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髪にキス

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.01

#お題 #片想い

 珍しいなと思った。跡部景吾が、肩に寄りかかって眠ってしまったのだ。 次世代に引き継いだとはいえ、元…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

髪にキス

 珍しいなと思った。跡部景吾が、肩に寄りかかって眠ってしまったのだ。
 次世代に引き継いだとはいえ、元部長として後輩たちに目をかけている。生徒会に関してもさまざまな相談事が舞い込んでくる上に、財閥の跡取り息子としていろいろやることがあるらしい。
 勉学に関しては課題の提出が必要で、さらに今はテニスの合宿中だ。青学と氷帝の合同合宿なんて生易しいものではなく、U-17の日本代表選抜合宿だというのだから、気も抜けない。
 ただでさえ多忙を極めているのに、この男はさらに自主トレまでこなしているようだ。
 いつか体を壊してしまわないかと、気が気ではない。それでも、言って聞くような相手ではないとわかっているから何も言えない。
 そもそも、無茶をして腕を痛めた経験のある自分が何を言ったところで、「お前には言われたくない」と返ってくるに違いないのに。
 それでも、心配になる。
 残念だが、特別親しいというわけではない自分の肩に寄りかかって眠ってしまうほど、疲れているのではないか。
 手塚は跡部に好意を抱いている。恋愛感情という意味でだ。
 気づいた時にはさすがに頭を抱えたくなったが、跡部景吾なら惹かれてしまっても仕方ないなと、諦めることにした。
 派手な見た目と行動に反して、彼は努力の男だ。
 テニスに対する真摯で情熱的な様子は、恋でなくとも好感は持つ。
 きっかけはあの関東大会だと思うのだが、実際はどうか分からない。
 恋だと自覚した途端急速に転がり落ちたものだから、必死で地点を探したらそこだったというだけだ。
 もしかしたら、一年の時に彼の試合を見た時かもしれない。大会の会場で、何の気なしにすれ違ったときかもしれない。日に透ける金の髪が綺麗だと思った時には、恋に落ちていたのかもしれない。
「あ、ここにいたのてづ、――……っと」
 聞き慣れた声が聞こえて振り返る。だがその声の主――不二は、傍に跡部の姿を認めて口を噤んだ。手塚が、手のひらで制したせいだ。
 声で跡部が起きてしまうかもしれない。そう危惧したが、彼は相変わらずすうすうと寝息を立てていて、安堵した。
「どういう状況かな」
「見ての通りだが」
「……………………跡部が疲れてるらしいのは分かった。英二と商店街の方に行こうって話してたんだけど、きみは誘わない方がよさそうだね」
「ああ、俺のことは構わずに行ってくるといい」
「じゃあ激辛スナックでもお土産に買ってくるね。……ごゆっくり」
 ふふっと笑いながら不二は踵を返して歩いて行く。土産などいらないし、その笑いはどういう意味だと問いただしたかったが、今動けば跡部を起こしてしまう。
 この気持ちに気づいているのだとしても、変にけしかけたり、囃し立てたりしないでいてくれるのなら別にいい。
 跡部に、この気持ちを言うつもりはないからだ。
 告げてしまったら、こんな距離にもいられなくなるだろう。疲れているからといって無防備に眠ってくれることなんて、絶対になくなる。
 それならこのままでいい。
 情けないが、伝わってくる体温で満足しているべきなのだ。
 思いがけない接近に胸をざわつかせているなんて、知られたらいけない。
「跡部……」
 日に透ける金の髪に、うっかりキスをしてしまったことも。


お題:リライト様 /髪にキス
#お題 #片想い

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花火を見る

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.28

#お題 #両想い #未来設定

「そろそろ始まるぞ」「ああ。待て、ビール持ってくる」 ベランダに続く窓を開けた手塚にそう言って、跡部…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

花火を見る

「そろそろ始まるぞ」
「ああ。待て、ビール持ってくる」
 ベランダに続く窓を開けた手塚にそう言って、跡部は冷蔵庫に向かった。冷蔵庫を開ければ、お互いの好きな銘柄のビールが美味しそうに冷えて、飲まれるのを待っていた。
 長く付き合ってはいるが、好きな銘柄が違うというのは変わらない。お互い譲らないんだよなと一本ずつ手に取って、そんな頑固さも愛しく思う自分に苦笑した。
「ん」
「ああ、ありがとう。ここは特等席だな。花火が上がるのはあの辺りか」
 冷えたビールを手渡すと、するりと礼が口を突いて出てくる辺り、律儀な男だなと思う。手塚がそう言って指さした方向を見上げた。
「ああ、それ目当てでここ買ったわけじゃねえけどな。思わぬ副賞がついてたようだぜ」
 今日は、近くの川べりで花火大会が催される。近くとは言ってもかなり歩く距離ではあるので、民衆たちの声が騒がしいということもない。それでも最上階に近いこの部屋は、花火を観賞するにはうってつけだ。
「お前と初めて見た花火は、青春台のだったか」
「よく覚えているな。中学の頃だろう」
 手すりにもたれて、花火が上がるのを待つ。思い出すのは、片想いだった頃に一緒に行った夏祭りだ。
「そりゃ、忘れるわけねえぜ。お前の浴衣姿にときめいてた純情な頃もあったな、ってな」
「お前は薄いねずみ色のだったな。とても似合っていた」
「…………そっちこそ、ちゃっかり覚えてんじゃねーか……」
「それは、忘れるわけがない。片想いをしていた頃だからな。初めて一緒に出掛けられて、嬉しかった」
 あの頃、お互い相手に恋をしていたのだと知ったのは、中学最後の秋にさしかかった辺り。うっかり口にしてしまった恋心を、「俺もだ」と返された時は、本当に驚いたものだ。
 それが、十年ほど経った今でも付き合いが続いているのだからさらに驚きである。
 人の交わりは、何事もタイミングだなと思わせる。
 夜空に、花火が上がる。遅れて聞こえる音は、あの頃のドキドキそわそわした心音と同じものに思えた。
 花火の光に照らされるその横顔も、あの日と同じくとても綺麗に見える。
「綺麗だな」
「ああ、綺麗だな。今年も一緒に見られて嬉しい」
「来年も、一緒に見ようぜ。ここじゃなくても、どこだっていい」
「そうだな。お前と一緒ならば、人混みだって問題ない」
 ん、と頷いて、跡部は唇を突き出す。そこに手塚の唇が重なった頃、何発目かの花火が上がった。
 冷えたビールと綺麗な花火と愛しい恋人。
 口許が緩んでいく。
「手塚、ビールまだ飲むか? 持ってきてやる」
「いや、せっかくだが遠慮しておこう。お前も一本だけにしておけ」
「なんでだよ。今日くらいいいだろ」
 硬いこと言うなと踵を返したが、パシリと手首を取られて立ち止まり、振り向く。その先にキスが待っていて、驚いて目をパチパチと瞬いた。
「酔っ払いを抱く趣味はないのでな」
「…………お前に酔えってことかよ」
「いや、酔わせるのはお前の得意技だろう」
「ハッ、違いねえ!」
 パチンと指を鳴らせば、また、空を彩る花火。
 花火が終わったらベッドに行こう。そう囁き合って、立て続けに上がる花火を一緒に眺めた。
 ああ、最高に幸せな夏だ。


お題:リライト様 /花火を見る
#お題 #両想い #未来設定

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いや? きれいだなと思って

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.27

#お題 #片思い

 花火大会というものがあると知って、手塚に誘いをかけてみた。間を置かずに『ああ』と頷かれて、心の中で…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

いや? きれいだなと思って


 花火大会というものがあると知って、手塚に誘いをかけてみた。間を置かずに『ああ』と頷かれて、心の中でガッツポーズをした。一緒に花火を見られるというだけでこんなにも嬉しいのだから、恋心というものは厄介だ。
「屋台ってのが出るって聞いたぜ。何が置いてあるんだ?」
『行ったことがないのか、跡部。氷帝のメンバーとは?』
 突っ込まれて、気まずい思いをしながら頬を掻いた。確かに花火大会のことを知ったのは宍戸や向日たちが騒いでいたせいだが、彼らの輪の中に入ろうとは思わなかった。それよりも何よりも、手塚がすでに他の誰かと約束をしているのではないかと気が気ではなく、急いで電話をかけて、今に至る。
「アイツらはアイツらで楽しんでいるようだしな」
『そうか。俺の方は特に予定もない。慣れていないのなら、案内くらいしてやるが』
「……お前のそういうとこ、いいな」
 ぼどりと呟いてしまってから、ハッとした。完全に無意識で、さっと血の気が引いていく。手塚を想う気持ちが、こんなにも溢れてしまっている現状を、まだ知られたくない。
「あ、いや、変な意味じゃねぇぞ。ウチのヤツらだと、からかわれるんだよ。珍しいものしかねえから、それこそアイツらには俺の反応が珍しいんだろうぜ」
『目に浮かぶようだ。そうだな、屋台は……たこ焼きやかき氷や、焼きそばなどが定番だろうか。わたあめやリンゴ飴もあると思う』
「たこ焼き……何かにたこが入ってんのか?」
『ああ、申し訳程度に』
 なんだそれは、と思わず笑ってしまう。たこを焼いたそのままが出てくるわけではなさそうだが、ネットで検索などはしないでおこう。手塚がエスコートしてくれるというのだから、楽しみは当日までとっておきたい。
「そういやジローたちは浴衣を着るんだとか言ってやがったが、ドレスコードでもあるのか? それなら用意するが」
『ドレ……いや、着なければいけないわけではないぞ。ただ、そうだな……浴衣を着て見にくる人は多いように思う。お前が浴衣なら、俺も合わせた方がいいだろう。母に訊いてみる』
「なんなら用意させるぜ? お前に似合いそうなヤツ」
『結構だ。そんなことより、お前は他の心配をした方がいい。屋台ではクレジットカードは使えないからな』
 は? と思わず声が裏返った。今時そんな場所があるのかと疑ってしまう。その困惑が伝わったのか、手塚が続けてきた。
『基本、現金だ。さらに言えば高額紙幣はよくない場合もある』
「そ、そうなのか……じゃあ、ちゃんと用意していくぜ……」
 どうも真実のようで、カルチャーショックを受ける。しかし事前に教えてもらえてよかった。せっかく手塚と一緒に行けるのに、恥をかくところだったと、汗がにじんでくる。
「あと必要なものってあるのか? マナーとかいろいろあんだろ」
『そこまで堅苦しいものじゃない。最悪電話と財布さえあればどうにかなるだろう』
「…………お前時々大雑把だよな……。まあいい、当日を楽しみにしてるぜ。風邪なんか引くんじゃねーぞ」
『ああ、油断せずに行こう』
 聞き慣れた台詞に、ふっと力が抜けていく。本当に楽しみだと、跡部は通話を打ち切って執事のミカエルに浴衣の仕立てを頼むことにした。


 そして、花火大会当日。夕方に待ち合わせて、屋台を見て回ることにした。薄ねずのしじら織りと紺色の帯。草履も合わせて、浴衣に合う扇子も買った。通気性がよく、暑い夏の祭に浴衣が好まれる理由にも納得だ。
 そわそわと、待ち合わせ場所に向かう。手塚はもう来ているだろうかと胸が鳴った。目印の店を見つける前に、手塚の姿を見つけてしまう。彼のオーラは、ひどく目立つ。うるさい心臓が、さらに騒がしくなった。
「よう、待たせちまったか?」
 それを悟られないように、いつもの調子で声をかければ、気づいた手塚が振り向いてくる。紺色の浴衣は、彼によく似合っていた。薄灰の帯は、跡部と真逆の色使いになっていて、むずがゆい気分になる。
「いや、時間通りだろう。似合うな、跡部」
「お前も、似合ってるぜ。自分で選んだヤツか?」
「いや、母が。自分も父と回るのだと、朝から楽しそうにしていたな」
 まさか手塚がそんなふうに自然に褒めてくるとは思っていなかった。目眩がしそうだとよろめきそうなのをどうにか踏ん張って、同じように賛辞を返す。世辞ではなく、本当によく似合う。見慣れない出で立ちだというのも手伝って、いつもより格好良くみえた。
「ふぅん、仲いいんだな。見かけたら挨拶しねーといけねぇじゃねーの」
「いらん」
「なんだよ、お前がどんな人たちに育てられてこうなったのか、興味あるぜ」
「ウチはいたって普通だ。跡部、行くぞ、たこ焼きが気になるんだろう」
 話を逸らされたのは気分が良くないが、屋台が気になるのも本当だ。案内をすると言いつつ一人でさっさと行ってしまう手塚のあとについて、慣れない草履と格闘しながら歩いた。
 そうして、まずはいちばん最初に目についたたこ焼きの前で足を止める。
「この丸いヤツの中に、たこが入ってんのか? いい匂いじゃねーの」
 くるくると器用に球体を作り出す店員の手さばきに、跡部は見入る。球体というとテニスボールしか浮かばないが、たこ焼きというのも興味深い。
「ネギが好きなら多めにしてもらうが」
「ああ、いいな。……待て、二人で食うものなのか?」
「そうではないが、もし好みでなかったら困るだろう。この八個入りひとつ、ネギ多めで」
 店員にそう告げると、本当にネギ多めで盛られる。ネギがたこ焼きを覆ってしまって、むしろ見えないほどだ。熱いから気をつけろと言われて、両手で恐る恐る受け取った。
「あ、手塚。代金」
「後で構わない」
「そうかよ? ああ、じゃあ次に買うヤツは俺が出すぜ」
「分かった、そうしよう」
 人の波を避けて、道の隅で少し立ち止まる。邪魔にならないようにと腕を引かれた時には、驚いてたこ焼きを落としてしまうところだった。なんとか平静を装って、ついていた爪楊枝でたこ焼きを突き刺して持ち上げる。生地が柔らかくて、すり抜けてしまいそうだ。
「あっつ」
「だから気をつけろと言っただろう」
「ん、ん……んむ。…………ふうん、悪くねえな。熱いのどうにかなんねーのかこれ」
「ならん。こういうものだ。気に入ったのか?」
 素直に頷く。初めての味と食感だが、どこかくせになる。申し訳程度のたことやらもちゃんと見つけられた。手塚の方へと差し出すと、器用にたこ焼きを刺して持ち上げ、口へと運ぶ。熱さにわずかに眉が寄っていたが、跡部はそれどころではない。
 その爪楊枝は、跡部も使ったものだ。一本しかなくて、食べるにはそれを使うしかないのだが、どう否定しようがそれは間接キスだ。たこ焼き以上に、跡部の頬が熱くなる。
 手塚は気にも留めていないのか、平気そうだ。それが少し悔しいが、この状況で言及すると墓穴を掘りそうである。友人同士なのだから気にすることはないと、何度も何度も言い聞かせ、ネギの多く乗っかったたこ焼きを突き刺してやった。
 その後はリンゴ飴とやらを買った。定番らしいが、どうしてこの発想になるのだとリンゴを包む着色料たっぷりの飴に目を丸くする。「スモモもあるぞ」と言われて見てみるも、こちらも同じくそのまま飴で覆っているだけだ。杏も、とだんだん小さくなっていくが、やはりそのまま包む飴でしかない。
「これ、中のリンゴもそのまま食えるのか……?」
「当然だろう」
「ん、じゃあこれ、ふたつ……?」
 さすがにこれは二人で分け合うわけにもいかないだろうと、手塚を伺う。うんと頷かれて、ちゃんと現金で支払った。
「どう食うのが正解なんだこれ……デカすぎねえか」
「どうも何も、そのまま食べればいい。家に持って帰って、切り分ける手もあるが」
「なるほどね。それなら、杏の方も買うか。お前は?」
「いや、俺はこれでいい」
 大きさ的に杏なら今食べられると跡部は追加で購入し、口内へと運んだ。行儀が悪いなとは思いつつ、花火が上がる地点まであんず飴を舐めながら移動する。その間にも、珍しいものがたくさんあってそこかしこで足が止まった。
 射的での勝負につい熱くなってしまったり、ヨーヨーが上手く釣れずに悔しい思いをしたり。それでも無事に水色のヨーヨーを釣り上げて、満足げに手塚の隣を歩く。
「楽しそうで何よりだ」
「国によって祭は全然違うからな。参加するなら全力で楽しむのが俺のモットーだぜ」
「そうか、小さい頃はイギリスにいたのだったな。向こうはどんなふうなんだ」
 言った覚えもないのになぜ知っているのだろうとも思うが、跡部景吾の情報はそこかしこで取り上げられている。どこかで目にしたか耳にしたかしたのだろう。興味を持ってもらえて嬉しいと口の手前で飲み込んで、幼少期を過ごした国のことを話しながら歩を進めた。
 そんなことをしているうちに観覧スペースについたようで、人の密度が格段に増す。考えていたよりもずっと多い人出に、こんなことならスペースを買い取れば良かったなんて思った。
「人が多いな、さすがに」
「ここではぐれたら、見つけ出すの大変なんだろうな」
「そうだろうな。お前は目立つからその心配はしないが、はしゃいで離れるなよ、跡部」
 かくりとひざから力が抜けていきそうだ。この男はどうしてこう、無自覚にこちらを翻弄してくるのか。「離れるな」なんて言われて、嬉しくないわけがない。いっそ気づかれているのではないかと思うほど、寡黙なくせに操る言葉は危険なものだ。
 それでも、離れるなと言われたのだから離れないようにしようとは思う。お前が言ったんだからなと声に出さずに言い訳をして、手塚の浴衣の袖をそっと握る。気づいているのかいないのか、振り払うそぶりは見られなかった。
「始まるぞ」
 手塚がそう呟いた数秒後、大きな花が空を飾った。少し遅れて耳に届く音が、心音を煽る。そこかしこで、感嘆の声が上がった。花火を見たことくらいあるが、こんなに胸を打つものだとは思わなかった。瞬きをするのも惜しい光の祭だ。
 次々に上げられる花火。ドン、ドォン、と連続して咲く花に照らされた手塚の横顔に、胸が締め付けられる。やっぱり、どうしようもなく、この男が好きだと改めて思った。
「跡部? どうした」
 向けた視線に気づかれて、手塚が振り向いてくる。跡部は慌てることはせずにゆっくりと空に向き直った。
「…………いや? 綺麗だなと思って」
「ああ、そうだな。綺麗だ」
 手塚も、同じように空を見上げる。
 お前のことだよとは、まだ、言えそうになかった。



お題:リライト様 /「いや? きれいだなと思って」
#お題 #片思い

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満月夜

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.26

#お題 #両片想い

「今日は満月みたいだな」「ああ、綺麗なもんだ」 帰り道、ふと空を見上げた。そこには大きな真円を描く月…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

満月夜

「今日は満月みたいだな」
「ああ、綺麗なもんだ」
 帰り道、ふと空を見上げた。そこには大きな真円を描く月が浮かんでいて、思わずそう口にしていた。
 跡部とテニスをすると、つい時間を忘れてしまう。日が暮れてハッとして、慌てて家に連絡を入れるということが、何度あったことか。
「青学の連中はどうだよ?」
「ああ、だいぶ今の体制に慣れてきたのではないだろうか。海堂も頑張っているようだ」
 夏まで率いていたテニス部の長は、次世代に託した。レギュラー陣だった三年生がごっそりと抜けた形だが、いつまでも同じ状態ではいられないのだから、次へ次へと成長を促していかなければいけない。
 寂しい気持ちもあるけれど、なんとか部を引っ張っていこうとする後輩の姿を見るのは、嬉しかった。
「氷帝は、日吉だったか」
「ああ。俺様みてえなカリスマ性はねえが、負けん気の強さと努力を重ねる部分は、みんなが認めてるからな」
「カリスマ性で言ったら、誰もお前に敵わないと思うんだが……」
 氷帝も次世代に託したようで、ここ最近はお互い「暇」だった。おかげでこうして連日打ち合えているのが、楽しくて、嬉しくてしょうがない。
「フン、手塚が俺様を褒めるとは、明日は何が降ってくるんだ?」
 跡部はわずかに目を瞠ったあと、疑うような、悔しそうな顔でそう返してくる。褒めているのだから、素直に受け止めてほしいものだが。
 本当に、跡部景吾の生まれ持ったカリスマ性というものは誰も敵わないと思う。目立つ容姿もさることながら、強引なその言動や、それを確立する強さは他に類を見ない。
 そしてなにより、跡部景吾を創り上げているのは並々ならぬ努力だ。
 誇りと、それに伴う自信を、裏側から支えている確かなもの。
 そんな跡部景吾に、惹かれないわけがなかった。
「明日の予報も、晴れだぞ。何か降ってくるというなら、コートは屋内にした方がいいんじゃないか」
「ばぁか、冗談だろ。怒んなよ」
「別に怒ってはいない」
 気持ちを伝えられないことがもどかしいだけだ。連日逢えるのは嬉しいが、友人としてしか見られていないのは分かる。
 この気持ちを告げたところで、玉砕するのがオチだ。
 この距離感を壊したくない。気持ちを告げたら、恋どころか距離さえ壊れる。それが怖くて、欠片も伝えられなかった。
 恋人になれないことよりも、跡部とテニスができなくなることの方が寂しくて、重要で、重大だ。
 この距離にいるためなら、日に日に募る恋情なんていくらでも我慢できる。
「月があんだけでかいと、夜でも明るく感じるな。もう少し打っていたかったぜ」
 残念そうに息を吐くのが聞こえて、跡部を振り向く。月明かりに照らされた横顔はとても綺麗で、それを今独り占めしているという事実に胸が鳴った。
「それは同感だが、これ以上遅くなると家族に心配をかけてしまう。それはお前も同じだろう」
「……ウチはどうだかな。仕事であちこち飛び回ってて、時間も合わねえからめったに顔も見ねえが」
 苦笑した跡部に、目を瞠った。
 そこまで考えが及んでいなかった自分に落ち込んで、改めて自分と跡部とは、棲む世界が違うのだなと実感させられた。
「そうなのか、すまない。それでも、執事の方や世話をしてくれる人たちは跡部を心配するだろう。俺たちはまだ大人の庇護が必要な年齢なのだし」
「ああ、悪い、それを不満に思っているわけではねえんだぜ。両親や祖父を、俺は心から敬愛している」
 寂しくないわけもないだろうに、跡部は気落ちしたこちらを逆に気遣ってくれる。悪役じみた言動をするこの男が、本当はとても優しい男なのだと、いったいどれほどの人間が知っているだろうか。
「でも、そうだな……ミカエルたちは心配するか。ちゃんと、これ以上寄り道せずに帰るぜ」
「ああ、そうするといい。明日もあるのだし」
「お前とテニスするのすげえ楽しいからな。どうしても欲張りになっちまうんだよ」
 思わず咳払いをする。なんでそう、嬉しいことを言ってくれるんだ。楽しいと思ってくれているのが、本当に嬉しい。好きになってもらえなくても、欲張りになるほど楽しんでくれているならそれでいい。
「でも、今日は遅くまで打ってたせいでお前と月が見られた。酒の飲める歳になったら、月見酒なんてのもいいかもしれねえな」
「え?」
 跡部は、人を驚かせるのが好きなのだろうか。確かに今はお互い酒の飲める年齢ではない。
 だから、飲めるようになったらと跡部は言ってくれている。それが意味するところは、それまで友人としてつながっていられるということだ。
 まるで何でもないようにそう望んでくれるのは、本当に嬉しい。
「美味い酒用意してやるから、そういう歳になってもお前とテニスができたらいい。心からそう思っている」
「……こちらからお願いしたいところだ。俺も、お前とのテニスは楽しくてしょうがないと思っている、跡部」
 そう返すと、跡部が驚いたようにぱちぱちと目を瞬く。受け入れられると思っていなかったのだろうか。心外だ――なんて思っていたら、月に照らされた跡部の笑い顔が視界に入り込んでくる。
 ひゅっと息を飲んだ後、うっかり。
「跡部、好きだ」
 ついうっかり、そう口にしてしまっていた。
 言われた跡部より、言ったこちらの方が驚いているような気がする。
「…………え、……っと」
「あ、いや、すまない、忘れてくれ。気にしないでくれるとありがたい」
「……好きって、そういう意味でか?」
 跡部が立ち止まってしまう。それは仕方ないだろうなと思った。突然同性からの告白を受ければ、硬直するのも当然だ。
「ああ、……そういう、意味で、だ」
 友人としてだ、と否定しても良かったのかもしれない。友人として好感を持っているのも噓ではないし、そうした方がこれからの関係だって良好なものを築ける。
 だけど、一度恋という意味で発されたその言葉を、否定したくなかった。たった一度の〝初めて〟だからだ。
「そ、それなら……気にしないでいられるわけがねえんだが。忘れたりも、絶対にできねえ」
「それはもちろん、お前が嫌でなければ、気持ちくらいは知っていてほしいと思っているが」
 跡部は、優しい男だ。〝友人〟に抱いてしまった馬鹿げた恋心も、ただスルーすることもできないということなのだろう。
「明日の約束……無理なら今取り消そう、跡部」
 できればこの距離を保っていたいと思うが、どうだろうか。
「え、なんでだよ。というかちょっと待ってくれ。少し……混乱していて、思考がまとまらない。つまりお前は、本当に俺のことが好きなんだな? 恋ってことで間違いないのか?」
「ああ、……好きなんだ。すまない跡部」
「悪い手塚、明日の約束……変更してもいいか」
 項垂れて、指先で額を押さえる跡部に、やはりそうなるかと短く息を吐いた。うっかりしてしまった告白に、覚悟も何もしていなかったが、理解はできる。
「分かった。不快な思いをさせてすまない」
「は? いや、そうじゃねえよ。もうちょっと、その、こ、恋人っぽいことするとか、デートスポット……に、行くとか、そういうのできんだろうが」
「…………――は?」
 慌てたように顔を上げた跡部の頬が、赤く染まっているように見える。
 どういうことだ。恋人っぽいこと? デートスポットに行く?
 うっかり告げたこの気持ちは、跡部にとって迷惑なものではないということなのか。いや、この反応はむしろ、喜んでいるようにも取れる……?
「明日、もう雪が降ろうが槍が降ろうがどうでもいい……本気で……こんなことがあんのかよ」
「あ、跡部……ど、どういう」
 跡部は震える口許を手のひらで覆い、小さく呟く。やはり、嬉しがっていると思うのは……身勝手、だろうか。
「ああ、悪い手塚。お前にばかり言わせちまって。好きなんだよ、俺も。お前のことが」
 今気づいたと言わんばかりにハッとして顔を上げ、跡部が決定的な言葉を吐いてくれた。
 好きなんだよ。
 ちゃんと、そう聞こえた。
 なんてことだ、両想いだったなんて。それなら確かに明日は、恋人っぽいことをしたりデートスポットに行くことになってもおかしくない。
 いや、もう今この瞬間からだって、恋人っぽいことをしたっていいはずだ。
「跡部、その……いつもの分かれ道まで、手を繋いでもいいだろうか」
「お、おう……」
 そうして太腿の横でそっと手を触れ合わせて握り、ことさらゆっくり、いつもの分かれ道まで歩いた。大きな満月の空の下を。



お題:リライト様 /満月夜
#お題 #両片想い

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長いキス

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.25

#お題 #両想い

 頬に手が添えられる。「跡部」 抑揚なく名を呼ばれ、跡部はわずかに視線を泳がせて諦念を込めた息を吐い…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

長いキス

 頬に手が添えられる。
「跡部」
 抑揚なく名を呼ばれ、跡部はわずかに視線を泳がせて諦念を込めた息を吐いた。
 そっと手を持ち上げて、目の前の男の眼鏡に触れる。レンズを汚さないようにゆっくりと外し、たたんでテーブルの上に置いた。
 そうする間も、手塚の手のひらはずっと頬に添えられたままで、「自分で外せ」と言ってやりたい気分で一杯だ。
 だけど、眼鏡を外してやった後の満足げな顔が気に入ってもいて、どうにも厄介である。
 遮蔽物のなくなった顔がゆっくりと近づいてくる。
 ドキ、ドキ、と胸の高鳴りが顕著になって、唇が触れる直前にようやく目蓋を落としてやった。
 押しつけられる唇の弾力と感触に、体が安堵していくのが分かる。離れるか離れないかの距離で、再び押しつけられる。
 跡部は両手を手塚の首に回し、引き寄せてやった。
 それは、いつもの合図だ。
「んっ……」
 うっすらと唇を開いてやると、その隙間から熱い舌が入り込んでくる。こじ開けるような強引な動きに、肩が揺れた。
 狭い口の中で、手塚の舌に追われる。いつも手塚を追いかけてばかりいるような気がしている跡部は、こんな時ばかりは追われる身になるのが楽しい。
 あの手塚国光が、必死に追い落としてくるだなんて、普段からは想像もできない。
 ぞくぞくする、と絡められた舌を吸う。下から押し上げられて、自身の舌先が上顎を撫でる。角度を変えて、何度も何度もむさぼられるこの感覚は、慣れることはない。
 ちゅ、ちゅ、と音を立てながら吸い上げてくる手塚の髪を梳いて、もっとくっつきたいと体を寄せる。
 脇腹をなで上げる手のひらには、明確な意思が宿っていて、跡部の指先は手塚の喉元へと移動していく。
「は……ぁ……っんぅ」
 このままソファに押し倒されるかとも思ったが、キスはまだまだ続く。
 呼吸をと逸らして離した唇を、手塚が追いかけてきた。濡れた自身の唇が恥ずかしくて、ごまかすみたいに手塚の舌を吸う。
 それに気を良くしたのか、キスはさらに深くなった。
「てづか、待て……おい……っん、んん……」
 舌がしびれてくる。軽く歯を立ててやっても、楽しそうに甘噛み返してくるだけだ。
 なんでこいつはこんなにキスが好きなんだろうと、見つかりそうにない答えを探す。
 跡部も、キスは嫌いではないし、むしろ好きだ。手塚の欲がダイレクトに伝わってくる。欲しがられているのがまざまざと分かって、背筋がぞくぞくと震えてしまう。
「あ……はぁっ……なあ、唇ばっかじゃなく……全身にキスしろよ、手塚ぁ……」
 そろそろキスだけでは物足りないと体を押しやり、濡れた唇を指先でなぞってやる。
 跡部景吾が誘ってやっているのだ、先に進まないなんてことはないだろうなと思っていると、ぐらりと視界が揺れて、ドサリとソファに背中が落ちた。
「……お前は本当にキスが好きだな、跡部……」
 言いながら、手塚は先ほど跡部が撫でた喉元を扇情的になぞり降りる。
「そりゃテメェの方だろ、ばぁか」
 この状況でそんな仕草は反則だ。煽ったつもりが逆に煽り返されてしまって悔しい。
 自分を棚に上げるなと、跡部はせめて口先だけの抗議を投げ、両腕を広げ手塚のキスを迎え入れた。



お題:リライト様 /長いキス
#お題 #両想い

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一緒に寝る

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.24

#お題 #両想い #未来設定

 ドライヤーで髪を乾かしてやっている間、シャコシャコと音を立てながら歯を磨く恋人に、いささか腹が立つ…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

一緒に寝る

 ドライヤーで髪を乾かしてやっている間、シャコシャコと音を立てながら歯を磨く恋人に、いささか腹が立つ。
 してもらって当然とでもいうような態度が、気に食わない。もっとも、別に頼まれたわけでもないのだから、髪なんて乾かしてやらなくてもいいのだが。
「手塚、ちょっと右向け」
 そう指示すると、手塚は無言で右を向く。まだ湿っていた箇所に温風を当て、しっかりと乾かした。
「ん、いいぜ。乾いた」
 最後にぺしりと後頭部をはたいてやると、特に気にしたふうもなく頷いて、口をゆすぎ始める。
 まったく手のかかるヤツだぜ、とドライヤーを定位置にしまい、跡部はすでに乾かした自身の髪をオイルで調えた。
 手のかかるとは思いつつ、こうして手塚の世話を焼くのは嫌いではない。放っておくと自然乾燥ですませようとする手塚を見かねて、手を出したのが最初。
 今では手塚も、乾かされることにすっかり慣れてしまっているようだった。
「ありがとう、跡部」
「ああ」
 それでも一応礼は言ってくれるので、案外楽しみでもあった。
「体は平気か?」
 しかし、このデリカシーのなさはどうにかならないものかと、跡部は眉間にしわを寄せる。気遣ってくれているのは分かる。分かるが、気遣うくらいなら最初から無茶なことをしないでほしい。
「平気だとも、平気じゃねえとも言えねえ程度だ。加減しろ、ったく……」
「それはすまない」
 先ほどまでバスルームで体を重ねていたが、お互いの合意の上だ。無理矢理されたわけではなく、手塚ばかりを責めることはしたくないが、どうしても負担の大きさが悪態を吐かせてしまう。
 宥めるように、あやすように、手塚が唇にキスをくれる。それでほだされてしまう自分に呆れつつも、しっかりと目を閉じてしまうあたり、どうしようもなかった。
「ベッドに行くぞ」
「……ん」
 それは何ゲーム目かの誘いではなく、単純にベッド本来の使い方をしようという誘導だ。
 そっと背中を押されて、跡部はゆっくりと足を踏み出した。
「お前、明日早いんだったか?」
「いや、早くはないな。いつも通りで構わない」
「明日の天気予報は」
「晴れだ」
「オーケイ」
 目覚まし時計を、いつも通りの時刻に合わせてセットした。明日も晴れならば、早朝トレーニングはランニングからだなと、視線だけで会話をする。雨ならば、家の中でストレッチからの筋トレとなるが、そのメニューは必要なさそうだった。
 二人で寝転んでもまだ余る広いベッドに体を預け、ブランケットを引き上げる。
「寒くないか? 跡部」
「平気だ。お前の体温高ぇしな」
「可愛いことを言うんじゃない」
「……お前のスイッチどこなんだよ」
 今の発言の、具体的にどこが可愛いと言うのだろう。付き合いが長くなっても、いまだに手塚のすべてなど分かりやしない。
 そんな手塚の腕が伸びてきて、ぐっと体を抱き込まれた。
 先ほどよりも体温が近くなって、その心地よさに跡部はふっと笑った。
 体温が高いから平気だと言ったのを、〝くっついて寝るから平気〟だと捉えてくれたらしい。確かにこうしていれば絶対に寒くはならない。
「ん、あったけぇ」
 抱いてくる腕に頬をすり寄せ、跡部も手塚の背に腕を回す。肌の感触を存分に味わった後に、こうしてゆっくりと体温を感じる時間は、跡部のお気に入りの一つ。
 気怠い体を癒やすように、手塚の手のひらが背中や腰を撫でてくれた。おかしな意図は含まずにだ。
「そういえば跡部、カーテン新調したのか?」
「あー、気づいたかよ。これから冬だしな、ブルーじゃ寒々しいだろ」
「さすがに青から薄いオレンジになれば、誰でも気がつく。いい色だな」
 手塚は、ベッドの中でなんでもない日常を話題にするのが好きらしい。それに気づいてから、ハウスキーパーに任せっぱなしだったものを跡部自身で手入れすることが多くなってきた。
 二人で暮らす家だ、お互いが過ごしやすいように、それぞれの意見は取り入れていきたい。
「気に入ってくれたんなら何よりだぜ」
「玄関に飾ってあったあの花は、なんていう名前なんだ。あれもオレンジで綺麗だったな」
「タモラっていう、薔薇の一種だ。実家の方で育ててたヤツ、もらってきたんだよ」
「ああ、なるほど。見覚えがあると思ったら、そのせいか」
 よく覚えてるじゃねーの、と笑い、その後も夕食や観たい映画の話を楽しみ、緩やかな睡魔に襲われる。
「そろそろ寝よう、跡部」
「ん……そうだな、眠くなってきたぜ……」
 手塚が髪を撫でてくれるせいで、睡魔は急激に強大になった。心地良い体温を感じながら、跡部はゆっくりと目を閉じる。
「おやすみ。跡部、今日も一日ありがとう」
「おやすみ手塚、明日もよろしく」
 その囁きは、一日分の愛してる。二人は、身を寄せ合って眠りへと落ちていった。



お題:リライト様、NEW /一緒に寝る
#お題 #両想い #未来設定

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動物と遊ぶ

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.23

#お題 #片想い #両片想い

 手塚の家に、仔猫を見に来た。 雨の日に、手塚が見つけてしまった小さないのち。結局そのまま飼うことに…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

動物と遊ぶ

 手塚の家に、仔猫を見に来た。
 雨の日に、手塚が見つけてしまった小さないのち。結局そのまま飼うことになったようで、仔猫が慣れただろう頃に訪れてみたのだ。
「だいぶ大きくなったじゃねーの」
「ああ、よく食べるし、よく遊ぶ。あとは、ものすごく寝ているしな。そうやって成長していくんだろう」
 手塚の部屋で、仔猫にと持ってきたオモチャを差し出してやる。みぁうみぁうと鳴いているのは、ただの挨拶なのか威嚇なのか。しかし、威嚇できるほどに体力もついたということだ。跡部は安堵した。
「オモチャも好きなんだが、肩に登りたいんだろう。どうも、肩とか背中が好きなようでな」
「ふん? この俺様を足蹴にしたいとは大した度胸じゃねーの」
 手塚が言ったように、肩の傍に持ち上げてやると、器用に爪を引っかけてよじ登り、フンス、と満足そうに右肩に収まってしまった。
「くすぐってぇ……お前、風呂入れてもらったのか? ふわふわだな」
 指先で小さな体を撫でると、鼻先で頬をつつかれる。ふすふすと匂いを嗅がれるのもくすぐったくて、口の端が上がる。
「もともと人懐っこいとは思っていたが、手塚んとこ来て拍車がかかったんじゃねーのか。いい飼い主でよかったな」
「可愛いな」
 頷きながらそう呟く手塚に、跡部は驚く。手塚にもそういう感情があったとは。うっかり胸が鳴ってしまって、こっそり苦笑する。
 その感情が欠片でもいいから自分にも向かってこないかと思うくらいには、手塚への気持ちを自覚していた。
 仔猫に申し訳ないとは思うが、この小さないのちを口実に、手塚に逢いに来られる。せめてここにいる間は、全力で仔猫の要望に応えてやろうと思った。
 肩に乗ったまま、小さな手が髪の毛にじゃれつく。さすがにくすぐったくて、「こら」と小さな体を持ち上げた。
「髪の色が珍しいのだろうか? それとも、あの日一緒に拾ってくれた恩人だと認識しているのかもしれないな」
「恩人はお前だろ。見つけたの手塚じゃねーか。なあ?」
 両手で持ち上げると、鼻先にてちてちと肉球パンチを食らわせてくれる。その後に小さな口で噛みつき、舐めてくる。
「大丈夫か?」
「なんでもねーよ、こんなの。マーキングだろ」
 少なくとも敵意は持たれていないようで安堵する。たびたび様子を見に来ても、受け入れてくれるだろう。
 小さな舌が、口許をかすめていく。だいぶなつかれてしまったなと思うが、それも嬉しい。
「………………俺も、いいだろうか、跡部」
 手塚が、すっと前に膝をついてくる。ハッとして、跡部は抱き上げたままの仔猫を手塚の方へ差し出した。
「ああ、いいぜ。悪いな、ずっと抱いたままで」
 仔猫は、そのまま手塚の手へと移っていく――予定だった。
 だけど手塚の手は仔猫を抱いた跡部の手を通り越し、肩に伸ばされる。そうしてなぜか、距離が縮まった。縮まって、縮まって、縮まって、唇に何かが当たった。
「…………は……?」
 それは間違いなく、手塚の唇だった。
 どうして、なんで、と混乱した。何が起こったのか分からない。
「お前がいいって言ったんだろう」
「え、いや、ねこ……だと、思うだろ、普通は!」
「ではちゃんと言うが、お前にキスをしたい」
「なんでだよ! お前、そんな素振りっ……全然」
 もしかしてこれは、両想いというものではないのだろうか。キスがしたいなんて、好意以外の何物でもない。
「ここ最近お前のことばかり考えていた。いつ猫を見に来てくれるかと、そわそわしていたんだ。跡部、これは恋と呼んでもいいだろうか」
 順番がおかしい。キスをしてから恋の告白だなんて。だけど同じ想いを抱えていたのだと知って、嬉しくてしょうがない。
「ああ、呼べよ、好きなだけ……!」
 俺もお前に恋してる、と鼻先にキスを贈る。
 だけど、にゃうにゃう鳴く可愛い小さな命のご飯のおねだりで、唇へのキスはお預けに。
「そういや手塚。コイツの名前何にしたんだ?」
「ねこだ」
「……………………そうかよ」
 もう少しそれらしい名前はなかったのかと、一生懸命に哺乳瓶に食らいつく仔猫の頭を撫でて、呆れたため息を吐いた。


お題:リライト様 /動物と遊ぶ
#お題 #片想い #両片想い

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猫を拾う

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.22

#お題 #片想い #無自覚 #猫の日

 ざあざあと、強い雨の降る日だった。跡部景吾は迎えの車の中で、頬杖をついて雨の雫を見るともなしに眺め…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

猫を拾う

 ざあざあと、強い雨の降る日だった。跡部景吾は迎えの車の中で、頬杖をついて雨の雫を見るともなしに眺めていた。
 窓ガラスにぶつかって流れていく、まあるい雨粒。これはしばらく止みそうにないなと、小さく息を吐く。メンテナンスに出していたラケットを取りに行くという用事がなければ、まっすぐ家に向かっていただろう。
 大事なラケットだ、誰かに頼むというのも心許なくて、こうして自ら向かって受け取ってきたのだ。
 ふと、前方に雨宿りをしているような人物を見た。今日の天気予報は雨だとテレビもネットニュースも言っていたから、傘を忘れたのなら自業自得だとは思う。
 だけど、見過ごせなかった。
 黒い学生服。それだけならやり過ごしていたかもしれないが、見知った男だっただけに、黙って通り過ぎるのも気が引けた。
「おい、停めてくれ」
 運転手にそう告げると、ハザードランプを点けて停めてくれた。すぐそこに佇むのが、知り合いだと察してくれたのだろう。
「手塚」
 跡部は窓を開けて、車の中からその男に声をかけた。
 知人以上、友人かどうかは分からない、その辺りに位置する手塚国光に。
「……跡部か」
 手塚は顔上げて、跡部を認識したにも関わらず、素っ気ない態度でそう返してくる。跡部景吾を前にしてそんな態度でいるのは、手塚くらいなものだった。
 だからだろうか、必要以上に構いたくなるのは。
「なんだよ、傘ねえのか? 油断してんじゃねーぞ」
 彼の口癖でそうからかうが、よく見てみれば組んだ腕には傘がかかっている。傘がなくて雨の中を歩けないというわけではないらしい。
「いや、そういうわけではない」
 手塚からも否定が返ってくる。よく考えてみれば、この雨は昼過ぎからずっと降っていた。学校から離れたこの場所でわざわざ雨宿りもないだろう。傘が壊れでもしない限りは。
 では何をしているのだろう。手塚の視線は、ある一点を見つめたままだ。先ほど跡部を一瞥した時以外は、ずっとそうしている。
 視線の先に何かあるのだろうか。残念ながら車の中からではそれが確認できなかった。
 跡部は仕方なく車を降り、小走りに手塚の元へ駆け寄った。定休日らしいカフェの軒下で、僅かに水滴のついた制服を払う。
「何かあるのか?」
「少し静かにしてくれ。逃げてしまう」
「逃げる? ――あ」
 手塚の視線を肩越しに追ってみると、そこにいたのは小さないのち。
 雨に濡れた仔猫だった。
 みぃあ、みぃあ、と雨音にかき消されそうな小さな声で、それでも一生懸命に鳴いている。どうやらこの仔猫をずっと眺めていたらしい。
「捨て猫か?」
「分からない。あの猫以外には居ないから、もしかしたら母猫とはぐれてしまったのかもしれない」
 建物と建物の狭い隙間。猫が好んで通りそうな場所ではあるが、小さないのちは一つきり。他の兄弟や母猫は見当たらない。
「お前、どれくらいここにいるんだ」
「さあ……小一時間ほどだろうか」
 母猫が戻ってくるかもしれない。その時、ヒトの匂いがついていれば、本格的に見捨てられる可能性がある。
 それを見越して、じっと見守るだけにしているのか。それにしたって、寒い中である。
「車ん中来いよ、手塚。少し離れてるとはいえ、そんなとこに突っ立ってたら、母猫も警戒するだろう」
 ある程度距離を置いていないと、と跡部は続ける。その言葉に納得したのか、気まずそうにしながらも手塚はそれを承諾してくれた。
 待たせていた車に手塚を乗せて、自身も乗り込み、ドアをそっと閉める。仔猫が驚いてしまわないように。
「ぼっちゃま、どうかなさいましたので?」
「ああ、猫がいるんだ。小さいヤツ。ちょっと様子を見たい」
 運転手に訊ねられ、跡部はこのまま待機だと告げる。すみませんと呟く手塚には、好感が持てた。
「さようでございますか。では、近くの動物病院でも探しておきますね。保護なさるなら連れていった方がよろしいかと」
「ああ、頼む。ありがとう」
 いえ、と運転手は個人用の端末でネットを検索し始めた。謝罪よりは礼を言うようにしている跡部は、帰ったら言葉とは別に労いでもしてやろうと考えた。
「どうだ? 手塚」
「……様子は変わらないな。通り過ぎる人もいるのに、気にすることはないようだ」
「この雨であの鳴き声も聞こえねえんだろ。気づいたお前がすげえんだよ。優しいところもあるじゃねーの」
「たまたまだ。だが、気づいてしまったものを見過ごせない」
 車の中から仔猫の様子を窺いながら、手塚はそう呟く。膝の上で組んだ手が、どこかそわそわと落ち着かないのを見て、跡部はふっと口許を緩めた。
「このまま母猫が連れ戻しにこなかったら、どうすんだ? 保護してお前の家で飼うのか?」
「……俺だけの判断で、飼うかどうかを決めることはできない。ただ、見つけた以上は何かしたいと思う」
「動物の飼育経験はあんのか」
「ない。だからこそ安易に、飼うとは言えないんだ。学ぶことはできるが、まず家族の意見を聞かねば」
 なるほどねと、跡部は頷く。
 そう言う間にもじっと仔猫がいる場所から目を逸らさない手塚に、ホッとした。
 仔猫の鳴き声に気づき、見守るのはいい。誰にでもできることだ。
 ただ、母猫が戻ってくるかもと考え、接触を避けるという行動に出られるのは、思慮深いと言える。
 さらには、見つけた責任があるとはいえ、すぐに飼うと言い出さないのは良いことだった。
 いのちを拾うのだから、中途半端な憐れみだけで行動を起こすべきではない。最期の瞬間まで世話ができるのかどうか、冷静な判断をしているのはさすがだと思った。
 テニスが関わらないと冷静なんだなと肩を竦め、ただ一度ボールをかわした公式戦を思い起こした。
「お前んとこで飼えなかったら、うちで面倒みてやってもいいぜ」
「それは助かる」
「……なあ、そしたら、様子を見にいってもいいか?」
「ああ。跡部が猫を好きだとは思わなかったな」
「俺様に嫌いなものなんてねえぜ。……あ、…………節足動物は、少し、苦手、だが。少しな」
 できればあまり関わりたくはないものもある、と言い訳のように付け足せば、ここにきて初めて、手塚が顔ごと跡部を振り向いてきた。
「そうか」
 それはすぐに仔猫の方へと向けられたけれど、跡部は見逃さなかった。口の端がふっと上がっていたことを。
 笑った顔など見たことがなくて、心臓が変な音を立てる。
 なんだ? と首を傾げながら思い、もう振り向かない手塚の横顔を眺める。
 いつまでも、こうして見ていたいような気分になったけれど、外を見れば雨足がさらに強くなってきている。
「手塚」
 心配そうに外を眺める手塚に声をかけた。
「保護しよう。仔猫の体力が保たねえ」
「……そう、だな。母猫は戻ってこないようだ」
 手塚が気づく前からそこで鳴いていたのだとしたら、だいぶ体力が持っていかれているだろう。元々の体力がない上に、この雨では、命にさえ関わる。
 二人はそろって車を降りて、仔猫に警戒させないようにゆっくりと近づく。
 しゃがみ込む手塚に傘を差し掛けてやりながら、みゃうみゃうと鳴く仔猫の力強さにホッとした。
「ぼっちゃま、掃除用ので申し訳ないのですが、タオルを」
「ああ、気が利くじゃねーの。使わせてもらうぜ」
 仔猫は、手塚が伸ばした手の方へちょこちょこと歩み寄ってくる。警戒心は、そんなにないようだった。
 手塚は仔猫をつまみ上げ、素早くタオルの上に乗せる。跡部はそれを、逃げ出してしまわないようにさっとくるみ、手塚と頷き合って車へと戻った。
 さすがに濡れてしまったけれど、びしょ濡れの仔猫よりはよほどマシだ。
 寒さに震えている仔猫の体から水分を拭き取り、目立つ怪我などはないことを確認した。
「じゃあ病院連れてって、ひとまずお前の家でいいのか? 手塚」
「ああ。すまないが、頼む」
 調べてもらった動物病院に向かい、診察をしてもらった。初めて来たのか、手塚はずっとそわそわした様子だった。
 生後一か月ほどの、メスとみられる、と教えてもらい、健康状態にも特に問題ないらしいことを聞きホッとする。
 そうして家に移動するまでに、手塚は母親に連絡を入れているらしかった。電話から、少しはしゃいだような声が聞こえる。
「親御さん、猫大丈夫か?」
「恐らく、アレルギーとかはないと思うが……」
 手塚の膝に乗せたタオルの上で、仔猫がにゃあと鳴く。人を警戒することを知らないような様子は、母猫が攻撃などから守り上手く育ててきていたのだろうと思わせる。
 それを思うと、こうしてはぐれてしまったことが憐れでならない。
「……拾ったからには、ちゃんと育ててやらないとな」
 手塚も同じことを思っていたのか、仔猫の頭を指先でそっと撫でる。
「力になるぜ、手塚」
「ありがとう、跡部」
 素直に受け止めてもらえて、胸が鳴る。対戦校のライバルに力など借りてたまるか――なんて突っぱねることもなく、仔猫を大事そうに抱えている。
 この男なら任せても大丈夫だろうと、跡部は仔猫の幸せを願った。


 手塚の家に着くと、玄関先まで女性が出迎えに来てくれた。どうやら手塚の母親らしいと分かるも、想像していたのと違って、跡部はこっそり驚く。
「国光がお友達連れてくるなんて。それに、猫ちゃんも。どうぞ上がって」
 おっとりと、ふわふわした女性だ。手塚の母親というのだから、厳しそうなイメージがあったけれども、まるで真逆だ。
「初めまして、跡部です。手土産もなしに申し訳ありません」
「子どもがそんなこと気にするものじゃないわ。制服違うのね、跡部くん。テニスの方のお友達?」
 他校の部長なんですと手塚が説明する横で、跡部はどういう顔をしていいのか分からなかった。今まで〝子ども〟扱いされることなんてなかったからだ。不快なわけではないが、複雑な気分になる。
「猫ちゃん、ずいぶん小さいのね。暖めて、ミルクをあげなきゃ」
 途中で買ってきた仔猫用のミルクを与えてみると、よほど腹が減っていたのか、ものすごい勢いで飲み干してしまった。
 哺乳瓶から含みきれなかったミルクが、口の周りを汚す。あらあらと母親がそれを優しく拭き取ると、仔猫は手塚の腕の中で気持ちよさそうに伸びをした。
 保護されたばかりでこの態度は、大物になるかもしれないと思い跡部はくっくっと肩を震わせて笑った。
「もう少し体力がついたら、洗ってやるといい。まあこんだけ飲むなら心配ねえだろ。すぐに離乳食だのなんだのになる」
「そうか。食欲があるのなら安心だ」
 ホッとした表情の手塚を見て、跡部の方こそホッとする。
「手塚、じゃあ俺はそろそろ帰るぜ。何か困ったことがあればすぐに言えよ」
「帰るのか? まだお茶も出していないが」
 手塚は驚いた表情をして、タオルを敷いた段ボール箱に仔猫をそっと置く。保温用のペットボトルにしがみついてにゃあと鳴く声が聞こえた。
「そうよ跡部くん、制服も少し濡れてるし、乾かしていった方がいいわ」
「いえ、お構いなく」
 外に車を待たせているのでとやんわり断って、ここで初めて手塚と連絡先を交換した。テニスでなく猫がきっかけでというのが、どうにもおかしかった。
「たびたび連絡することになるかもしれないが」
「ああ、いつでもいいぜ。たまには様子に来てやる」
 猫を放っておくんじゃないと、小さな段ボールを指す。ああ、と心配そうに仔猫を振り向いた手塚の肩をぽんと叩いて、母親にぺこりと頭を下げて、跡部は手塚家を後にした。
 待っていてくれた運転手に礼を言って、自宅へと進路を取ってもらう。
 携帯端末が震え、メッセージの受信を報せてきた。手塚からだ。さっそく何かあったかと確認してみると、
『今日はありがとう』
 一行だけの礼と、仔猫の写真。ピントがぼけているあたりが、手塚らしくて笑ってしまった。
『写真の練習が必要だな』
『今度来たときに教えてくれ。こういうのはよく分からない』
『任せておけ』
『よろしく頼む。母から伝言だ。次に来るまでに、好きなケーキを教えてほしい、と』
 口の端が上がる。よほど、今日もてなせなかったのが気に掛かるようだ。優しい家族だなと思う。あの家でなら、仔猫も幸せに暮らせるだろう。
 次に逢いに行くときは、オモチャでも用意して行ってやろう。もちろん手塚にではなく、仔猫にだ。
 その日が楽しみでしょうがない。想像して、胸が温かくなる。
 テニスではない事柄で、手塚とつながっていられるのが、嬉しくてしょうがない。連絡を取り合うのなら、テニスしかないと思っていたのに。
 手塚から届いたメッセージを、何度も見返す。色気も素っ気もないものだが、確かに手塚からの言葉なのだと。
 まったく妙な気分だと、顔をしかめる。どうしてこんなにも、手塚と繋がれたことが嬉しいのだろうか。胸がそわそわして、どきどきして、視界にずっと手塚の横顔がちらついているような気分になる。
 手塚が仔猫に見せた優しさが、嬉しくもあるし、切なくもある。
 所詮ライバルでしかない自分は、あの優しさに触れることはできないのだろうと、寂しささえ感じた。
 この胸の疼きが、どこから来て、どこへ行き着くべきなのか分からない。
 今はただ、手塚からのメッセージが嬉しい。
 アイコンを撫でる。吹き出しをなぞる。
「手塚……」
 外はいまだに冷たい雨がざあざあと降っているのに、跡部の指先は熱を持っていた。
 名を呼んで、吐く息さえも。

お題:リライト様 /猫を拾う
#お題 #片想い #無自覚 #猫の日

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額にキス

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.21

#塚跡 #塚跡お題100本マラソン #両想い #未来設定

 二人で揃いのパジャマを買った。 派手なものは却下だという手塚と、それは地味すぎると言う跡部では、な…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

額にキス

 二人で揃いのパジャマを買った。
 派手なものは却下だという手塚と、それは地味すぎると言う跡部では、なかなか好みが合うことはなく、決めるのに苦労したけれど。
「なんか物足りねえんだよな。その色は俺の好みじゃねえ」
「色がどうこうより、リラックスできる方がいいに決まっているだろう」
「好きじゃねえ色のもん着てリラックスなんかできるわけがねえだろ」
「分かったお前はそれを買え、俺はこっちを買う」
 なんてケンカしそうにもなったけれど、どうにか冷静に話し合ってみた。
 考えてみれば、暮らしている環境も育ってきた環境もまったく違うし、そもそも別々の人間なのだから、好みが異なるのは仕方がない。
 そういう合わない部分に折り合いを付けながら、世間の恋人たちはケンカと仲直りを繰り返して、絆を深めていくのだ。
「……せめてこのゴールドのラインが入ったのは止めないか。目に優しくない」
「ボタンの方が楽か……? こっちのなら、そんなに派手じゃねえよな」
「色は揃いじゃなくても、同じデザインのものがいいな」
「お前はこっちの色の方が似合うぜ」
 そうやって、少しずつ、少しずつ歩み寄る。
 ケンカをしたいわけではないのだと視線ひとつで互いをなだめて、並ぶいくつものパジャマを手に取ってみた。
 別に、一緒に暮らすことになっただとかそんなことはない。何しろまだ中学生の身だ、世間的にも親の保護が必要な年齢である。
 ただ、手塚は跡部の家に泊まることが多くなっていて、どうせなら専用のパジャマをと、跡部が言い出したのだ。
 それなら揃いのものが欲しいと言ったのは手塚で、珍しい手塚からの要望に、跡部は一も二もなく頷いた。
 休みの日に、手塚に連れられて洋品店に来た跡部は、物珍しそうにキョロキョロと辺りを見回していて、手塚はそんな様子が可愛いだなんてこっそり思ったりもした。
 付けられた値段のタグに驚いて、桁が違うんじゃねえのかなんて心配する跡部に、これが普通だと返すのも慣れてきた。
 そうして、お互いの意見をすりあわせて購入したのが氷帝ブルーによく似た青色のパジャマ。
「跡部の色だな」
「……氷帝カラーじゃなく、俺の色かよ。……ふふ」
 どことなく嬉しそうに口の端を上げる跡部に、手塚も満足げだ。
「お前はこの色でいいのかよ。探せば青学っぽい青もあんだろ」
「いや、これがいい。落ち着く色だ」
「そうかよ。お前がいいならいいけどよ」
 遠慮しているわけではないと頷くと、跡部も納得したように頷いた。
 跡部の色だと認識しているこの色を纏って眠るのを、手塚は案外楽しみにしているのだ。
 そんなことがあって、夜。
 入浴と歯磨きを済ませ、広いベッドに二人で寝転ぶ。一度洗われたパジャマは、さらさらと肌を優しく包んでくれて、慣れた柔らかな匂いがほんのりと香ってくる。
「揃いのパジャマってだけなのに、なんだか落ち着かねえな」
「お前もか。俺もだ」
「けど、悪くねえ」
「ああ」
 知らず、口許が緩む。そわそわするのに、いつもの触れ合いの時とは違うようだ。
 このまま素肌を合わせてもおかしくない間柄なのに、今日はそういう雰囲気にならなかった。
 恐らくお互い、初めてのおそろいを脱いでしまうのはもったいない、なんて思っているのだろう。
「なあ手塚、もう一着買おうぜ。そんでお前の家に置いておけよ」
「それは構わないが、俺のベッドはここみたいに広くないぞ」
「ハハッ、それがいいんじゃねーか。ヤロー二人じゃくっついて寝るしかなくなるからな」
「広くてもくっついて寝ているが」
「くっついて寝たいのと、くっついて寝るしかねえのは違うだろ」
 どちらにしてもくっついて寝るのかと呆れつつ、嬉しさが口許を緩ませる。
「今日は随分とご機嫌じゃねーの、手塚」
「それはお前もだろう」
「まあそりゃな。さあもう寝るぜダーリン。明日は朝からテニスすんだからよ」
 跡部が時計のアラームをかけるのを見て、手塚は眼鏡を外してチェストに置く。
 明日のテニスも楽しみだと、別の意味でそわそわしてしまう。だが跡部とテニスをするのなら万全の態勢で挑みたい。彼の言うように、もう眠らなければと体から力を抜いた。
「おやすみ手塚。いい夢見ろよ」
 そう言って、跡部は額にキスなんかしてくる。触れた唇の感触に胸がざわついた。
 しかけた張本人は、無責任にも満足そうにブランケットを引き上げて、すっかりおやすみモードだ。この状況では手を出されても文句を言えないぞと言ってやりたいが、明日のことを考えて手を出すつもりはない。
 お前の夢を見そうだなんてことも、言ってやる気はさらさらなかった。


お題:リライト様 /額にキス
#塚跡 #塚跡お題100本マラソン #両想い #未来設定

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甘えるのが怖いのは

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.02.20

#塚跡 #塚跡お題100本マラソン #両想い #未来設定

 機嫌がいいなと、隣に座る恋人の鼻歌を聴きながらページをめくる。何がそんなに楽しいのか、気ほどから耳…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

甘えるのが怖いのは

 機嫌がいいなと、隣に座る恋人の鼻歌を聴きながらページをめくる。何がそんなに楽しいのか、気ほどから耳に入るその歌は、とても心地良かった。
「どうしたんだ? 跡部」
「ん? 何がだよ」
「鼻歌」
 訊ねてみれば、きょとんとした顔で目を瞬く。どうやら、無意識だったらしい。
「悪い、気づかなかった。うるさかっただろ。邪魔してすまねえな」
「いや、邪魔なんてことはない。お前の機嫌がいいのは俺も嬉しい」
「そうかよ?」
 言いながら笑って、跡部はこてんと肩に頭を乗せてくる。くっついていたいのかと気づいて、ぽんぽんとその頭を撫でた。
「手塚が珍しく甘えてきたからかもな。めったにねえから浮かれた」
 跡部の口から放たれた言葉に、目を瞠った。思わず勢いよく跡部を振り向いてしまう。
「……アーン? まさかお前、認識してなかったか?」
「え、あ、いや……そう、だな。甘えたというのは、具体的に、どう、いう」
 動揺した。そんなつもりは欠片もなかったし、そのせいで跡部の機嫌がいいというのも理解ができない。
 いったい俺の何が、〝甘えて〟いると思わせたのだろうか。
「帰ってきて速攻俺を抱いただろう。何かあったのかって思ったけど、悪いことでもなかったみてえだしな。少し待てっつってんのに聞きやしねえ」
 ぐっと言葉に詰まる。帰宅直後のことを言われると、何も弁解できない。
 何かあったわけではないんだ。少し、疲れたなと思って、けど玄関を空けたら出迎えてくれるお前がいたから、どうしても触れたかっただけで。
「す、すまない……」
「謝るなよ。俺は本当に嫌だったらテメーを張り倒すくらいできる。……なあ手塚、俺は充分にお前を甘やかせたかよ?」
 ちゅ、と跡部は頬にキスをくれる。
 まあ、それは確かに、跡部が本当に嫌がったら、容赦なく張り倒されるだろうなとは思う。さすがに嫌われたくはないから、そういうことをする時は一応訊ねているつもりだ。今回が特殊だっただけで。
 玄関先で、ただいまもろくに言わないままキスをして、寝室に引っ張り込んで、抱いた。何度も何度も跡部の名を呼んで、奥に流し込んだんだ。
 よく怒られないなと思う。それどころか、甘えられて嬉しいと言うのだから。理解が追いついてこない。
「…………甘えた、つもりはないんだ。だが、お前が甘やかしたというのなら、俺はお前に甘えていたんだろうか?」
「なんだよ手塚。お前、俺に甘えるの嫌なのか?」
 なんと答えたらいいのか分からない。跡部が不愉快でないのならいいが、返す言葉に迷った。
「嫌……というか、怖い、だろうか」
「怖い? どうしてそんなふうに思うんだ。男が甘えるなんて、ってことか……?」
 跡部の声が不安そうなものに変わる。上手く説明できないが、ちゃんと伝えなければ。甘えさせてくれる跡部が悪いわけではないのだから。
「際限がなくなりそうで、怖い。お前は俺のすべてを赦して、甘やかす。それに慣れてしまうのは怖い。お前に甘えて、溺れて、弱くなっていく。そんな可能性だってあるだろう」
「ねえよ、そんなものは」
 言葉を選んで、俺なりに思っていることを伝えてみたが、即座に否定される。いったい何を根拠にそう言い切るんだ、跡部は。
「たとえお前が俺に溺れたとしてもだ。まあそれがそもそもねえんだけどよ。それでもお前が弱くなることはない。強くなることはあってもな」
「……根拠は」
「アーン? そんなの決まってんだろ。俺が跡部景吾でお前が手塚国光だからだ。俺たちはずっとそうだった。競い合って、高め合って、強くなってきた」
 左手が、跡部の右手に取られて指が絡んでくる。目からうろこが落ちたような気分だった。
 跡部景吾と手塚国光だから。
 それは根拠になるのかどうか怪しいが、確かに俺たちはいつだって競い合ってきた。
 跡部は戦友であり、好敵手であり、恋人だ。跡部にとっての俺も、そうであってほしい。
「俺がここにいる限り、お前は弱くはならねえよ」
 強くなりたい。跡部とずっとこんな関係でいたいんだ。
「甘えんのは弱さじゃねえ。なあ手塚、お前は俺に甘えられるのは嫌かよ?」
「そんなことはない、嬉し……あ、……ああ、そうか」
 跡部の機嫌が良かった理由を、ようやく実感した。恋人に甘えられれば、俺だって嬉しい。跡部もそうだったのだろう。
 何を難しく考えていたのか、分からなくなった。
 甘えさせてくれる恋人がいる。弱くなんてならないと言ってくれる恋人がいる。怖がる必要など、どこにもなかったんだな。
「お前が嬉しいなら、俺も今日、お前に甘えたい。いいか?」
「ああ、跡部。先ほどお前に甘えた分、今度はお前を甘やかそう」
「楽しみじゃねーの」
 いったいどう甘やかしてくれんだ? と楽しそうな跡部の唇に、ひとまず深いキスを贈っておいた。


お題:リライト様 /甘えるのが怖いのは
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