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止め処ない蒼

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.11

#お題 #両想い

 あ、と吐息のような喘ぎが耳に留まる。 何度目だろうか。跡部景吾を胸の下に抱くのは。 好きだと言った…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

止め処ない蒼

 あ、と吐息のような喘ぎが耳に留まる。
 何度目だろうか。跡部景吾を胸の下に抱くのは。
 好きだと言ったのは、確か十五になったばかりの秋。跡部の誕生日パーティーに招かれて、そこで自分の気持ちを自覚した。
 三日後だった俺の誕生日に、プレゼントは何がいいんだと車で乗り付けられて、「跡部景吾」と言ったのをまだ覚えている。
 正直、もっと気の利いた告白があっただろうと思う。配慮もなければムードもなくて、ただ跡部ともっと親しくなりたかったんだ。
 跡部は困ったような顔をして、視線を泳がせていた。綺麗な蒼が右往左往するのは見ていて楽しかったし、ああやはり綺麗だなと思ったけれど。
 それをもっと近くで見たい。そういう距離にいられる関係になりたい。
『俺のことが好きなのか?』――そう言われて初めて、好きだと言っていないことに気がついたんだ。
 ハッとして頷きながら『そうだ』と返せば、こういう展開は考えてなかったと跡部は長く息を吐いた。まあそうだろうな。俺自身が気持ちを自覚したのはその三日前だったんだから。
『お前が望む物をくれてやりたい』
 そう言ってくれた跡部に、その日はキスだけもらった。それだけでも驚いたのに、『じゃあ今日から恋人ってことで頼むぜ』と付け加えてきたんだ。
 今思い返しても、何から何までおかしい。
 あの時点では、跡部は俺を好きなわけではなかったはずなんだ。それなのにキスを許してくれて、恋人にまでなれた。
 困惑はしたが、取り消しや言い直しなんて聞かないと腕を掴んだんだったな。それも振り払われなかった。
 ただあの蒼の瞳が、面白そうに俺を見ていたのだけは分かる。
 そして――今現在も。
「おい手塚ぁ。何考えてやがんだよ、この俺を組み敷いておきながら考えごととは、随分な話じゃねーの」
 不機嫌そうな声が下から聞こえた。しまったと思う。これは機嫌を損ねてしまっただろうか。
「すまない、今のお前に集中する」
「今のってなん……ん、ぅ」
 中学生の頃の跡部を思い起こしていた、と説明する前に、唇を覆った。閉じられないままの瞳が俺の動向を見守っていて、心地が良い。
 俺はたぶん、跡部のこの蒼の瞳が好きなんだろう。跡部が思っているよりも、俺自身が自覚しているよりも、もっと、ずっと。
 唇の中で舌を絡めて、舌を吸い上げる。びくりと肩が揺れて、跡部の目蓋が落ちてしまった。もったいないなという思いと、濡れた睫毛も綺麗だなという思いが交錯する。
 つまりは、跡部景吾であればなんだっていいのだが。
「ん、んん……」
 気持ちよさそうな声が聞こえてくる。その音だって俺には興奮剤だ。唇を解放して、頬に、鼻先に触れながら体のラインをなぞっていく。
「手塚……」
 吐く熱い息とともに名を呼ばれ、きゅんと胸が締めつけられる。跡部に呼ばれると、昔からこうなるんだ。何か魔法でも使っているのだろうか。
「跡部、そう可愛い声で呼ぶな……せっかく今日こそは優しくしようと思っていたのに」
「名前呼んだだけだろうが……」
「自覚しろ」
 ぐっと強く抱きしめる。胸に食らいついて、立ち上がった乳首を丹念に愛撫し、歯を立てた。
 跡部の唇から断続的な喘ぎが漏れる。体が疼いて仕方がない。やっぱり今日も、優しくなんてできないぞ。
 責めるように、抱く腕に力を込めたら、跡部は蒼の綺麗な瞳で面白そうに笑っていた。


「何が面白かったんだ? 跡部」
 終わった後、髪を梳きながら訊ねてみた。どうして跡部は、ことあるごとにああも面白そうに笑うのか。
「ん?」
「さっき、笑っていただろう。あの表情はよく見かける」
「あー……」
 自覚がないのかとも思ったが、どうやら心当たりはありそうだった。跡部はごろりと寝返りを打って、高い天井を見上げる。
「面白いっていうか、嬉しい、の方だろうな、お前が言ってんの」
「嬉しい?」
 起こした上体を枕で支え、跡部を見下ろす。跡部はこくりと頷いて、綺麗な手を持ち上げた。
「まずお前が俺に欲情してんのが嬉しいだろ。次に、可愛いなんて言われてまあ嬉しくないわけもねえしな。後は優しくできないって言っておきながらも丁寧な指先が、嬉しいんだよ。後は、俺を呼ぶその声がもう、嬉しくて、幸せでしょうがねえ」
 言いながら、指を一本一本折り曲げていく。どうやら、笑っている理由を挙げてくれているらしい。こちらが赤面するようなものを。
「お前も忙しいのに、俺に逢うために時間作ってくれてんのも、嬉しいしな」
「いや、それは俺の台詞なんだが」
 中学生だった頃の方がまだ、自由に使える時間があった。それこそ毎日のように逢っていたな――と思い起こして、ふと違和感。
 跡部に好きだと言ったあの日。
 あの日も、跡部は面白そうに笑っていたのだ。それは今抱いた時の顔とまったく一緒。さっき、よく見かけると言ったのは噓じゃない。あの頃からだ。
 待て。
 じゃああの頃のも、「面白くて」ではなく「嬉しくて」笑っていたというのだろうか?
「……跡部、さっき、俺は考え事をしていたな」
「ああ、ムカツクことにな」
「いやそこで妙な心配をするな。考えていたのはお前のことだ」
 へえ? と跡部の蒼の瞳が揺れる。それこそ、面白そうにだ。なるほど、面白いと思っている時と嬉しいと思っている時は、よく見ると確かに違うようだ。
「ずっと聞きそびれていたんだが、跡部。もしかしてお前、俺のことを前から好きでいてくれたのか? 俺が告白したあの時も、お前は同じ顔で笑っていた」
「……お前は俺を、好きでもねえヤツとキスするような男だと思ってたのかよ」
 呆れたように目を細めて、俺の額を爪の先ではじいてくる。
 俺は、跡部は徐々に俺のことを好きになってくれたのだと思っていた。俺にほだされたと思っていた、というのが正しいかもしれない。
「跡部は優しいから……あるいはそうなのかと。困ったように目を泳がせていただろう」
「そりゃ、驚いたからに決まってるぜ。片想いだと思ってたところに、プレゼントは跡部景吾が欲しいなんて言われてみろ、混乱もする」
 ぐっと言葉に詰まった。逆の立場だったら、それはやはり驚くだろう。
「それでもお前はまっすぐ俺の瞳見つめてきやがるし、噓じゃないんだと思って、嬉しかった」
 言いながら、跡部は笑う。嬉しそうに、幸福そうに。細められた目蓋の奥に揺れる蒼は、やはり俺の好きなもの。
「気づいてなかったんなら言ってやる。ずっと好きだったんだぜ、手塚」
 理由を指折り数えた手を、跡部が伸ばしてきてくれる。その手を取って指を絡め、俺は跡部の方へと身を寄せた。
「そうか。想いの大きさは俺の方が上だろうがな」
「アーン? 聞き捨てならねえな。勝つのは俺だ」
「俺は負けない」
 本当に、止め処なくあふれてくる想いがある。それを、跡部の蒼の瞳に訴えかけて、目蓋にひとつキスを贈った。



お題:リライト様 /止め処ない蒼
#お題 #両想い

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流れ星に願いを

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.10

#お題 #片想い #両片想い

 流れた星が消える前に三回願い事を唱えられれば、それは見事に叶うらしい。 そんな馬鹿げた迷信を信じる…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

流れ星に願いを

 流れた星が消える前に三回願い事を唱えられれば、それは見事に叶うらしい。
 そんな馬鹿げた迷信を信じるほど純粋ではなかったし、大抵のことは自分自身で叶えてきた。
 そんな跡部ではあるが、これは叶わないだろうなと思う願い事もある。
 天体観測をしようと言い出したのは、いったい誰だったか。向日か、鳳か、それとも菊丸だったか。
 合宿所の屋上で、満天の星を見上げる。
 ロマンチックでいいですねと観月も満足げだし、沖縄とは見える位置が違うという比嘉中の連中もいる。日吉は星よりUFOを探してくださいなどと言っているし、一氏はあの星とあの星は(つがい)やなんてわけの分からないことをほざいている。
 気づけばちらほらと高校生の姿も見えて、いったいどこ繋がりだと不思議にも思えてくる。
「昼間は練習ばかりであまり実感もできないが、ここは自然が多いな」
 かけられた声に、うっかり胸が高鳴る。
 惚れた相手に話しかけられたくらいで胸が躍るとは、なんとも純情なものだと、浮かれたがるのを必死で抑えて、跡部は手塚国光を振り向いた。
「そうだな。こんなに遠くまで広がってる星空を見るのは、久しぶりだ」
 跡部の声に頷く手塚の手に、何か握られているのが目に入った。ペラペラのクリアファイルのようにも見えたが、どうも違うようだ。
「手塚、なんだそれ」
「これか? 星座の早見表だ。季節ごとに星の見え方が違うからな。こうして盤を動かすと、星の位置が分かるようになっている」
 それは空の星を描いた薄い表。内側に一年分の星の位置が載っていて、季節を合わせてくるくると回すらしい。跡部は初めて目にするものだ。
 珍しそうにしていたら、それに気づいた手塚が早見表とやらを貸してくれる。
「おい、これはどうやって合わせんだ。ああ、こっちが北か」
「そうだな、この矢印を向こうの方角に合わせるんだ。今は秋に差しかかる頃だから、季節としては……このあたりだろうか」
 使い方を教えるためだろうが、手塚との距離が近くて困る。いや困らないが、……やっぱり困る。心臓の音を聞かれてしまいそうだ。早見表が一枚しかないというのが問題なのだ。
「これ、一枚しかねえのか? お前も見たいだろうが」
「あるが、他の連中も使うだろう。俺はお前と使うので問題ないが」
 回避しようとしたが、失敗に終わる。顔が赤くなっていそうだ。どうか気づかれませんようにと、跡部は早見表に視線を落とした。
「これ、何か有名な星座らしいな。アンドロメダ座だってよ」
「位置でいうと……あの辺りだな」
 早見表を覗き込んだ手塚が、次に空を見上げてぐるりと指で囲う。
「あのオレンジっぽい星だろうか」
「おお、冴えてるじゃねーか手塚ぁ。ミラクって名前がついてるようだぜ。そこからこう……繋げて、横に広がってる」
 そうして、二人で早見表と空とを見比べる。同じように、そこかしこで「見つけた、見つけた」などと楽しそうな声が上がっている。
「しかし、今見ている光が何億光年も離れた場所の物だというのは、不思議なものだな」
「宇宙の神秘は計り知れないからな。ロマンじゃねーの」
「ああ」
 夜空を見上げる手塚の横顔を、そっと盗み見る。綺麗だなと胸の中でこっそり思うだけなら、誰にも気づかれずにひっそり想うだけなら、許されるだろうか。
「流れ星が消える前に願い事を唱えれば叶うと言うが、もしかしたらそういう神秘的な力がどこかで働くのかもしれないな」
「なんだ手塚、そんなの信じてんのか?」
 意外だなと続けると、そうだろうかとそっぽを向かれる。気を悪くしたのかもしれないと、慌ててフォローを入れた。
「信じていそうにねえお前までそうなんだから、星の力ってのはあるかもな。信じさせちまう、何かがよ。手塚は何か願い事あんのか?」
「…………あるといえばあるが、叶えるのは難しそうなものだ」
「へえ?」
 同じだなとは言えなかった。そう言っても、手塚はこちらの願いが何かなど、気にも留めてくれないだろうと分かるから。
 想っているのはこちらだけで、手塚はそんなこと欠片も思いはしない。
「頑張ればどうにか叶えられんこともないかもしれないんだが、勝手が分からん」
「なんだよ、弱気じゃねーの。らしくねえぜ。いつもみたいに強引にいけばいいじゃねえか」
 ため息交じりに呟かれる泣き言を、珍しく思う。およそ手塚から泣き言など吐かれそうにないのに、どうしたことだろう。
 そんなに難しいことなのか。跡部の思考は瞬時に、何か力になれることはないかと、さまざまな可能性に分散していく。
 金銭的な援助ならいくらでもしたいが、それは手塚に対して失礼だろうか。それとも、テニスの技術的な問題なのか。練習に付き合うくらいはできるし、トレーナーやドクターが必要な状態ならば、すぐにでも最高のスタッフをそろえたい。
 何にしろ、手塚の望みがなんなのか分からない限りは空回りになってしまう。
「強引にいって叶うものなら、とっくにそうしている」
「そんなに難しいのかよ……俺じゃ、力にはなれねえのか?」
 星を眺めていた手塚が、跡部を振り向いてくる。それは驚いたような、困ったような表情で、どうしてやればいいのか分からない。
「俺は、お前のことを、その……大事なライバルだと思っている。そのお前が何か叶えたいってんなら、力になってやりたいと思ってんだぜ」
 これくらいなら、気づかれないだろうと、ドキドキしながら言葉を紡ぐ。ライバルだと思っているのも本当だし、おかしくはないはずだ。
 せめてその願いがなんなのか知りたいと、手塚の肩に手を置く。このまま抱き寄せてしまえたらと思う気持ちを、理性で必死に抑え込んだ。
「ライバル……でしか、ないか」
 手塚が、小さく、本当に小さく呟く。聞き逃しそうになって、小首を傾げたその時。
「あ! 星! 流れた!」
 ある一角から、大きな声が上がった。思わずそちらを振り向くと、よほど嬉しかったのか、相棒である大石に飛びついている菊丸の姿が見えた。その声を聞いて、周りは一斉に空を見上げていた。
 手塚と跡部も、例に漏れず。
 待って、待って、待って、流れてくれと願ったその直後。
「――あ」
 視界の端を、小さな星が流れていった。
 それはすぐに消えてしまって、願いを唱えるどころの話ではない。こんなにすぐに消えてしまうのか。
 それを考えると、唱えることができたら奇跡のようなものだ。そんな奇跡には、やはり神秘の力が働いて、本当に願いが叶うのかもしれない。
「手塚、今の見たか?」
「ああ、見れた。願い事を唱える暇などなかったが」
「ハハッ、だろうな」
「――だが、お前と一緒に見られたのは嬉しい。背中を押されたような気分だ」
「アーン?」
 一緒に見られて嬉しいのはこちらの方だ、と返しかけて、はたとおかしなことに気がついた。なぜ手塚が嬉しがるのだと。
「跡部、俺の願いを知りたがっていたな」
「あ、ああ、うん?」
「困ることになるかもしれないが、構わないか?」
「力になりたいって言っただろうが」
「では、俺の恋人になってくれ。それで俺の願いは叶う」
「――――は!?」
 一体何を言われたのか分からない。どうして、なぜ。跡部は願い事を唱えられなかった。それなのに、何がどうなって相手からそんな申し出が成されるのか。
「いや、こ、恋、……はァ?」
 混乱して、困惑して、単語として成り立たない。イエスしか返せないが、はたしてわけが分からないまま返していいものかどうか。
「困らせているな、すまない」
「困って……ああ、困るのか、困るね、いや困ってねえ。全然、ちっとも」
 ふる、ふる、と首を振る。珍しく少しも要領を得ない跡部の反応に、手塚の方こそ困っているように見えた。跡部はもう一度ふるふるっと首を振り、深呼吸をひとつ。
「あのな、手塚。俺も同じことを流れ星に願おうとしてたんだ。手塚に、俺の恋人になってほしいと」
 唱えてないのに叶っちまったみたいだが。そう続けると、ひどく驚いた顔で手塚はぱちぱちと目を瞬く。先ほど跡部が感じていた困惑を、今度は手塚が感じているようだ。
「そ、…………そうなのか。ではぜひよろしく頼む」
「こ、こちらこそ……?」
 思いがけない恋の成就に、お互い心の整理がまだできていない。
 嬉しさで暴走してしまわないように、己を律しているのがせいぜいだ。ごまかすように夜空を見上げれば、ちょうど流れる星の欠片。
「跡部、また星が流れた」
「ああ、見えたぜ。でも何も唱えるつもりはなかった。これからは、俺の願いを叶えてくれる男が傍にいるからな」
 太腿の横で、指先を触れ合わせる。絶対誰にも気づかれないように、そっと、そっと。
「そうだな。お前の願いは俺が叶えるし、俺の願いはお前に叶えてほしい」
 頷き合って、叶った恋を確かめる。今なら三度唱えたら、どんなことでも叶ってしまいそうだと、二人の口の端が自然と上がった。
 お前が俺の、たったひとつの流れ星。



お題:リライト様 /流れ星に願いを
#お題 #片想い #両片想い

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熱いコーヒーを一杯

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.09

#お題 #両想い #未来設定

 夜を共に過ごした翌朝は、コーヒーの香りで目が覚める。 数年前に気まぐれで買ったカフェのマシンは、ま…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

熱いコーヒーを一杯

 夜を共に過ごした翌朝は、コーヒーの香りで目が覚める。
 数年前に気まぐれで買ったカフェのマシンは、まだ健在らしい。
「跡部、起きているか?」
 開け放たれたままのドアから、手塚が姿を見せる。跡部は広いベッドに寝転んだまま、パタパタとシーツをはたいて応えてみせた。手塚が歩み寄ってくるスリッパの音が聞こえてくる。
「コーヒー、砂糖とミルクを入れてきた。起きられるようなら飲むといい」
「サンキュ、手塚。これで朝メシも持ってきてくれりゃあ、最高な一日のはじまりなんだがな」
 サイドテーブルに、コトリとカップが置かれる。跡部はそれを寝転んだまま眺め、見慣れてしまった揃いのマグカップに口許を緩めた。
「行儀が悪い」
「今さらだろうが。それに、動けねえのは誰のせいだと思ってんだ。アーン?」
「一因は俺だが、お前にも責任はある」
 ある程度予測のできた答えに、跡部はくっくっと喉を震わせて笑う。
 昨夜はひどく濃密な時間を過ごした。一度や二度では足りなくて、抱き寄せて、煽って、煽られて、誘い誘われ指を絡めた。それはお互いの希望であって、二人の責任だ。
 跡部はゆっくりと体を起こし、大きな枕を積んで体を支える。
 体が楽な体勢を整えた頃、テーブルに置かれたカップを手塚がわざわざ手渡してくれた。
「とはいえ、お前の負担が大きいのは理解している。今日はあまり無理をしないでくれ」
「ああ、ありがとよ」
 跡部は渡されたカップを両手で持ち、手のひらを通してじんわりと伝わってくる心地良い温度に、ゆったりと酔いしれる。
「フ……いいな、こういうの」
「なんだ?」
 手塚はベッドの縁に腰をかけて、揃いのカップでブラックコーヒーを楽しんでいる。
「抱かれた翌朝、恋人に煎れてもらった熱いコーヒーを、二人で飲むっていうのがだよ。一日のはじまりなのに、どうかすると締めくくりみてえに思える」
「夜明けのコーヒーと言うしな。互いを労って想いを実感し合うという時間なのかもしれない」
 手塚が、空いた手で髪を撫でてくれる。なるほど、と跡部は小さく頷いた。
 想いを実感するのは、なにも肌を合わせている時ばかりではない。
 むしろ終わった後の方が、ゆっくりじっくりじんわり感じられるだろう。
 そういう発想はなかったなと思うと、自分とは違う思考を持っている他人というのはとても興味深い。それが恋人であれば尚更だ。
「な、昨夜はどうだった? 気持ち良かったか?」
 となると、ことの最中恋人はどんなことを思っているのか気になってくる。
 僅かに手塚の眉が寄ったところをみると、良くなかったのだろうかと一瞬不安になった。
「そういうことを明け透けに言うものではないと思うが」
「なんだよ、二人だけの時なら良いだろうが。セックス時の不満やマンネリは、早めに解消しといた方がいい」
 跡部だって、何も赤の他人がいるところでこんな話をしようとは思っていない。むしろもったいなくて聞かせられるかとさえ思っている。
「俺はお前に抱かれてる時、すごく気持ちがいい。頭ん中真っ白になるくらいにな。けど、だからこそお前が気持ちよさそうにしてるところはあんまり見たことがねえんだよ。どう思ってんのか、知りたいだろ」
 手塚が、ぐっと言葉に詰まったように見えた。視線が泳いでいるのは、どういう感情からなのだろうと、跡部は小首を傾げた。
「すまない、そこには考えが及ばなかった。確かに俺はお前が気持ちよさそうにしているところを見て気分がいいが、お前はそうではないのだな」
 呆れと諦めと、僅かの羞恥を混じらせて、手塚が眼鏡を押し上げる。
「俺も、お前を抱いている時は気持ちがいい。俺の愛撫に、過ぎるほど素直に反応を返してくれるのは可愛いと思うし、中の熱さはこちらの方がとろかされそうになる」
 ゆっくりと、手塚自身が確かめるような速度の声に、ぞくぞくと体が震える。反応が可愛いと言われて恥ずかしいけれど、悪くはない気分だ。手塚の熱こそとろけそうになるのに、彼の方もそう感じてくれているのなら、これほど嬉しいことはない。
「お前が俺を呼ぶ声も、潤んだ瞳で見つめてくるのも、とても嬉しく思っている」
「……そうか、それならいい」
 満足だ、と頷く。あまり饒舌ではない手塚がここまで言ってくれたのだから、それは愛情以外の何者でもない。想いを実感し合う時間というのを改めて認識して、甘いコーヒーを口に含む。
「ありがとな、手塚。愛してるぜ」
 自然と口許が緩んでいく。指先で手塚を招くと、コーヒーの香りを纏った優しい唇が重なってくる。
「跡部、今日はまだ朝食を用意していない。……ブランチになっても構わないだろうか」
 唇のすぐ傍で誘われて、断る選択肢は出てこない。想いを実感し合った後は、熱を確かめ合う時間になってしまった。
「ああ、いいぜ。こいよ手塚、気持ちいいことしようじゃねーの」
 熱いマグカップをテーブルに置いて、お互い同時に手を伸ばす。深くて熱いキスは、甘いコーヒーの味がした。


お題:リライト様 /熱いコーヒーを一杯
#お題 #両想い #未来設定

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冷たい雨

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.08

#お題 #片想い #両片想い

「跡部!」 手塚が呼び止める声が聞こえたけれど、立ち止まってなんかいられない。いや、もう――傍にすら…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

冷たい雨

「跡部!」
 手塚が呼び止める声が聞こえたけれど、立ち止まってなんかいられない。いや、もう――傍にすらいられない。
 土砂降りの雨の中に飛び出してまで、逃げた。冷たい雨は頬を、手の甲を容赦なく打ち付けるけれど、これはきっと罰に違いない。
 友人に――好敵手に、恋情なんか抱いてしまった自分に対する、罰だ。
 跡部は脇目も振らず走った。一瞬の油断で、自分の中の恋心に気づかれてしまったのは、一生の不覚。隠し通す自信はあったのに、どこかでこの気持ちを知ってほしいという思いがあったのかも知れない。
 手塚とはテニスができればそれでよかった。それで満足しているべきだったのに、どうしてさっき、手を伸ばしてしまったんだろう。
 どうしてうたた寝している手塚の髪に触れ、そこに口づけてしまったんだろう。
 きっと手塚は眠ってなどいなかったのだ。唇が触れた瞬間強張ったあの反応で、それくらい分かる。
 それでも、騙されたなんて思わない。こらえきれなかった自分が悪いのだと、ただひたすらに、逃げた。
 制服が雨を吸って、ひどく重い。図書館から、どこをどう走ってきたのか覚えていない。ただ手塚のいないところに行かなければと思った。
 拒絶の言葉を聞くのは辛い。どれだけこの容赦ない雨が痛くても、拒絶された時の胸の痛みに比べたらずっとマシなはずだ。
「くそ、なんで……」
 なんでこらえきれなかったんだと、何度も何度も後悔した。同時に、ここで終わる恋ならもっとちゃんと触れておけばよかったとも思う。
 触れられた方はたまったものではないだろうが、恋なんてだいたいが身勝手なものだと相場が決まっている。
 ざあざあ、バシャバシャ、雨足は少しも弱まらない。
 視界が雨で煙って、どちらへ行けばこの地獄のような現実から逃れられるのか分からなかった。
「――跡部、待て!」
 思わず足が止まる。耳を疑った。激しい雨音に混じって、いちばん聞きたくない――いちばん聞きたい声が聞こえてくる。跡部は目を瞠って息を呑んだ。開いた唇の中に雨が入り込んでくる。
「……っ」
 だが立ち止まっている場合ではなかったと、再び走り出す。
「……っ待てと言っているんだ、跡部!」
 バシャバシャと水を跳ねさせながら前へ前へと走ったのに、追いつかれてしまった。ぐっと強く腕を掴まれ、強引に止まらされる。
「何をこんな、雨の中!」
「い……って」
 ぐいと力強く引かれて、振り向かされる。最後の抵抗にと、顔だけは手塚からめいっぱい背けた。
「風邪を引いたらどうする」
 そんなことを言う手塚の方こそ、傘を差していない。風邪を引いたらどうするのだと言い返してやりたいが、口を開いたら違う言葉が飛び出してきそうだ。
「跡部、こちらを向け」
「…………いやだ」
 両腕を掴む手塚の指が、ぐっと食い込んでくる。怒っているのだろう。それはそうだ、友人としてしか認識していない同性に、髪とはいえキスなんかされたのだから。怒って当然だ。
 追いかけてくるとは思わなかった。
 罵声のひとつでも浴びせたいということだろうかと、跡部は拒絶される覚悟を決めた。
 いっそひと思いにバッサリと斬ってうち捨てられたい。
「子どもみたいなことを言うんじゃない、こっちを向くんだ跡部」
「ガキだろ、俺も、テメェも!」
 跡部のそんな心中もお構いなしに、手塚は執行猶予を与えてくる。跡部は思わず叫んで、手塚を睨みつけた。結局彼の思惑通り振り向いてしまったけれど、これからどうしたらいいのか。どう、されるべきなのか。
「……――泣いているかと、思った」
 やっと視線がかち合ったことにか、手塚は僅かに安堵したような表情を見せる。跡部は目を瞠った。この雨では泣いていても気づかれないだろうし、実際泣きたい気分ではあった。
「ハッ、誰がだよ。泣きたいのはテメェの方だろ、手塚ぁ。俺なんかに手ぇ出されて、気持ち悪いってよ」
 雨のせいで、声を張らなければ相手に届かない。言葉にすることで、また後悔がせり上がってきた。触れなければよかったと思う気持ちで一杯だ。
「どうしてそうなるんだ」
「どうしても何もねえだろ、普通はっ……」
「では俺は普通ではないのだろう。今、とても浮かれて――心臓がうるさい」
「……は?」
 浮かれている? と頭の中で手塚の言葉を反芻する。なぜ手塚が浮かれなければならないのだと、降り注ぐ雨粒以上にクエスチョンマークが落ちてくる。
「今、すごく、期待で、……こんなに」
 何を言われているのか分からないと混乱している内に、手塚の左手が跡部の右手を搦め捕ってくる。そしてそのまま、心臓へと手のひらを誘導した。
 トトン、トトン、トトン。
 速いスピードで、手のひらを打ち付ける心音。雨よりは弱いのに、手のひらを通して奥深くまで染み込んでいくようだ。
「な、んで」
「分かるだろう」
「わかん、ねえよ、だって、俺、さっきお前に、キス……髪の毛」
 困惑で、言葉が途切れ途切れになる。手塚の心音に合わせるかのように刻まれていくそれに、さらに混乱した。 心臓の音が伝わってくるのが苦しくて、手を離そうとするのに手塚は許してくれない。
 むしろより一層強く胸に押しつけてきて、逃げられなくなった。
「だから、それで浮かれていると言ってるだろう。人の話を聞け」
「なんでって訊いてんじゃねえかよ! テメェこそ俺の話を聞きやがれ!」
「理解しろ、俺はお前が好きなんだ! あんなことをされたら期待して、浮かれもする!」
 多方向から、追突されたような衝撃を味わう。
 何を言っているんだ。何を言われたんだ。
「お前が、俺を好きなのかもしれないと期待して、ちゃんと……聞きたいと思っているんだが」
「俺、……は」
 膝から力が抜けていきそうだった。
 こんなことが起こるなんて、明日はこの雨が雪にでも変わるのだろうか。
「お前からキスをされて嬉しかったが、俺はできれば唇にキスをしたい。こんなことになって初めてアプローチするなと罵られるかもしれないが、まさか、そんなこと、思いもしないだろう」
 それは跡部だって同じだ。両想いだなんて考えもしない。ずっと押し殺して、秘めて生きていくつもりだったのに。
「てづ、か……悪い、ちょっと、支えててくれ。幸福で崩れていきそうだ」
 寄りかかれば、手塚は素直に背を抱いて支えてくれる。跡部も同じように手塚の背に腕を回し、びしょ濡れの男を抱きしめた。
「好きだ、手塚。ずっと好きだった」
 言い終わるか終わらないかのうちに、跡部は手塚にキスをする。
 手塚が望んでくれたように、今度はちゃんと、唇に。


お題:リライト様 /冷たい雨
#お題 #片想い #両片想い

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最高の愛情表現

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.07

#お題 #両想い #ハッピーサマーバレンタイン

 夏の暑い日。 一輪のひまわりを手に、手塚国光は恋人の部屋を訪れた。 ドアを開けてくれた恋人は、その…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

最高の愛情表現

 夏の暑い日。
 一輪のひまわりを手に、手塚国光は恋人の部屋を訪れた。
 ドアを開けてくれた恋人は、そのひまわりに驚いて、次いで嬉しそうに笑う。
「ハッピーサマーバレンタイン、てか? テメェにしちゃあ粋なことするじゃねーの、手塚ぁ」
「おかしかっただろうか?」
「いや、嬉しいぜ。上がれよ」
 どうぞと言われ、手塚はお邪魔しますと呟いて上がらせてもらった。
 さわさわと、開け放たれたリビングの窓から外の風が入ってくる。
 綺麗に整頓された部屋は跡部らしいなと、久しぶりに訪れた空間をきょろりと見回した。
 そうして、目を瞠る。
 白いテーブルの上、花束が置いてある。それは、黄色いひまわり。手塚が持ってきたのと同じ花だ。
「……跡部」
「ん? ああ、せっかくだしな。まさかお前も持ってきてくれるとは思ってなかった」
 跡部が玄関で驚いていたのは、このせいもあったのだろう。しかし一輪の花と、幾本もの束では、こちらの方は見劣りしてしまう。
 もっとちゃんとした花束にしてもらえば良かったと、手塚は視線を背ける。ガラにもないことをするから、空回ってしまった。長く付き合っていても、なかなかうまくいかないものだ。
「手塚、それ俺にくれるんじゃねーのか?」
「え、あ、いや……しかし」
「寝室に飾りたい。いいだろ」
 それでも、跡部は幸せそうに手を差し出してくれる。たった一輪でもいいのならと、手塚はそっと手渡した。
 跡部はそのひまわりに口づける。何をしていてもサマになるなと、手塚はゆっくりと瞬いた。
 跡部景吾には、夏が似合う。
 とは言っても、秋になれば秋が似合うと思うだろうし、冬には冬が、春には春が似合う男だと思ってしまう。
 つまるところ、手塚国光は年がら年中跡部景吾に見惚れてしまうということだ。
「跡部、俺も今日帰る際には、あの花束の一輪をもらっていっても構わないか? 飾っておきたい」
 毎日逢えるような状況ではない。だからこそ、恋人を連想させる何かを飾っておきたい。寝室に飾りたいと言った跡部も、そういう気持ちなのだと思った。
「アーン? 駄目に決まってんだろ」
 だけど、跡部からは拒絶の言葉。まさか断られるとは思っていなくて、驚きと寂しさが同時にやってくる。「そうか」と何でもないように返しかけて、襟を引かれて体が前のめりになった。
 柔らかな唇が重なってくる。
「今日、帰れると思ってんのか。ばぁか」
 一瞬遅れて、言葉の意味を把握する。
 そういうことかとホッとして、予期しなかったことにポッと頬が染まった。
「……帰りたくは、ない」
「ん、それでいいんだよ。ひとまず活けておくか。座ってろよ、今飲み物持ってくる」
 そう言って、跡部はいそいそとキッチンへ向かってしまう。似合いの花瓶に水を入れに行ったのだろうと、手塚はリビングのソファに腰をかけた。
 そうして、カバンからもうひとつの贈り物。
 綺麗にラッピングしてもらった、チョコレートだ。
 ここにくるまでに、溶けてしまっていないだろうかと心配になるが、店の人には保冷剤ももらっている。恐らくは問題ないだろうと、ひとまず自分の隣に置いた。
 今日は八月十四日。ハッピーサマーバレンタインとされている日だ。
 二月のバレンタインデーも一緒に過ごした。
 三月のホワイトデーも共に朝を迎えた。
 世間の波に乗って、冬のバレンタインもいいけれど、自分たちは夏のバレンタインも大切にしていた。
 というのも、お互いにとって〝夏〟という季節が他の季節より大切なものだからだ。
 まだ思い出せる、あの暑い夏の日。中学三年の関東大会だ。
 お互いを知り、惹かれるきっかけとなった〝頂上決戦〟。大切なテニスで出逢い、大事な存在だと知ることのできた夏は、やはり他の季節より特別だった。
 今日は、男からでも女からでも、好きな相手に大切な想いを告げる日だ。
 元々気持ちを表に出すのは苦手な方だが、こんな日ばかりは気持ちをきちんと伝えたい。
 だから、手塚も跡部も、予定を空けて逢瀬を持つことにしていた。
 照れくさいけど、恥ずかしいけど、出逢えたこの奇跡に感謝をしながら。
「ん、待たせたな手塚」
「ああ、ありがとう。…………カルピス?」
 跡部の家に来ると、大抵出てくるのは紅茶だ。それももちろん好きだが、今日は珍しく夏らしい飲み物を差し出される。白く濁るそれは、夏の風物詩と言っても過言ではないほどに、定番のドリンク。
 実家にいた時はよく飲んだ気がするが、一人暮らしを始めてからはとんとご無沙汰だ。
 グラスの中でカロカロと氷が鳴り、珪藻土のコースターが、かいた汗を吸い込んでいく。
「ああ、たまにはな? ソーダにしようかと思ったけど、ひとまず普通に」
「美味いな」
「そうだろ。塩ライチのヤツ。期間限定って書いてあったから、ついうっかり買っちまって」
「それでハマり込んだというわけか。可愛いな跡部」
 可愛くねえ! と口を尖らせながら顔を背ける跡部が、やはりとても可愛らしい。
「くそ、普段そういうこと言わねえくせに……!」
 照れくさいのか、跡部は手の甲で頬を押さえる。普段が寡黙だから、たまに投げてくる愛の言葉は爆弾並みの破壊力があるのだと言う。
「お前のCDも、なんか聞いてるだけですげえ恥ずかしいし」
 顔が熱い、と手でパタパタと仰ぎながら、跡部が隣に腰掛けてくる。チョコレートを置いたのとは逆にだ。
「……………………聴いたのか」
「そりゃ聴くだろ。お前のハッピーサマーバレンタインだぜ?」
 今度は、手塚が頬を押さえる番だった。
 跡部が言うCDとは、ハッピーサマーバレンタインを提唱したある人物からの依頼で、テーマ曲を歌唱したものだ。
 ハッピーメディアクリエイター、時々漫画家という肩書きを持つその人物には、かなり世話になっている。断る選択肢などない。むしろ依頼が来たときは嬉しかったりもしたのだ。
 しかし、恥ずかしいものは恥ずかしい。
 バレンタインの歌なのだから、当然歌詞もそういった類いのものになっている。
「お前、まさかわざわざ買ったのか? サンプル版あっただろう」
「もちろん買ったが。ちゃんと予約したんだぜ。早期特典がブロマイドだったしな」
 ほら、とテーブルの傍に立ててあったブックエンドからCDを取り出す。それは確かに、市場に出回っている製品版だった。
「ブロマイド、どこに飾ろうか迷ってんだよな。寝室にしようかと思ったけど、絶対ニヤニヤしちまって寝られねえし。車でも危ないだろ。玄関なんかに飾ったら、出掛けられなくなるし」
「飾らなくて良い」
「なんだよ、なんなら引き延ばそうかと思ってんだぜ」
「引き延ばすな」
 跡部ならやりかねないと、一応は止めてみる。しかし気持ちは分からないでもない。
 なぜなら、手塚も跡部が歌唱したハッピーサマーバレンタインを予約して購入したからだ。もちろんブロマイドの特典も入手している。保存用にと複数買ったことは、黙っておこう。
 ハッピーサマーバレンタインは、毎年何人かがこうして歌唱CDをリリースしている。
 今年は手塚国光と跡部景吾で、と発表があった時、テニスのファン界隈は湧いたらしい。メディアでも〝永遠のライバル〟と紹介されていて、嬉しいやらくすぐったいやらだ。
 いったいどれだけの人間が、ただのライバルというだけではないことを知っているだろうか。
「お前、テニスが関わるインタビューとかは割と受けてるけど、こういうのもやるんだな」
「これに関しては、関わっていないわけでもない気がするが。それに、お前と一緒だというのは嬉しかった」
「ああ、俺も嬉しかったぜ。お前の歌聴くの、すげえ楽しみにしてた」
 そう言いながら、跡部はCDのケースにちゅっと口づける。
「これがあれば、いつでもお前の〝大好き〟が聴けるしな」
 口の端を上げた恋人に、手塚は目を瞠る。確かに曲中で何度かその言葉を口にしているが、そんなふうに言われると胸が痛い。
 やはり、普段そういう言葉を言わない恋人というのは、減点ものなのだろう。
 態度では示しているつもりだが、それだけではいけないと、手塚は隣に座る跡部の手を握りしめる。
「跡部、俺はお前を愛している。常々そう思っているのに、言葉にせずすまない」
 跡部は驚いたように目をぱちくりと見開き、あ、と吐息のように声を上げた。
「悪い、そういうつもりで言ったんじゃねえんだ。お前がそういうの苦手だってのは知ってるしな」
「だが、言うのと言わないのとでは、言う方が良いに決まっている」
「そりゃ、言ってもらえりゃ嬉しいけどよ……」
 そうじゃないんだ、と跡部が肩に寄りかかってくる。CDのジャケットを眺めながら、言葉をかみ砕くように選んで口にした。
「なんていうか、俺に言う時のトーンと違うんだなって実感できるっていうか」
「…………違う?」
「このCD、大好きって言ってるのが照れくさいって思うのも、恥ずかしいって思うのも、いつものお前と違うからだ。俺に言う時はもっと……優しくて、色っぽい。CD聴くたびに、それを思い出してる」
「色っ、…………そんなふうなのか?」
 訊ねると、跡部がこくんと頷く。自分ではさっぱり分からないが、たった一人聞く相手である跡部が言うのなら、そうなのだろう。
「だから、CDでお前の〝大好き〟が聴けるっていうか、〝思い出せる〟だな。これの中で〝行くぞ〟って気合い入れてんのはお前らしいけどよ」
 俺の時はそんな気合いなんか要らないだろ。
 そう言って見つめてくる恋人が、本当に心の底から愛おしい。
「そうだな……あふれてくるだけだから、特に気合いは入れてない」
「俺に言葉で表現できてないって言うけど、俺はお前に、最高の愛情表現されちまってるからな。満足だ」
 すり、と頬に鼻先をすり寄せてくる跡部に、手塚は自覚がなくて「何だ?」と訊ねてみる。
「テニス。いつだって全力で向かってきてくれるお前のテニスが、最高の愛情表現だぜ」
 は、と息を吐いて、納得する。
 手塚は、跡部を一人の人間としても、最高のプレイヤーとしても愛している。それはテニスにも表れてしまうようだ。
 何より、本人にちゃんと伝わっているのは嬉しかった。
「跡部、これ。チョコレート、受け取ってくれると嬉しい」
「ああ、ありがたくいただくぜ、手塚。ん、俺からも。好きそうなヤツ選んだつもりだが」
 その嬉しい気持ちのまま、チョコレートを渡す。跡部からもお返しをもらって、唇にキスをした。
「ん、ふふ……今日は世界中で、どれだけのヤツらが幸せになってることだろうなあ」
「たくさんいるんじゃないだろうか。花火やひまわりの力を借りて恋を告白するというのは、ロマンチックだな」
「あ、今日近くで花火大会あるらしいぜ。ここから見えると思う」
「そうなのか。じゃあ二人で一緒に見よう、跡部」
 ん、とくっついてくる跡部の額に唇を落とし、肩を抱く。
「CDを聴きながら見られるだろうか。花火に乗せて、応援したい気持ちが届くといい」
「お前案外ロマンチストだな? まあ、他人の幸せを願えるってのは、自分が幸せだからってことでいいんだろうが」
「幸せなのは間違いないな。今年二度目のバレンタインも、お前と過ごせて嬉しい」
 二月と、八月。次に過ごすバレンタインは、冬の寒い日になるだろう。季節外れにハッピーサマーバレンタインのCDを聴きながら逢瀬を持つのもいいかもしれない。
 その日を想像して、楽しいだろうなと口の端を上げた。
 そうして、互いに贈り合ったチョコレートの包みを開ける。手塚から跡部に贈ったボンボンショコラ。跡部から手塚に贈ったオランジェット。
 つまんでお互い相手の口に持っていく。かじりついて、口の中でとろかして、「美味い」と囁き合う。
 忙しい中でも、こうして二人きりの時間を作ってくれる恋人の想いが嬉しい。
 大切にしたいと改めて思い、素面で言うのはやはり照れるし恥ずかしいが、花瓶に活けられたひまわりがちゃんと見守ってくれている。
「大好きだ、跡部。お前に出逢えてよかった。心からそう思っている」
「ああ、俺も大好きだぜ、手塚。世界中のどこを探しても、お前以上のヤツなんて見つかりやしねえよ」
 引かれ合った唇は、チョコレートの味がする。僅かに遅れて、カルピスの味も広がった。
 出逢えたのは奇跡みたいなものだが、恋に発展させてこうして幸せな気分でいられるのは、間違いなくお互いの努力だ。
 言葉で、視線で、態度で、これからもちゃんと伝えて行こうとソファの上で抱きしめ合った。
「跡部、よければテニスをしないか。お前といてテニスをしないというのは、なんだか落ち着かない」
 頬に手を添えて、どう見てもキスをする体勢なのに、手塚の口から出たのはテニスの誘い。バレンタインなのに色気がないなと思わないでもなかったが、跡部はこの上なく嬉しそうに笑ってくれた。
「ああ、やろうぜ。コート予約するか、それとも俺の実家の方行くか?」
「どちらでも。お前とならばどこだって構わない」
「ククッ、最高の愛情表現じゃねーの、手塚ァ!」
 好戦的な笑い顔で腰を上げ、出掛ける準備をする。花瓶に活けたひまわりが、窓から入る風でゆらりと揺れた。


お題:リライト様 /最高の愛情表現
#お題 #両想い #ハッピーサマーバレンタイン

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手を繋いで、指を絡めて

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.06

#お題 #両想い #ハッピーサマーバレンタイン

 ひまわりの花の隙間から、太陽が入り込んでくる。 見事なものだなと、ひまわり畑に入る前にも思ったけれ…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

手を繋いで、指を絡めて

 ひまわりの花の隙間から、太陽が入り込んでくる。
 見事なものだなと、ひまわり畑に入る前にも思ったけれど、さすがにこれだけ高いひまわりが幾本も幾本も太陽に向かって咲いているのは圧巻だった。
 自分の目線と同じ高さのもの、肩と同じくらいにある花や、背を追い越すものまである。
「すげえな、この数は」
「ああ。数もそうだが、こんなに大きく育つものなんだな。驚いた」
 手塚と跡部は広いひまわり畑の中を歩き、夏らしい日射しを浴びていた。
 今日は、とある写真の撮影で使う現場の下見に来ている。下見とは言っても、入り組んだ場所ではないし撮影ポイントも決められている。わざわざ前日に確認しにくる必要など、どこにもなかった。
 なかったが、時間を作ってきてみたのは、二人が恋人同士だからだ。
 あまり大っぴらに公表できる間柄でもなく、またお互い普段から恋人とイチャイチャとするタイプではない。そのせいで、世間一般で言う「お出掛けデート」のようなものをしたことがない。
 もちろん、互いの部屋で一緒に過ごすことはあるし、恋人らしいコトだって一通りはしている。だが外でとなるとやることはテニスのみ。
 それに不満はない。むしろテニスを愛している男だからこそ惹かれた。自分と同じ熱量で真摯に向き合っている男に歓喜を覚えこそすれ、不満など出てくるわけもなかった。
 しかし、外で日の光を浴びながら恋人らしく過ごすということを、したくないわけでもない。
 時間があるなら一緒に出掛けねえかと跡部が提案し、お前がいいならと手塚が頷いたのだ。
 そうして、下見という名目で二人でひまわり畑に来てみた次第。
 元気の良さそうな黄色の花びらと、青々と茂る葉。青い空と涼しげな海は、それだけで心を癒やしてくれた。
「これだけ広いと、はぐれたら大変だろうな」
「なんだよ、この歳になって迷子か、手塚ァ」
 くっくっとおかしそうに笑う跡部は、ご機嫌だ。それを傍で感じ取れるというのは、やはり幸福だなと手塚は思った。
「いや、向こうの方で、子どもの声がするから」
「ああ、走り回ってんだろうな。親もちゃんと近くにいるようではあるが」
 このひまわり畑は、貸し切りの場所というわけではない。観光に来たのか、地元の子どもたちなのか、はしゃぐ声が遠くに聞こえる。
 小さな子どもの背丈では、このひまわりたちに埋もれて見えなくなってしまっても無理はないだろう。ハラハラとはするが、今現在困っていないようならば気に病む必要はない。もし何か手助けを頼まれたら力を貸してやろうと、声のする方を向きながら歩く。
「手塚、よそ見してるとそれこそお前が迷子になるぜ」
 そんな手塚を、数歩先で待つ跡部がいる。手塚は少し歩幅を広げて追いついた。
「すまない。だが、お前は目立つし声も良く通る。すぐに合流できるだろう」
「フフ、俺様がテメェの名を呼んでやることが前提かよ。まあいいがな」
 言葉だけ聞くと不機嫌そうだが、跡部の口許は柔らかく緩んでいる。
「お前が迷子になったらすぐ気づく。ちゃんと呼んでやるから、戻ってこいよ」
 もし離れてしまっても、すぐに気がつく。呼んでくれれば、すぐに場所が分かる。お互いに寄せる信頼が、とても心地良い。
「お前、子ども好きかよ?」
「嫌いではないが。なぜだ?」
「いや、あっちのことすげえ気にしてるみてえだから。不必要に手は出さないが、頼られれば全力で手を貸そうとでも思ってんだろ」
 なぜそれが分かるのだろうと、不思議に思って跡部を振り向く。声に出したつもりもないのだが、寸分違わず言い当ててくる。
 そういえば跡部は眼力(インサイト)が得意だったなと、今さら思い出した。
「それくらいのこと、すぐに分かるぜ。お前のそういうとこ、いいなって思う」
 周りを見ている証拠だろと付け加えられて、そっくりそのまま返してやりたい。すぐに分かると即答できるほど、見ていてくれているということではないのか。
「周りを見る力がねえと、部長なんざ務まらねえ。しかも、あの癖の強い青学の連中相手じゃな」
「それはお前にも言えることだろう、跡部。氷帝メンバーのことをよくは知らないが、人数も多い中あれを統率しているのは、本当にすごいと思う」
「アーン? それくらい当然だろ。俺はいつか頂点に立つ男だぜ」
 強気に笑う跡部。自分たちは常に上を目指していて、同じ頂点を目指すのならばライバルなのだが、跡部のそんな勝ち気さがとても良い心地だ。
 跡部はきっと、頂点に立ったとしてもさらにその上を目指すのだろうと思うと、負けていられないとぐっと拳を握る。
「けど、残念だな」
「何がだ?」
「子どもが好きだっていうなら、こんなことにさえならなけりゃ俺は、自分の子どもを嬉しそうに抱いてるお前を見る機会もあったってことだ」
 苦笑した跡部に、思わず足が止まる。何を言っているのだこの男は、と血の気が引いていった。
 確かに、跡部と恋人である以上、自分の子どもをこの手に抱くことはなくなる。この先日本で同性婚が認められることになっても、自分たちの間に血のつながった子どもが生まれてくることはないのだ。
 確かに子どもは嫌いではない。跡部と知り合っていなかったら、恋などしていなかったら、いつか生涯を共にする女性との間に子が生まれていたかもしれない。
 だけどそんな未来はもうないし、子どもが欲しいからと跡部と別れる選択肢は一切浮かんでこない。
「跡部、俺は」
「だからって、お前と別れることはできねえからな。俺を抱くってことはそういうことだぜ、手塚」
 責めるようにも名を呼んだら、跡部の方からその選択肢を却下される。ホッとした。
「プロのプレイヤーになって、名前も顔も知られて、週刊誌の記者どもが張り付くことだってあるだろう。俺の方も、テニスにしろ家のことにしろ、安易にパートナーとしてお前を紹介するわけにもいかねえ。いつかは話すが、家族から反対される可能性だって高いんだ」
「……それは、理解できるが、俺とていい加減な気持ちでお前に触れたわけではない。大っぴらに外を歩けなくても構わないんだ」
 こんなふうに、知り合いの誰もいないひまわり畑で一緒に歩くことくらいしか、できなくても。
「跡部」
 手塚は跡部に向かって手を伸ばす。ここなら、自分たちしかいない。遠くの方に子どもたちはいるけれど、見咎められることはないだろう。
 手塚の意図を悟って、跡部は一つ瞬いて、僅かにためらい、それでも手を重ねてきてくれた。
「分かった」
 そう呟いて頷き、跡部は幸福そうに目を細める。
 手を繋いで、指を絡めて、海の方へとひまわり畑の中を歩く。
 波の音を聞きながら、どちらからともなく足を止め、お互い相手にしか聞こえないように囁いた。
「大好き」
 そうして、背の高いひまわり畑で、誓いのようなキスをした。


お題:リライト様 /手を繋いで、指を絡めて
#お題 #両想い #ハッピーサマーバレンタイン

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夢をみた

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.05

#お題 #片想い #両片想い

 跡部景吾の夢をみた。 それは無音の映画のようだったが、目が覚めた時は頭の中にクエスチョンマークが無…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

夢をみた

 跡部景吾の夢をみた。
 それは無音の映画のようだったが、目が覚めた時は頭の中にクエスチョンマークが無数に浮かんでいた。
 口許を手のひらで覆い、眉間にしわを寄せる。首を傾げてみても、目蓋を落としてみても、さっぱり分からなかった。
 なぜ、跡部の夢など見たのだろうと。
 彼のことは知っている。よく、とつけられるほど親しくはないが、テニスに対して真摯なことと、陰でたゆまぬ努力を続けていることくらいは分かっていた。
 好感は持っているが、あくまでプレイヤーとしてだ。と思う。
 手塚が首を傾げたのは、なにも跡部が夢に出てきたからだけではない。これまでも、青学の仲間たちが夢に出てきたことは多々あるし、出演者は家族だったりただのクラスメイトだったりもする。
 そこに、あまり交流がないとはいえ跡部景吾が出てくるのに、不思議はない。
 しかし、やはり理由が分からない。跡部が夢に出てきたのはさして問題ないのだが、どうしてテニスが欠片も関わっていなかったのだろう。
 跡部と二人、甘味処であんみつを食べる願望なんて、ないはずなのに。その発想すらない。
 出されたあんみつを、ひどく物珍しそうに眺めている跡部は可愛らしかったが……と思いかけて、項垂れて額を押さえた。
(可愛らしい、じゃないだろ。それこそ物珍しかっただけだ)
 テニスをしている時とは違う表情だった。音がないせいで何を話しているのか分からなかったが、友人づきあいをしているようで、ころころと表情を変える跡部を傍で見ているのは、楽しかったような気がする。
 テニスが絡むと、どうしても対戦相手として見てしまう。対戦相手としてしか見てもらえない。
 どう打ち負かそうかと、鋭い、それでいて楽しそうな瞳で睨みつけられるのは、悪くない。
 だが、夢とはいえ、跡部景吾があんな顔もできるのかと知ってしまった。
(あんみつを食べて、美味しそうにしていたな。寒天の食感や、値段に驚いてもいたようだった)
 テニスを通してしか彼を知らないということが、どうしてかひどく寂しく思えてきてしまった。
 もっといろんな表情をするのではないだろうか。好戦的な瞳だけでなく、もっと違う色を纏う瞳も見てみたい。
 夢だけでは物足りない。音が聞こえなかったから、普段テニスが絡まない状態だとどんなことを話すのかも聞いてみたい。
 テニスプレイヤー・手塚国光としてではなく、ただの手塚国光として接した時、跡部景吾はどんな態度になるのだろう。
 気になり始めると、どんどん深みにはまっていく。
 氷帝のメンバーたちは、そういう跡部を知っているのだろうか。やはりライバルに接する時と、仲間に接する時とでは、違うのだろうなと眉間の皺が深くなったのを自覚する。
 手塚国光はくしゃりと髪をかき上げ、携帯端末を持ち上げた。早朝と言える時間だが、跡部なら鍛錬のためにもう起きているかもしれない。
 合同練習の件で連絡先を交換していたなと思い出し、アプリを立ち上げる。普段こういったツールはあまり使わないが、学校で逢える相手ではないのだから仕方がない。慣れない手つきで、文字を打ち込んでいった。
『跡部、昨夜夢にお前が出てきた』
 送信したそれに、ややあって既読の印がつく。やはり、起きていたようだ。
『なんで俺様が、テメェの夢に出てやんなきゃいけねえんだよ』
『初めてだったので、新鮮だった』
『お前、そんなこと言うために朝っぱらからスマホ打ってんのか』
 呆れたような返信が送られてくる。今いったいどんな表情をしているのだろうと思うと、それも見たくなってしまった。
『夢の中でなぜか、お前と甘味処であんみつを食べていたんだ。美味しそうにしていたので、実際に食べてもあの表情になるのか気になる』
『あんみつ……? 食べたこと、ねえな。甘味処ってとこで食べられんのか? そう言われると気になるじゃねーの』
『では一緒にいかないか。二人で』
『ああ、いいぜ』
 思ったよりもすんなり受け入れられてしまって、拍子抜けした気分だ。だけどこれで、テニスをしている時以外の跡部景吾が見られる。口許が緩んでいくのは自覚していたが、それがどうしてなのかは分からなかった。
『なあ、ところでそれって』
 いったん途切れたメッセージの後に、続けて送られてくる。
『いや、なんでもねえ。日時と場所、指定しろ。予定空ける』
 言い掛けてやめるなんて、跡部らしくないなと思う。だが、らしくないと思うほど彼を知っているわけでもない。これからゆっくり知っていくことはできるだろうかと、待ち合わせの日時を提案してみた。
『分かった、じゃあ今日の放課後な』
『ああ、楽しみにしている』
 そう送って、満足してアプリを閉じる。今日の授業が終わったら、夢で見た跡部のいろいろな表情を見られるのかと思うと、本当に楽しみだった。


お題:リライト様 /夢を見た
#お題 #片想い #両片想い

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うたかたのまどろみ

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.04

#お題 #両想い

 うららかな春の日射し。ぽかぽかとした気温は心地良くて、ついうつらうつらと睡魔と仲良くなってしまいそ…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

うたかたのまどろみ

 うららかな春の日射し。ぽかぽかとした気温は心地良くて、ついうつらうつらと睡魔と仲良くなってしまいそうである。
 プールの水面に日の光が反射して、きらきらと輝いている。その眩しさで、どうにか目を閉じきらずにすんでいる状態だ。
 ぱしゃり、ぱしゃりと水音が響いている。プールの真ん中あたりで、恋人が水と戯れていた。家にプールがあるというのはさすがだと思い、サマーベッドに腰をかけながらじっと眺める。
 濡れた金の髪が色っぽいとか、肌を伝う雫が扇情的だとか、そういうことはいったん置いておいて、気持ちよさそうに泳ぐ彼――跡部景吾は本当に綺麗だと心の底から思った。
 鍛えられた体は、中学生にしてはできあがりすぎているが、まだまだ発展途上だ。あの薄くはない胸板に手を滑らせる瞬間はとても好きで、どうしても思い出して口の端が上がってしまう。
「手塚ぁ、お前も入れよ」
 プールの中から、跡部が声をかけてくる。一人で泳いでいるのはつまらないのだろう。だが手塚はふるふると首を横に振った。
「俺は水着を持ってきているわけではないからな」
 今日はプールに入るつもりで跡部邸にきたわけではなく、当然水着の用意なんてしていない。
「だから用意させるっつってんのによ」
「結構だ。お前が用意させると言うと、俺の想定より桁が一つ二つ違うんだ」
 跡部は面白くなさそうに口を尖らせるが、事実だ。そしてそんな高価なものは使いにくい。
「なんだったら全裸でもいいんだぜ。ここには俺とお前しかいねえんだから」
「バカを言うな」
 意趣返しのつもりか、跡部がそんなことを言ってくる。手塚は即座に拒絶を返した。
 いくらふたりきりだからといって、他人の所有するプールに全裸で入るなど。男子用の水着と全裸では、布の接地面的にさほど変わりがないかもしれないが、衛生上良くないだろう。また、理性的にも良くはない。
 跡部はちゃんと分かって言っているのだろうかと、疑いたくもなる。彼はどうにも、手塚のそういう欲に疎いような気がする。
 肉体的な関係は持っているものの、呆れられないように、これでも抑えている方なのだが。全裸で、ほぼ全裸に近い跡部に触れてしまったら、どうなるか分かりそうなものだが。
「……服のままでもか?」
 プールの縁に腕を乗せて、跡部は最大限譲歩したとでも言いたげに提案してくる。手塚は頭を抱えたくなった。
「着衣のまま泳ぐというのは、案外難しい。授業でそう習った。そもそも濡れた服はどうするんだ、着替えなどないぞ」
「この天気ならすぐ乾くだろ。なあ、手塚。一緒に泳ごうぜ」
「…………せっかくだが、遠慮させてもらおう。そういう気分ではない。それに、楽しそうなお前を見ているのも悪くない」
 なおも誘いをかけてくる跡部を、理性で必死に拒む。泳ぎたい気分でないのは本当だし、そんな気の入っていない状態で泳いだら怪我につながってしまうかもしれない。
 それに、跡部が泳いでいるのを見るのが楽しいのも、確かに本音だった。
 跡部は、それでいくらか納得したのか、ふっと口の端を上げた。
「じゃあ、せめてもっとこっち来いよ。もっと傍で見てろ、手塚」
 タンタンと、プールに浸かったまま届く範囲を叩く。確かに数メートル離れたところから見るよりはいいし、声も張らなくて済む。
 手塚はサマーベッドから腰を上げ、ベッドを抱えて移動した。落ちる心配のない場所にパラソルも一緒に設置し直して、寝転がってみた。
「いい感じか?」
「そうだな、さっきよりもお前が近い」
 パラソルで日陰も作ったし、水辺の空気が心地良い。何よりも、楽しそうな恋人が近くで見られるのは嬉しい。
「なあ、次に来る時はお前も水着持ってこいよな。競争しようじゃねーの」
「ここ、競泳用のプールじゃないだろう。まあ、でも……次、だな。心構えをしておく」
「プールに心構えが必要なのかよ」
 笑いながら、跡部は水の中に潜っていく。心構えは必要だ。おかしなことにならないように。
 キラキラと光る水が、跡部の体を受けて揺れる。泳ぐ姿はまるで魚のようだなと、また惚れ直してしまった。
 ぱしゃりぱしゃりと響く水音。柔らかな日の光。
 ――すう。
 サマーベッドの寝心地が、案外に良かったことも原因だろう。手塚がうとうととまどろみ始めた数分後には、すっかり眠りに落ちてしまっていた。
「ああ、疲れてたんだな。気づかずに悪いことをしたぜ」
 ややあって跡部はそれに気がつき、ゆっくりとプールから上がる。そうして、水滴が垂れてしまわないようにタオルで押さえ、手塚の額にキスを落とした。
「おやすみ手塚。たまにはこういう無防備なとこ、俺に見せろよ」
 満足そうに口の端を上げて、もう一度プールへと戻っていく。水面に立つ泡沫が、手塚の視線の代わりにまとわりついた。


お題:リライト様 /うたかたのまどろみ
#お題 #両想い

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散歩をする

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.03

#お題 #両想い #未来設定

 近くのコンビニに行ってくるという恋人に驚いて、手塚は「一緒に行く」と行ってジャケットを羽織る。「ん…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

散歩をする

 近くのコンビニに行ってくるという恋人に驚いて、手塚は「一緒に行く」と行ってジャケットを羽織る。
「ん? 何か欲しいものあるんなら、買ってくるぜ?」
「そういうわけではないが……一人では危ないだろう」
「子どもかよ」
 玄関で靴を履きながら、跡部は笑う。子ども扱いをしているわけではない。大事な恋人を夜遅く一人で歩かせたくないだけだ。
「跡部は何を買いに行くんだ?」
「酒のつまみ」
 まさかそんな言葉が出てくるとは思わずに、うっかり返す言葉を無くした。
「――と、あと、なんかコンビニ限定のアイスがあるらしくて。ちょっと気になる」
「何も夜に行かなくてもいいだろう」
 家を出て、鍵をかけてから言うことではないが、さほど緊急性もないように思う。そもそも、跡部景吾がコンビニに買い物に行くなど、随分と俗っぽくなったものだ。
 もちろんそれが悪いわけではなく、周りの者たちに教えられたり一緒に行ったりして、徐々に庶民的な生活に慣れてきたせいだ。
 そしてそれには、自分との生活も関わっているのだろ思うと、嬉しくてしょうがない。
「気になり出すと止まらねえんだよ。ジローたちが、なんか嬉しそうに〝見つけた!〟なんつって写真送ってくるもんだから、余計にな」
「なるほど。だが頼むから夜に一人で出歩くな。危ない」
「危ないってなんだよ、痴漢か暴漢か。じゃあラケットとボールでも持って出掛けるか」
 あまり真剣に受け取ってくれていないようだが、心配なものは心配だ。跡部も財閥の御曹司として、万が一の時の護身術くらいは持っているだろうが、一人でいるのと二人でいるのとではだいぶ違う。
「…………言い方を変えよう。お前と一緒に歩きたい」
 こうなったら作戦の変更だと、手塚はエレベーターの手前でそう言い直した。跡部がうっかりエレベーターのドアにぶつかりそうになって、ぐいと腕を引いてやった。
「まだ来てないぞ、エレベーター」
「テメェは! なんでそう脈絡がねえんだよ、いつもいつも!」
 顔を真っ赤にした跡部が腕を振り払って、ボタンを押す。どうやらこの作戦は有効だったようだ。もちろん一緒に歩きたいというのが本音である前提は崩れない。
「夜も遅ければ、人もあまりいないだろう。手を繋いで少し散歩をするくらい、できるのではないか?」
 下へと降りるエレベーターが到着して、二人で箱に乗り込む。そこに防犯用のカメラはあるけれど、二人っきりだ。
 跡部は照れくさそうに「ん」と手を差し出してくる。
 手塚は意図に気がついて、そっとその手を取って握りしめた。
「あったかいな」
「手袋すりゃいいのに」
「手を繋ぐ口実がなくなるだろう」
「恋人の手を繋ぐのに口実がいんのかよ、ばぁか」
 そういえばないなと笑いながら、エレベーターを降りる。
 右に曲がってまっすぐ、十分足らずの道のりだけれども、星空の下を一緒に歩くのは楽しかった。
「コンビニ限定のアイスとは、どんなものなんだ?」
「あー、これなんだけどよ。普通のはスーパーとかでも買えるみてえだけど、限定フレーバーだって。なんかネットでも話題になってるらしい」
「ああ、美味しそうだな。俺も買ってみよう」
 送られてきたという写真を見せてくれる。見慣れた商品名ではあるが、そのフレーバーは聞いたことがなかった。
 ネットで話題になっているということは、下手をしたら売り切れてしまっているのではないかと心配にもなる。できれば跡部の分くらいはあってほしいものだと、そわそわとした気分でコンビニへと向かった。
 店の手前でさすがに手は離し、友人同士を装う。
「あ、手塚、あったぜ。これだ、これ」
 まっさきにアイスのコーナーへ向かった跡部を、手塚はカゴを持って追いかける。どうやら手塚の心配をよそに、目当ての商品は鎮座していてくれたらしい。
「ん、二つだな。あと、酒と……あ、なあ手塚、おでんがある」
「ん、ああ、まあそういう季節だからな。というか跡部、おでんも買うのか? アイスとおでんて……どちらかにしたらどうだ」
「厚揚げが食いてえ」
 聞いていないな、と諦めて、好きなようにさせておこうと後を追った。おでんならば残っても明日に回すこともできるしと、楽しげな跡部の横顔を眺めて思う。
 やっぱり一緒に散歩に出てきて良かった。こんなに可愛い恋人を見られたのだから。
 跡部はいそいそとおでんのコーナーに向かい、店員に注文をしている。大きな器でという声が聞こえてきて、どれだけ買うつもりだと呆れもしたけれど。
「――と、こんにゃくと大根。全部二つずつで頼むぜ」
 手塚はぱちくりと目を見開いた。ナチュラルに〝二つずつ〟という跡部に、自然と口許が緩んだ。あれは一緒に食べようということだ。
 まったく可愛いことをしてくれる、とアイスとビールとつまみの入ったカゴをレジに置いて、会計全部一緒でと告げた。
 最近現金も持ち歩くようになった跡部が、ワリカンより多い金額を渡してくる。それは素直に受け取っておいて、釣りを全部跡部に渡した。
 跡部はそれを突き返そうとしたようだったが、手塚は素早く財布をしまう。不満そうにしながら、跡部はふと目に入ったレジ横の募金箱にその小銭を全部突っ込んだ。
「ん、満足だ」
 これで同等だとでも言わんばかりの顔をする跡部に、手塚は笑いながら店を出ていく。
 アイスやビールを入れたエコバッグと、予定外の熱いおでんの袋。跡部におでんの袋を任せて、手を繋いだ。
 家までまた十分足らず、短いお散歩。
「買えてよかった」
「予定外のものまでな」
「いいだろ、一緒に食おうぜ」
「ああ、楽しみだ」
 ふと空を見上げると、満月直前の月がいた。
「……月が綺麗だな」
「…………お前と見られて嬉しいぜ」
 どう返してくるだろうと思ったそれに、考えもしなかった言葉が返ってくる。
「さすがにロマンチストだな」
「案外に、お前もな」
 意図が分からないわけがないと、歩調が緩くなる。一瞬だけ立ち止まって触れ合った唇は、冬の夜でもなぜだか温かかった。


お題:リライト様 /散歩をする
#お題 #両想い #未来設定

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間接キス

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン 2025.03.02

#お題 #片想い

 その日も、食堂は騒がしかった。 厳しい練習が終わり、旨い飯にありつけるとなったら浮かれ気分も最高潮…

NOVEL,テニプリ,塚跡,塚跡お題100本マラソン

間接キス

 その日も、食堂は騒がしかった。
 厳しい練習が終わり、旨い飯にありつけるとなったら浮かれ気分も最高潮になるだろう。それは仕方ない。
 若干騒がしさが煩わしいけれど、そこをとやかく言うつもりはない。イライラしているのは、優雅に過ごしたい観月くらいなものだ。
「英二、そのケーキ美味しそうだな」
「にゃはは~最後の一個だったんだよね~ラッキー」
「最後の一個かぁ、そりゃ残念」
「あ、大石にも一口あげよっか! ほいっ」
 とある一角では、ゴールデンペアがそんなやりとりをしていて微笑ましい。遠慮がちにいいよいいよと言う大石だが、切り分けたフォークごと差し出されて、無下に断るわけにもいかない雰囲気のようだった。そしてそのまま一口分けてもらって、嬉しそうにしているのが見える。
 仲がいいんだなと思うのと同時に、あれは間接キスじゃないのかと、妙なところに意識がいってしまう。
 というのも、夕食前に自販機の前で似たようなやりとりをしたせいだ。
 寄りによって、手塚国光と。
 自販機に見慣れないものがあったから、つい興味本位でボタンを押してしまったのだ。
 乳酸菌がどうとかラベルに書いてあったが、甘ったるくて一本飲むにはキツい代物で。買ったことを後悔した頃、水分を買いに来た手塚と鉢合わせた。
 珍しい光景だなと、跡部の手に握られたボトルを目にして手塚が言った。
 ほんの気まぐれだと返したが、手塚の顔が興味深そうに見えて「飲んでみるかよ」なんて言ってしまったのは、今でも間違いだったと思う。どうしてそこで、手塚も頷いたりしたのだろう。
 その時は、何の気なしに飲みかけのボトルを渡した。手塚が蓋を開けて、唇が触れてからハッとした。間接キスだと。
 しかし手塚も、思っていたより甘ったるかったからか、一口飲んだだけで突き返してきた。眉間に深くしわを刻んで、「甘過ぎやしないか」と言いながら。
 慌てて、しかしそうとは悟らせないようにして、「同感だ」と返して息を吐いた。そうして手塚は、本来の目的だったらしいスポーツ飲料を購入して飲む。
 唇と喉の動きを、直視できなかった。
 意識してしまっているのは、跡部が手塚をそういう意味で好きだからだ。
 別に狙ってやったわけではないし、これ以上飲むつもりもない。
 間接キスごときで浮かれてたまるかと自分を戒めたのに、手塚ときたら。
「口直しに、飲むか?」
 と今し方買ったスポーツ飲料を渡してくる。
 この流れでは断るのもおかしいかもしれない。何より手塚から何かもらったことなんてなくて、飛びつきたいほど嬉しい。
「ああ、悪いな」
 ボトルを受け取って、蓋を回す。
 唇を寄せる仕草は、震えていなかっただろうか。手塚の唇が触れただろう部分に、自分の唇を当てる。情けないが、それだけでも胸がざわついた。
「……サンキュ。大分マシだぜ」
「たまには違うものをと思う気持ちもよく分かる。だが冒険のしすぎも考えものだな。貴重な体験をさせてもらったが」
 それは今後一切買わないでおこうと言って、手塚は踵を返してしまった。
 気づかれていませんようにと祈りながら、跡部は口許を押さえて熱い息を吐く。跡部景吾ともあろう者が、間接キスごときで浮かれられないと思っているのに、どうしても胸の高鳴りが止まらなかった。
 それが、しばらく経った今でも続いている。唇に触れれば熱いような錯覚もあって、相当重症だと項垂れて額を押さえた。

 別のテーブルで、手塚が同じような仕種をしているのには、まったく気づくこともなく。


お題:リライト様 /間接キス
#お題 #片想い