が何に腹を立てているのか理解した。
跡部の上っ面だけに惹かれられるというのが、気に食わなかったんだ。行きずりでは上っ面だけ見るしかないのに、それでも。
「おい手塚、お前それ、なるほどって納得してねえだろ」
「いや、納得はした。お前の中身も知らずに騒ぎ立てる連中に腹が立っていただけなのだと」
「は?」
跡部が高い声を上げる。クエスチョンマークばかりが押し寄せているようなその表情は、珍しいものを見たと思わせる。
「お前の容姿は確かに整っているが、それはすべてのことに情熱を向ける跡部景吾の魂が、外側を輝かせているんだろう。それを知らずに、と腹立たしい思いと、それを知っているのは俺だけでいいのではないかと思う気持ちが、ごちゃまぜになっている」
「もういい分かった黙れ、そしてテメェはさっさと自覚しやがれ。絶対に俺からは言わねえからな!」
顔を真っ赤にしてそう声を荒らげて、跡部は踵を返してしまう。歩調は速くて、距離が空いてしまう。隣を歩くことには納得していたんじゃないのか。
「おい跡部、待て」
「フン、追いかけてこいよ、手塚ぁ」
顔だけで振り向いて、跡部はさらに速度を上げる。笑う顔は楽しそうで何よりだが、俺は負けない。
程なく追いついて、肩を並べて言った。
「跡部、俺はお前のその笑い顔が割と好きかもしれない。ずっと見ていたいと思うのは、おかしなことだろうか」
跡部は俺の隣で、カクリと項垂れる。
唸るように「手塚ぁ」と呼ばれるが、その声も案外好きだな。そんなことを考えていたら、ギッと睨みつけられた。
「その先にある感情に気づいたら、ずっと傍で見てることを許可してやろうじゃねぇの、バーカ」
馬鹿と言われた。なぜだ。ところでその先の感情とはなんだ? これにも何か理由があるのか。それを理解すれば、ずっと傍にいられるということだな。
「分かった、その勝負受けて立とう」
勝負じゃねえよと、跡部の呆れた声すらも――可愛いなんて考えた。
お題:リライト様 /「お前の笑顔、好きかも」
#お題 #両片想い
NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.01.13
別に、特別親しい友人というわけではなかった。こうして頻繁に逢うようになっても、友人という言葉がしっ…
何か、お前といると落ち着かねェなあ
別に、特別親しい友人というわけではなかった。こうして頻繁に逢うようになっても、友人という言葉がしっくりこないくらいには、手塚国光とは交流が少なかった。
今日は土曜日。学校が休みで、部活も引退してしまった身では、ほいほいと気楽に参加するわけにもいかない。もう次の世代に託したのだからと、向こうから相談などをされない限りは首を突っ込まないようにしていた。
それゆえ、暇だ。正直に、暇だ。
家の仕事や生徒会の引き継ぎがあるとはいえ、それまでテニス漬けだったことを考えると、余った時間をどうすればいいのか分からなかった。
そこで最初に思い出したのが、この男だったというだけ。
いつ、なんのために連絡先を交換したのだったか、もう思い出せない。「暇ならテニス付き合え」とメッセージを送るまで、この男とのトーク画面を開いたことすらなかった。アイコンがデフォルトのままなのが、この男らしいと思ったのは、今月の初め。
ミン、ミン、と蝉の鳴き声が聞こえる。良い感じに日陰になったベンチで、失った水を補給した。
「あちぃな……」
「ああ、九月とはいえ、まだ日差しが強い」
隣に腰掛ける手塚も、ボトルから水分を補給している。
含みきれなかった水が雫となって、口の端から伝い落ちる。急いたせいだろうか。慌てて補給しなければいけないほど熱くなったのかと思うと、どうしてか口の端が上がった。
正直、こんなに頻繁にあってテニスをするような仲になるとは思わなかった。そもそも学校が違い、全国大会が終わるまでずっと、対戦校の部長としてしか見ていなかったのに。
いや、少し違うかもしれない。
関東大会のあの試合。頂上決戦と言われているらしいあの戦いで、少なくとも跡部の手塚に対する印象は変わってしまった。
冷静にゲームメイクをする男だと思っていたのに、全然違ったのだ。
冷静などではない。ただ勝つために、より強くなるために、ラケットを握るだけの馬鹿な男だ。
肘を、肩を痛めてまで勝つことに執着する様は、跡部だけでなく試合を観戦していた者すべてを驚かせたことだろう。
あんなにがむしゃらに球を追う男を前に、手加減なんてできるわけもなかった。手塚の熱に引きずられ、打ち返す球と一緒に自身の熱を引き出されて、跡部自身大切な試合になった。
テニスを始めて以来だ、あんなに熱くなったのは。
手塚国光は、好プレイヤーとしてでなく、好敵手として跡部の中に住み着いてしまった。
手塚とテニスがしたい。そう思うようになるまで、大した時間はかからなかったように思う。
だが、跡部は氷帝を率いる部長で、手塚は青学をまとめ上げる部長だ。まさか大会の会期中に対戦校の部長とやり合うわけにもいかず、打ち合う機会はなかった。
打ち合いたいのを我慢していた反動なのだろうか。暇さえあれば、こうして手塚を呼び出して時間も気にせず打ち合っている。
「なあ、手塚よ」
「なんだ」
そんな中で、どうしても分からないことがある。
「テメェ、他にやることねえのかよ」
なぜ手塚は、毎回毎回、きっちり付き合ってくれるのか。呼び出しておいてあれだが、誘いを断られたことは一度もない。場所と、時間。手塚はそれだけを訊ねてくるのだ。
「他に、とは? 出された宿題は昨日ちゃんと終わらせているが」
「……そういうこっちゃねえ」
この朴念仁が、と跡部は項垂れて顔を覆った。
先述したように、今日は土曜日だ。
休息をとったり、友人と――恋人と過ごしたりする時間に充てる連中が、ほとんどではないのだろうか。何を好き好んで、つい先日まで対戦校だったところの選手と朝から黄色い球を追っかけているのだろうか。
「俺にばっか付き合ってねえで、青春を謳歌しろよ」
「俺を呼び出しているのはお前の方だろう。特に断る理由もない」
「女いねえのかよ、お前」
「いると思うか?」
わずかの沈黙の後、手塚は短く息を吐いて呟く。手塚に恋人がいるとは思えないが、どうにも後ろめたい気持ちになるのはどうしてだろう。手塚国光という男を、独り占めしているように思えてならない。
そこまで思って、実際独占しているのだということに、気づく。
土曜、日曜、果ては放課後。三日と開けずに打ち合っている状態では、恋人を作りたくとも作れないだろう。
「今は、そういうことを考えられない。テニスに集中したいんだ」
「なるほどね。そりゃ分かる気もするが……もし俺とのこういう時間が嫌になったらいつでも言えよ。なんなら上手くいくように、エスコートの仕方ってヤツ教えてやってもいい」
「いらぬ世話だ。テニスに集中したいと言っているだろう。……お前と打ち合うのは、楽しい。お前は、俺とばかりで飽きたりしないのか」
手塚の、ボトルを握る手の力が少し強くなったのが見て取れる。跡部はぱちぱちと目を瞬いた。飽きるという発想がなかったせいだろう。
「気兼ねがないというのが理由なのだろうが、プレイスタイルが限定されてしまうだろう。もし望むなら他の者にも声をかけてみるが。越前なんかは喜ぶだろう」
「……いや、あの王子様が素直に喜ぶとは思えねーぜ。そもそも飽きたりしねーよ。打つたびに予想もしねえラインで返してきやがって。けど、そういうお前の球を打ち返すのは気分がいいぜ。ぞくぞくする。次はどんな球がくんのか、どうやって返してやろうかって、考えてんのは楽しいな」
「そっくりそのまま返すぞ、その言葉」
口の端を上げて笑えば、手塚の眉間にしわが寄る。
「俺はお前とテニスがしたい。それでは駄目なのか」
まっすぐ過ぎる視線が向かってくる。逸らせない。手塚ほどのプレイヤーに「お前とテニスがしたい」だなんて言われて、悪い気はしない。それどころか、歓喜さえする。体は正直だ。
手塚が、どれほど情熱的か知っている。
どれだけがむしゃらになれるのか知っている。
どんなにテニスが好きか知っている。
それは自分と同じほどの熱量だ。だから、嬉しいのだと思う。あのまっすぐで熱い視線に射貫かれて、負けじとまっすぐ熱く射貫き返す。
その瞬間の胸のざわつきが落ち着かない。
「お前から連絡が来るのは嬉しい。テニスのことだけ考えていられる」
「そりゃまあ、俺とお前だからな」
「だけど最近は、テニスのことを考えるとお前が浮かんでくる。別にそれで困るということはないんだが、そういう時間が多くなっている」
迷惑だろうか、と訊ねてくる。跡部は間を置かずに否定を返した。それは跡部も同じだったからだ。
「そうか。ならいい」
「俺も、お前とテニスしたくて呼び出してるし、実際すげえ楽しいんだがな。何か、お前といると落ち着かねえ」
「それは俺もだ。そわそわするというか、ずっと打ち合っていたいというか……ああ、いやこれは以前からだが……何故だろうか」
「知らねえよ」
二人して、同じ方向に首を傾げる。五秒、考え込んで、分からなかった。
跡部はふるふると首を振り、ラケットを握りしめた。手塚もそれで何をしたいのか悟り、ボトルの変わりにラケットを握る。同じタイミングでコートに向かい、ネットを挟んで拳をぶつけ合った。
「お前とは、これでわかり合える」
「ああ、最高じゃねーの」
分からないのは気に食わないが、自分たちにはテニスがある。手塚のサービスから、また長いラリーが始まってしまった。
キラキラと光る汗がやけに眩しいと思いながらラケットを振るう二人の間に、「こいつでなければ駄目だ」という明確な想いがある。
唯一無二の想いを自覚するのは、もう少し後のことだった。
お題:リライト様 /「何か、お前といると落ち着かねェなあ」
#お題 #両片想い #無自覚
まどろむ仔猫
跡部の膝の上で、ほわほわとした毛玉が眠っている。それが落ちてしまわないようにとそっと手で支えて撫でるその手つきは、ひどく優しげだった。
「眠ったのか?」
「ああ、遊び疲れたんだろうぜ。どうにもここがお気に入りらしくてな」
雨の日に拾った仔猫は、汚れを落として適正なご飯を与えたら、見事に別猫のようになってしまった。手のひらに乗るくらいの大きさでしかないのに、母猫に捨てられたのか、はぐれてしまったのか、雨の中助けを求めて鳴いていた。
手塚が先にそれを見つけ、母猫や他の兄弟がいないか探してみたものの、小一時間待っても兄弟たちは戻ってこず、やむを得ず保護をした。
震えていた仔猫はその時一緒にいた跡部の腕の中で丸くなり、みぁうと鳴いた。ひとまず俺が引き取るぜと言ってくれた跡部に甘えてしまったが、手塚は三日と空けず仔猫の様子を見にきていた。
動物病院には二人で行って、生後一か月ほどの女の子らしいと教えてもらった。
『もしかして惚れられちまったかねえ』なんて跡部は言っていたが、あながち間違いでもないように思う。
見つけたのは手塚なのに、跡部の方によりなついているような気がするのだ。
扱いに慣れているせいなのだろうか。膝に乗せているだけでも様になるなと、手塚は隣に腰をかけてみた。眠った仔猫を起こしてしまわないように。
「跡部、すまない」
「アーン?」
「お前に任せっぱなしになっているだろう。元はといえば俺が見つけたのに」
「俺は構わねーぜ。俺がいないときはウチの使用人たちが面倒見てくれるからな。仔猫だと体調が変わりやすいし、慣れてねえと案外大変なんだぜ」
言いながら、跡部は指先で仔猫の首辺りを撫でる。やはりそうなのかと、手塚は感心したように跡部の横顔をじっと見つめた。
大変なんだと言いつつも簡単に引き受けてしまう跡部の優しさに、強烈に惹かれている。
正直に言うと、仔猫の様子を見るという名目で跡部に逢いに来ていると言っても過言ではない。もちろん仔猫が心配なのは当然だが、口実にしてしまっているのは申し訳ないとも思う。跡部の方によりなついているのは、そんな不埒な想いを抱えているからかもしれない。
「けど、お前もコイツのオモチャ買ってきたりしてくれてんじゃねーか。この間持ってきたあの羽ついたヤツ、すげえ食らいつくんだぜ」
「そうなのか? 母が選んでくれたんだ。今度動画を撮ってくるように言われたんだが、今日はもう無理だな」
「腹が減れば起きるだろ。仔猫は食って寝て遊び倒すのが仕事だ」
なあ? と言いながら背中を撫でたら、気持ち良かったのかそうでないのか、仔猫は寝返りを打った。膝の上で腹を見せ、ぴーんと足を伸ばす。
これには跡部も目を瞠って、次いでくっくっとおかしそうに肩を震わせる。
「俺様の膝でへそ天とは、コイツなかなか大物じゃねーの。手塚、これ撮って彩菜さんに送ってやれよ。喜ぶぜ」
「そうか。……確かに可愛いな。安心しきっているという感じか?」
仔猫を拾ったのは十日ほど前だ。なついているとは思ったが、ここまで心を許していたなんて。
「そうだな。使用人たちも可愛がってくれてるし、里親探しは止めて正式にウチで飼うぜ」
「たびたびになると思うが、またこの子を見に来てもいいだろうか」
「ああ、いつでも来い。お前が来るとこいつも嬉しがる」
それがどこまで真実かは分からないが、嬉しがってくれるのならば、純粋に仔猫を見にも来よう。次は仔猫用の缶詰でも手土産に。
そう思いながら、手塚はスマホのカメラを仔猫に向ける。いちばんいい角度で撮ろうとソファから腰を上げ、仔猫をフォーカスする。
「美人に撮ってやれよ。猫とはいえ女だぜ」
「俺にそんな技術があると思うなよ」
スマホのカメラ機能など、正直起動してボタンを押すくらいしか分からない。美人美猫に撮れるというなら頑張ってみたいが、やはりボタンを押すくらいしかできなかった。
そして、どさくさに紛れて、優しく仔猫を見下ろす跡部にフォーカスする。気づかれないようにと唾を飲んで、シャッターボタンを押した。
「…………美人に撮るには、どうしたらいいんだろうな。少し勉強するか」
「そうしてやれ。なあ手塚、今日メシ食っていくか? こっちに用意させるから」
「準備する人たちに迷惑でなければ、是非。というか、ここで食べるのか? お前の私室だろう」
「……これ、起こせねえからよ。悪いがそこの電話取ってくれ」
なるほどと、仔猫を指さす跡部に電話を渡した。それで食事の準備を頼むらしい。
「随分と甘やかしているんだな。仔猫がお前を好きなように、お前も相当好きらしい」
胸のあたりにじんわりと熱が広がっていく。跡部が僅かに頬を染めて顔を背けた。
『お前が見つけた猫だから』とかなんとか聞こえたのは、気のせいだろうか。
お題:リライト様 /まどろむ仔猫
#お題 #両片想い
苦しい位が丁度いい
合同練習ということで、青学のメンバーを招いての練習だった。
正直、学校単位で考えるとそれほど交流をしているわけではない。同じ都内ということで、強敵な対戦校だという認識しかなかった。
少なくとも、跡部と、手塚以外は。
「おーい跡部どこ行った?」
「さっき手塚といたの見かけたぜ。なんか練習メニューのことで言い合ってたけど」
「げ。じゃあ戻ってきたら、さらにキツくなるかもってことかよ。戻ってこなくていーわ……」
「あ~、確かにもうちょっと休憩してえな。おいジロー、寝るんじゃねえ」
宍戸たちのそんな会話が、耳に入る。
入るが、出て行ける状態ではない。そもそも彼らの声も会話として認識できていない。
「んん……っ」
キスが気持ち良くて、今は何も考えられなかった。
熱い吐息と一緒に手塚の舌が入り込んでくる。
逃げようと思ったのに、思ったところで体は正直だ。手塚に捕らえられたがった舌は、すぐに巻きついて絡んでしまった。
ユニフォーム越しに感じる体温は、いつもよりひどく高い。激しい練習をした後だからなのか、それともこんな場所だから興奮しているからなのか。
建物の陰だというだけで、鍵のかかる場所ではない。確かついさっきまでは、この後の練習メニューについて話し合っていたのに、いったい何がきっかけでこんなことに発展してしまったのか。
視線が重なったのが原因か、指先が触れ合ったのが原因か。それとも名を呼び合ったのが原因だっただろうか。
少し歩けば他の部員たちがわんさかいるというのに、止まらなかった。
「てづかっ……」
建物の壁に押しつけられて、唇を重ねられた後は、触れ合うことしか考えられない。お互い部を率いる長として、褒められたものではない。
だが、恋人と触れ合いたいと、キスをしたいと思うことのどこに、責められるいわれがあるのだろう。
戯れというわけではない。ただの気まぐれや暇つぶしで、この男に恋なんかできないと、お互いがそう思っている。
「ん、はっ……ぁ」
強く抱きしめられ、きつく絡められ、しびれるくらいに吸い上げられる。体が疼いて仕方がない。
このままことを進めるわけにはいかないが、せめて唇だけでも触れ合っていたい。
跡部は手塚の首に腕を回して、強く強く抱き寄せる。布二枚分越しに伝わる熱と、思い出せる肌の感触。
「跡部」
「ん、んんっ」
角度を変えて、何度も、何度も、触れ合う。唇が濡れて唾液が伝い落ちても、拭う余裕すらなかった。
「手塚ぁ……くる、し……っ」
「ああ、俺もだ……ッ」
体を押しやって離れたはずなのに、一秒と保たずにまた抱き合う。
ちゅ、ちゅ、ちゅっ、と唇の間で立つ音と、相手の吐息、心音しか耳に入ってこない。
足下に落ちたメニュー表に気をやることもできずに、跡部は潤んだ瞳で手塚を見つめる。至近距離で重なった視線に、また体の奥が疼いた。
「そんな目で、見るんじゃない……っ」
苛立たしげに、乱暴な唇が押し当てられる。
欲情しているのかと理解しても、最後の理性が互いを抱きしめるだけに留まらせた。
この腕を外したら、きっとユニフォームの裾をたくし上げる軌道をたどってしまうだろう。今だって充分に危ういのに、そんなことはできやしない。
がっちりと抱きしめ合って、深い深いキスをする。
気持ちがいいと跡部がのけぞれば、手塚はそれを追って隙間を無くす。
手塚が熱い吐息をすれば、それごと欲しいと跡部が唇を覆い直す。
唇が痛い。舌がしびれる。呼吸が上がってくる。
だけどそれさえ気持ちがいいのだから、どうしようもない。
こんな時に、こんな場所で、こんなことをする悪い部長たちには、苦しいくらいがちょうどいいのだ。罰にもならない罰だけれども、どうしても離れがたい。
「手塚……そろそろ……ん、なぁ……」
「ああ、分かって……いる……」
それでもどうにか宥め合って、徐々に繋がりを浅くする。舌を解き、呼吸を整え、濡れた唇を押し当てるだけのキスへと変えた。
「テメェ……こらえ性ねえなぁ……」
「お前に言われたくないが……」
互いの唇の傍で、深呼吸を五回。それで、熱は落ち着いていく。
あやすように相手の体を撫で、肩に顔を埋め、汗の匂いごと体臭を吸い込んで、一秒。跡部が、パチンと小さく指を鳴らした。
「さて練習メニューだが」
「ダッシュ三十本は譲れないだろう。足腰の強化は必要だ」
「同感だ。ここの数増やすか」
とても先ほどまでイチャイチャとキスをしていたとは思えないほど、二人は気持ちを切り替える。それこそ、スイッチのようにだ。
だいぶ時間を取ってしまったなと反省するが、部員たちも休憩ができて良かっただろうなんて、開き直る。拾い上げたメニュー表を手に、コートの方へと二人で戻った。
「ああ、やっと戻ってきた」
跡部たちに気がついて、滝が声をかけてくる。休憩時間を超過した部長たちだが、これは自分たちにもキツい罰を課そうかと、跡部は手塚と目を見合わせる。
「人数数えた。全員そろってるよ。さて次はどんな強化メニューを考えてきてくれたのかな」
「そうだな、ひとまずグループに分かれてダッシュと」
そんな二人の真ん中で、滝は二人の肩を叩く。そうして、耳元でひっそりと囁いてきた。
「ここ、鈍い子たちばかりで良かったね、手塚、景吾くん」
二人とも色っぽい顔をしているよと。
しまった分かるヤツには分かるのかと、二人で項垂れて額を押さえた。
恥ずかしくてしょうがないけれど、否定をするつもりもさらさらない。
「悪い、萩之介。久しぶりで浮かれていた」
「俺たち二人の責任において、今後ないように務める」
キッと気を引き締めて素直に謝罪をすると、滝はおかしそうに笑った。
「俺は別に構わないよ。お互いがテニスの世界にいるからこそ、余計に燃え上がって、高め合って、さらに強くなるんだろうし。こっちはそういう二人を見るのが楽しみなんだよ」
節度は守ってほしいけど、と肩を竦める滝に、もはや何も言えない。
手塚には跡部が、跡部には手塚がいるからこそ、もっと高みへと登っていけるのだ。
簡単に進める道ではないが、この男がいるからこそ負けたくないと思わせる、大切な友人で、ライバルで、唯一無二の愛する人。
「お前がそう言ってくれんなら、俺はどこまでも高みへ登っていくぜ、萩之介」
「うん、よろしく景吾くん」
「跡部には、良き理解者がいるのだな。安心した」
「何言ってるの手塚。そっちにもいるでしょ。……あれはどっちかっていうと、面白がってるようにも見えるけど。不二の方」
滝が指をさした方向に視線を移すと、そこには大石と不二の姿。視線が合って、二人でひらひらと手を振られる。
何を言われたわけでもないが、それで察してしまった。
「……後でちゃんと、説明しておく。今はともかく練習再開だ。跡部、俺たちも走るぞ」
「ああ、望むところだぜ手塚ァ。俺たちは、他の連中の倍だな」
煽るように確認した跡部に、手塚がこくりと頷く。
苦しい位が丁度いい。
この男が傍にいるのなら。
お題:リライト様 /苦しいくらいが丁度いい
#お題 #両想い

「なあ手塚よ」
「なんだ、跡部」
青学と氷帝の合同練習中、手塚と跡部は同じベンチに二人で腰をかけていた。
部長同士で一緒にいることから、近寄りづらいと思っているのか、他の者たちは思い思いにラリー中のコートを眺めている。
跡部はベンチの背に片腕を預け、足を組み直す。夏の暑さが汗を生み出し、つ……と首筋を滑り落ちていった。
「俺は別にいいんだぜ」
手塚はいつものように腕を組んで、まっすぐに背筋を伸ばしている。
「そうか。それは俺も同じだが」
短いやり取りで、沈黙がやってくる。跡部は不満そうに目を細め、手塚も不満そうに眉間にしわを寄せた。
なにが〝いい〟のか、お互い分かっているはずだった。ここまで急激に、急速に距離が縮まってしまったのは予定外だったけれども、〝そう〟なるのはやぶさかではない。
そう、お互いが思っている。
だが、決定的な言葉が出てこない。
〝好きだ〟の〝す〟の字も、〝付き合おう〟の〝つ〟の字もだ。
分かってるだろ、と跡部が手塚を睨みつける。
手塚が、分からないわけはないな? と跡部を睨む。
だけど絡んだその視線はすぐに背けられる。それぞれの仲間がラリーを行っているコートへと。
ギャラリーたちの声援や監督の指導が聞こえる。自分の糧にもなるのだから、しっかり観ていなければいけないのに、隣の男がさせてくれない。
腹が立つ、とお互いが思った。
分かりきっているのだから、さっさと言えばいいものをと。
玉砕必至の恋ならば、告げる勇気もでてこないだろうが、明らかにお互いの気持ちがお互いに向かってきている。何をためらうことがあるのだろう。
好きだと言われれば、頷いてやれる。
付き合ってくれと言われれば、今日からよろしくと言ってやる心の準備も万端だ。
その後テニスに誘われれば、テニスデートだなと笑ってもやれる。
次の休みに、待ち合わせて二人でどこかへ出掛けないかと言われる可能性だって、何度かシミュレーションした。どこへ? というのは答えが出ていないが、二人で楽しめるところを探すつもりでいるのに。
肝心の、そういう言葉が発されない。
もしかして自分の勘違いなのでは? と思うには、距離が近すぎる。相手の近くにいたい、とこんな練習中でさえ隣にいるのだ。
部長同士であることから、打ち合わせがあるのだと言い訳はできるけれど、そんなものを真面目にしたためしがない。
大抵は跡部が意見を出して、手塚がそれに頷いて終わり、だ。
たまに手塚が改善提案をしてくることもあるが、どちらもいちばん合理的なものを理解しているせいで、意見がぶつかり合うことはなかった。
ぶつかり合うのは、テニスだけ。
それが心地良くて、嬉しくて、いつの間にか特別な存在になってしまった。
球をかわせば分かる。同じ気持ちを抱えているのだと。
ではもう言葉は要らないのではないかと思うが、万が一を考えると、欲しい。
だけど自分から言うのはなんだか悔しい。
先に惚れてしまった手前、分が悪いというかこの先優位に立てないのが分かっているから、最初の一歩くらい〝相手からのアクション〟であってほしいのだ。
お互いにそう思っている。自分の方が先に好きになったのだと。それが悔しい。
だから言いやすいように、こうしていつでも傍にいてやっているのに、その配慮が今のところ全部無駄になってしまっている。
〝先に惚れた負けは認めるから、先に言ってもらったっていいだろう〟
他の者が聞いたら、呆れ返りそうな意地の張り合いだ。
ちゃんと恋人として付き合いたいのに、先に言うべきは向こうの方だと譲らない。惚れた方の負けということを認識していながらもだ。
「同じだって言うなら、そろそろ観念したらどうだよ、手塚」
「そっくりそのまま返そう。ちゃんと聞いてやる」
「アーン? 聞いてやるたぁ随分と偉そうだな」
「よく動く口だが、肝心なことは言えないのか? お前ともあろう者が」
沈黙と、ため息。
腹を探る余地もないほど分かりきった答えなのに、どうしてそうも意地を張るのか、とお互いがそっぽを向く。
そっぽを向いた先に、レギュラーのメンバーたちがいて、やっと冷静さを取り戻す。
先に言えと常々思ってはいるが、何もこんな、他の連中がいる中でとは思っていない。聞かれてしまう可能性の方が高いし、からかわれる未来だって見える。下手をしたらスキャンダラスな事件としてそれぞれの校内に噂が広まってしまう。
それは避けたいし、何よりその〝告白〟は自分だけが聞いていたい。
初めて受ける恋の告白だ。ロマンチックなシチュエーションでとまでは思わないが、自分だけの宝物にしたいのだ。
できれば二人きりの時に聞きたいと、視線を泳がせて、小さなため息を吐いた。
「今日」
切り出した声が重なる。
手塚は驚いて跡部を振り向き、跡部もびっくりして手塚を振り向いた。
「なんだ」
「そっちこそ」
「あ、いや、……練習が終わった後、時間が空いていればと思って」
「俺もそれを訊こうと思っていたところだぜ。……一緒に、どこか、その、寄り道、とかな」
いよいよ今日、聞けるのかもしれない。そう思うと、胸が速い鼓動を生み出す。
「よ、寄り道、か。いいな。ぜひそうしよう」
どこへとは決めていない。もしかしたらいつものようにテニスになってしまうかもしれない。それでもいい。二人きりの世界で、待ちわびたその言葉を聞けるのなら。
やっと観念したのか、とお互いが思う。楽しみだと思って、跡部と手塚はそれぞれ口の端を上げた。
「ねえ、あの二人まだ付き合ってないって、ガセじゃないんスか」
そんな二人の様子を眺めていた越前は、誰に訊くともなしに呟いた。
「ハハ……まだ正式に付き合ってるわけではないみたいだね」
「なんかさ~、お互いにお前が先に告白しろって思ってるみたいなんだよにゃ~」
それに応えたのは河村と菊丸で、せっかく二人きりにしてあげてんのにと不満そうに口を尖らせる菊丸を、大石が宥めている。
「どうやら、向こうさんも同じようにやきもきしているようだな」
「氷帝も氷帝で、跡部の恋を後押ししてるみたいだね」
氷帝のレギュラーメンバーがそろって頭を抱えているのを見て、肩を竦める乾や不二。
「く〰〰、じれってぇなあ、じれってぇよ」
「手塚部長って、テニス以外だと不器用、なんだな……」
地団駄を踏みかねない桃城と、僅かに頬を染めながら控えめに悪態を吐く海堂。
面倒くさいから早いところっくっついてほしいと、その場にいる全員が思っていた。
#お題 #両片想い