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手塚と跡部の恋の話
夜明けのキャロル

【装丁】文庫サイズ/48P/R18/300円
【書店通販】フロマージュブックス様予定
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/)
【あらすじ】「左手をつかんだあとに永遠のキス」で書き切れなかったエピソード。翌朝のえっちと招待客への打診
腹の筋を指先で撫でると、力んで震える。それが面白くて……というのが正しい表現かは分からないが、跡部の反応をもっと見たくてやわやわと腹を撫でた。
「手塚っ……エロい触り方……してんじゃ……ねえっ……」
跡部が手を添えて止めようとしてくるが、少しも力が入っていない。期待の方が大きいんだろう。
「仕方がないだろう。俺はお前のいやらしいところが見たい」
「なんっ……」
跡部は目を大きく見開いて、絶句しているようだ。
そんなにおかしな感情ではないだろう。好きな相手が自分の手で乱れていくのを見たいというのは。
「おま、え、普通にそういう、こと……言うんだよな……」
「言っておくが、俺の欲を目覚めさせたのはお前だからな、跡部」
「やっ……ん、ん」
太腿を撫で上げれば、背をしならせて声を上げる。まさか俺には性欲がないなどと思っていたのだろうか。まあ俺自身、こんなに強い方だとは思ってもいなかったから、しょうがないのかもしれないが。
「……だっ、て、よ……まだ、夢……見てるみてぇで……落ち着かねえ……」
「夢?」
「ずっと好きだったんだ、片想いだって思ってたっ……それなのに、いきなりプロポーズされるわ、キスどころかセックスまでしちまうわ、挙げ句てめぇがそんな、こと、言うから……」
跡部がふいと顔を逸らす。この男にしては珍しくて、心臓が少し嫌な音を立てた。
「お前が俺に欲情してんの、まだ、受け止めきれねえ……」
……それは、そうなんだろうな。関係が一気に進んでしまって、跡部にしてみたら世界が百八十度変わってしまったようなものだ。
今まで何も言わなかったくせに、跡部を知りたいと強引に関係を進めたのは俺だ。混乱につけ込んで「抱きたい」と言ったのも。跡部なら断らないと思っていたのは事実で、引くふりをしたのも卑怯なことだった。
俺は跡部の気持ちもずっと知っていたし、跡部に好意を持っている自分にも気がついていたから、こうなることは自然だったんだが、もう少し跡部の気持ちを考えるべきだったな。
「跡部、俺にもさすがに性欲はある。慣れてもらうしかないんだが…………お前は、俺が性的なことを口にするのは嫌だろうか」
「想像してなかったから落ち着かねえだけだっつってんだろ! 少しくらいこっちの事情も考えやがれ!」
顔を真っ赤にして抗議してくる。言うこと自体は問題ないのか。あまり明け透けに言うものではないと思っているが、跡部が嫌でないなら構わないだろう。反応が見たい。
「お前に……その、欲情されんのは……嬉しいんだよ……求められるとは思ってなかったから、嬉しくて、興奮する……」
こんな時にそんなに可愛いことを言うんじゃない。たまらなくなって、跡部の口をキスで塞いだ。これ以上何かを言わせていたら、本当にしゃれにならない。
「んっ……ぁ、っふ」
舌を掬い上げるように舐ると、絡めてきてくれる。かわいい……。もっと触れたい。中へ、もっと奥へ。
キスをしたまま脚を撫で、性器を……通り越して、窄まるそこを指先で撫でる。唇が離れた隙に、湿った吐息が漏れる。反応をみるに、嫌ではなさそうだ。
昨夜のなごりとでも言うのか、まだ柔らかいそこに指を押し入れる。跡部の膝が揺れて、俺を誘うように脚が開いていく。それをいいことに、俺は指を増やして跡部の中をかき回した。
「んっ、んぁっ、や、や……ぁ、手塚、手塚っ……ゆび、あ……」
「痛みは?」
「ねえ、わけじゃ、ねえけど、平気だ……から、もっと」
やはり受け身は負担がキツそうだが、回数をこなせば大丈夫だろうか。ゆっくり、ゆっくり、跡部をほぐしていく。潤んだ瞳と上気した頬がなんともいえず劣情を煽ってくれた。
じれったい、と小さく首を振る跡部だが、こっちだって我慢しているんだ。少し大人しくしていてほしい。
いや、大人しくしていてほしいというのは噓だ。跡部の手が自身のものに伸びて、いやらしく扱き出す。後ろを俺にいじられながら、それを自分で慰めるのが、どれほどいやらしい光景か、お前は分かっているんだろうか。
「あ、あ、っあ……てづ、かっ、てづかぁ……っ」
あまつさえその舌っ足らずな口調で俺を呼ぶことが、どれだけ俺を刺激しているのか。
早くここに入れたい。打ち込んで、かき回して、注ぎ込んでやりたい。
「やっ、なんで、ん、手塚、ゆび、はげし……いっ」
「お前が煽るからだろう。そんなに脚を広げて誘われたら、抑えられない。ここをもっと広げて、かき回して、奥までぐちゃぐちゃにしてやりたくなる」
「ばっ……! てめ、だから、そういうこと、言うなら、予告、しやがれっ」
「言う言葉を予告とは、どうすればいいのだろうな。早く慣れろ。こんなことを言うのはお前にだけ、ベッドの中だけだからな」
「昨夜ベッドの中じゃなかっただろうが! も、い……いから好きにしろよ……!」
ああ、そういえば最初はバスルームだったな。あれも色っぽかった。思い出して、また我慢が利かなくなる。ここに、俺のが入り込んで……中の熱さに信じられないくらい気持ちよくなって、さらに跡部が欲しくなったんだったな。
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#両想い #ラブラブ #R18 #未来設定 #結婚 #新刊サンプル #塚跡
左手をつかんだあとに永遠(とわ)のキス

跡】
【装丁】文庫サイズ/104P/R18/600円
【書店通販】フロマージュブックス様
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/)
【あらすじ】手塚の試合を観にきた跡部だが、優勝を手にした手塚に「話がしたい」と誘われて――?
せっかく6月の塚跡オンリーなので、プロポーズネタを。
これからやることを指折り数えながら、どこへいくともなしに歩く。気がつけば、街並みを見下ろせる穴場のスポットにまで来てしまっていた。
「あぁ、すげえなこれは」
「こんなところがあったのか」
「お前も来たことなかったのか」
「練習ばかりで、なかなかこういう場所はな」
隣で手塚が頷く。眼下に、優しい光を放つ街並みが広がる。大聖堂や橋のライトアップは特に美しく、目の保養をさせてもらった。
「式とかどうする? やるなら、アイツら呼びてえな。氷帝の連中。お前も青学のヤツら招待しろよ」
「ああ、そうできればいいな。あとは、選抜で世話になった人たちか……」
「広いとこ探さねえとな。新居どこにするかも……」
「一緒に住めるのか? それは嬉しい」
「別居婚じゃつまんねえだろ」
お互い多忙な身だ、結婚して同居したからといっていつでも一緒にいられるということにはならないが、帰る場所が同じというのは嬉しい。山積みの問題を早いところ片付けて、新婚生活と行きたいものだ。
「ひとまずウィンブルドン終わったら家族に話しておく。そっちのご家族の都合がつけば、いつでも挨拶に行くぜ」
「分かった。そうなると、俺も少し大会のペースを考えないといけないな。やることがたくさんある」
手塚も、できることをひとつひとつ考えているようで、指を折って数えている。試合をセーブさせてしまうのは申し訳ないが、自分たちだけで決めてしまっていいことではない。
面倒だなと手塚の気が変わってしまわないか心配ではあったが、今のところその懸念は杞憂だったようだ。
「結婚、か……まだ現実味がねえな……」
「明日、指輪でも買うか?」
無計画なプロポーズのおかげで、心構えも準備も何もできていない。分かりやすい約束の証しをと提案してくる手塚に、跡部はああと気がついて左手を持ち上げ、空っぽの薬指をじっと眺めた。
「ん? ああ、ここに合うヤツな。ひとまず婚約指輪か。形式張ったものでなくても、揃いで買おう」
「分かった」
こくりと頷く手塚。もうすぐここが輝きで彩られるのかと思うと、嬉しくて仕方がない。幸福な気持ちで、跡部はその薬指に口づけた。
「そういや、なあ手塚、俺たちキスもして、…………ね、え」
交際どころか告白さえすっ飛ばしてのプロポーズだった。するべきものを何もしていないなと改めて認識したら、手塚に手首をつかまれた。ぐっと引き寄せられ、さきほど自身で口づけた薬指に手塚の唇が当てられる。
は、と息を吐いて、現実だということを認識する。
顔を上げた手塚と視線が重なって、目蓋がゆっくり落ちていくのと同じ速度で距離が近づいていく。ややもせず触れた唇は、想像よりもずっと柔らかかった。
「…………外ですんなよ……」
「ああ、すまない」
初めてのキスだ。
優しいひかりを放つ夜の光景に包まれながらというのは非常にロマンチックだが、誰かに見られていたらどうするのだろう。どうもしないとでも返してきそうな手塚の満足そうな表情に跡部はむっと口を尖らせて、手塚がやったように今度は手塚の左手首を取って持ち上げた。
空っぽの薬指に唇を寄せて、誓いのようなキスをする。
「目を閉じてろ」
小さくそう言い放ち、手塚が素直に目を閉じてくれたのに若干驚きながらも跡部も目を伏せ、唇同士を出逢わせた。
どこで誰が見ていようと、お互いが何も見ていなければどうでもいい。世界にたった二人きりのような感覚を味わいながら、初めての唇の感触を楽しんだ。
「跡部、結婚しよう」
「ああ、手塚」
指を絡め合って、もう一度キスをする。
問題は山積みだが、本当にこの男と結婚するのか。
まだ、少しも実感が湧かない。ふうーと息を吐きながら肩に顔を埋めてもだ。
思えばこの左肩が壊れたことがきっかけだったなと思い出す。もう二度と壊れないようにと祈るように頬をすり寄せたら、腰を抱く手塚の腕が力強くなったように感じた。
「跡部、先ほども言ったように俺はお前と共に過ごすことをさほど重要には思っていなかった。今までがそうだったからな」
「ん? ……まあそりゃ俺もそうだが。お前が世界のどこで何をしていようと、テニスでつながっていられると思ってた」
「だがそれは、知らなかったからなのだと思う。俺は今、お前の唇の感触を知ってしまった。もっと知りたいと思うのは、おかしなことではないだろう」
「……は…………?」
跡部はゆっくりと体を起こし、その言葉が持つ意味を把握して、カッと頬を紅潮させてぐっと手塚の体を押しやった――つもりだったが、腰の腕はさらに力を強め、離れることができなかった。
「ちょっ、ま、待てお前っ、いきなりそれはっ……ていうかどっちがどっち……っ」
唇以外の感触も知りたい――体の隙間をなくすように抱き寄せられれば、手塚が望むことはすぐに分かる。分かるが、思考がついていかない。男女のように、役割が明確に分かれているわけではないのが、跡部の混乱に拍車をかけていた。
「おま、え、俺のこと、どう、したいん、だよ」
「抱いてみたい。もっと言うなら、手で、指で、唇で、舌で、俺のすべてで乱れていくお前を見たい」
「なっ……ん、てめっ……てめーが俺に抱かれるって選択肢は!」
「あるわけないだろう」
指先が腰を撫でて、手塚がどちら側でいたいのか分かったが、素直にはいそうですかと受け入れてやるのは悔しい。逆というものも考えてみろと言ってみたが、無駄だった。キングを自負する跡部よりも傲岸不遜で頑固なこの男は、テニス以外でも変わらない。
「跡部、駄目か?」
「……っ」
駄目か? などと下手に出て訊ねているようでも、腰はがっちりと抱え込んでいる。駄目だなどと返せるわけもない。まだ口約束だけとは言え結婚の約束をしたのだし、肉体的な繫がりをもつのはおかしなことではない。そもそも恋い焦がれた男から誘われて断れるわけもなかった。
「駄目なら諦め――」
跡部が答えを出す前に、予防線を張ったのか手塚が引こうとする。跡部は指先で唇に触れて、その言葉を止めた。
「手塚、お前の口から諦めるなんて言葉聞きたくねえ」
いつだって手塚は諦めなかった。
肩が壊れても肘がおかしな色になっても、勝利に執着してきたはずだ。その男の口から、諦めるなどという音がこぼれていいはずがない。
「お前の望むような反応できねーかもしれねーぞ。何しろ男に抱かれた経験はねえ」
「構わない。こちらも男を抱いた経験などないからな。初心者同士でいいだろう」
まあそうだろうなとは思うが、真面目な顔をして言うものだから思わず笑いがこみ上げてくる。心の準備も、体の準備もできていない。だがもし失敗しても初心者同士なのだからという免罪符ができた。
「分かった。いいぜ手塚、俺がお前に抱かれてやるよ」
そう言ってニッと口の端を上げてやれば、手塚が僅かにホッとしたような顔を見せる。
きゅっと心臓が締めつけられるような感覚を味わい、交際0日の婚約者たちは夜のドイツを歩いた。
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#片想い #両想い #未来設定 #R18 #結婚 #新刊サンプル #塚跡
塚跡お題100本マラソン1~10

2022年8月に出した47冊塚跡、早くに完売してしまったのと、ご要望いただいたため再発行しました。
中身は誤字脱字等修正したのみ
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm)匿名性なし
書店:フロマージュブックス様
(https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/ci...)
①ラブラブな二人へセット1 SS11本/40P/500円 2022/10/08発行済み
髪にキス(塚→跡。眠ってしまった跡部の髪に)/間接キス(塚←跡。狙ってやったわけじゃない)/額にキス(塚→←跡。おそろいのパジャマを買った)/眼鏡をかける(塚→←跡。同棲中?)/スーパーで買い物(塚→←跡。未来設定:同棲中)/膝枕をする(塚→←跡。跡部の膝枕)/一緒に寝る(塚→←跡。同棲中の夜のひととき)/後ろから抱きしめる(塚→←跡。同棲中、朝食を用意していたはずなのに)/おそろい(塚→←跡。未来設定:同棲中、おそろいが嬉しい)/散歩をする(塚→←跡。未来設定:同棲中、コンビニへアイスを買いに)/最高の愛情表現(塚→←跡。ハッピーサマーバレンタイン!CD発売されました)
②恋する台詞セット1 SS10本/40P/500円 2022/10/08発行済み
勝手に自己完結してんじゃねえよ(塚→跡。片想いと思っていたのに)/うーんと……じゃあキス10回分で(塚→←跡。お店で待ち合わせ)/何か、お前といると落ち着かねえなあ(お互い無自覚)/お前の笑顔、好きかも(塚→跡。無自覚だけど……?)/なんでこんなにいい匂いがするんだろ(塚→跡。巻き込まれる乾と大石)/俺を惚れさせたんだ、覚悟しろ(塚→跡。気づいてしまった)/電話なんかじゃ足りない(塚→←跡。ドイツ―日本間の電話)/……もし、今、……すぐ会いたいって言ったら(塚→←跡。旧テニ世界)/結論としては…好き…なんだと思う(塚→跡。混乱してプンスコする跡部……?)/また明日、この場所で…会って、くれますか(塚←跡。テニスがしたい)
③ラブラブな二人へセット2 SS10本/40P/500円 2022/12/18発行済み
腕を組む(塚←跡。無自覚)/ストレッチ(塚←跡。もう少しマシなきかっけはないのか)/相合い傘(塚←跡。この状況で相合い傘は)/服の裾を引っ張る(塚→←跡。未来設定:ある夜のできごと)/手を繋ぐ(塚→←跡。少しでも一緒にいたいので)/猫を拾う(塚←跡。ねこちゃんを拾う。「まどろむ仔猫」とは別物)/映画を見る(塚→←跡。未来設定:普通のデートがしたい)/動物と遊ぶ(塚←跡。「猫を拾う」の続き)/贈り物をする(塚←跡。これなら受け取ってくれるだろうか)/雨に濡れる(塚→←跡。突然の雨に降られてしまった)/花火を見る(塚→←跡。未来設定:同棲中、一緒に花火を見上げる)
④恋する台詞セット2 SS10本/40P/500円 2022/12/18発行済み
あと……五分だけ(塚→←跡。同棲中の朝)/体温高いよお前(塚→←跡。ソファでしちゃイチャ)/それだけで充分だったんだよ(塚→←跡。好きになったきっかけは)/……いや?きれいだなと思って(塚←跡。一緒に花火大会行きました)/たまにはこうやって我が儘言え(塚→←跡。未来設定:甘えられたい)/……誓うか?(塚→←跡。ずっと一緒にいることを)/別に好きなんて言った覚えないけどね(塚→←跡。返り討ちに遭う不二と菊丸)/こんなに会いたいと思うの、おかしいかなあ(塚→←跡。未来設定:見送ったばっかりなのに)/例えば、俺の横で無防備に寝てくれることとか(塚→←跡。手塚にとっての幸福とは)/殴り倒したいくらい好きですよ(塚→←跡。困っていることがある)
⑤イマジネーションセット SS10本/40P/500円
カレンダー(塚←跡。約束の日が待ち遠しい)/とけかかったアイス(塚→←跡。まだ恋人同士じゃない)/止め処ない蒼(塚→←跡。面白そうに笑うのは)/チョコレートを一粒(塚→←跡。バレンタイン)/手を繋いで、指を絡めて(塚→←跡。ハッピーサマーバレンタイン)/夢をみた(塚→跡。無自覚)/うたかたのまどろみ(塚→←跡。プールサイドから愛を込めて)/満月夜(塚→跡。ついうっかり告白)/うさぎのりんご(塚→←跡。未来設定:風邪を引いてしまった)/まどろむ仔猫(塚→跡。拾ったねこちゃん)
⑥バラエティセット1 SS11本/40P/500円
冷たい雨(塚←跡。告げてしまった、駄目なのに)/熱いコーヒーを一杯(塚→←跡。夜明けのコーヒー)/流れ星に願いを(塚→←跡。流れ星に願いを)/思いがけないプレゼント(塚→←跡。薔薇3本の意味)/つかの間の休息(塚→跡。無自覚)/少しばかり優しすぎる(塚←跡。つかの間の休息続き)/夢で逢えたら(塚→跡。未来設定。いつでもあの試合を思い出す)/甘い蜜のよう(塚→←跡。初めて触れた唇)/友達は恋人未満か否か(塚→跡、塚←跡。両片想い)/甘酸っぱいセンチメンタル(塚→跡。二人で「リョーマ!」を観る。ほんのりリョ桜?)/恋愛対象というものは(塚→←跡。まさか両想いだったなんて)
⑦バラエティセット2 SS10本/40P/500円
空いた座席(塚→跡。未来設定:この試合に勝ったら)/いつかの話(塚→←跡。プロポーズしました)/ゲーム・オーバー(塚→←跡。どっちが先に閉じる?)/月明かりの下で(塚→←跡。肌寒くても一緒にいれば)/いい夢をみるために(塚→←跡。ドイツと日本、時差はあるけども)/この手を取れるかい(塚→←跡。言ったら最後)/視線だけの密会(塚→←跡。視線で会話するのもお手のもの)/じれったい奴等め(塚→←跡。不二・大石・滝・忍足が奮闘(?))/常に前を見据える、強靱な瞳(塚←跡。未来設定:もう一度戦いたい)/盲目な程に、一途に(塚→跡。分かりやすいほどアレなのに)
⑧バラエティセット3 SS11本/40P/500円
あ、目が合った(塚←跡。この気持ちはなんだろう)/あ、メールが来た(塚→跡。この気持ちはなんだろう)/本当はうれしいけど(塚→←跡。お前にそういう欲があったのか)/小さな意思表示(塚→←跡。伝わるだろうか?)/…分かれよ、ばか塚→←跡。自分にもこんな欲があったのか)/色付いた桃色の頬(塚→←跡。友人たちに報告する跡部)/…あんまり見んなよ(塚→←跡。情事の名残と、思いがけない告白)/優しく、強く美しい恋人(塚→←跡。未来設定:好きなタイプ)/甘えるのが怖いのは(塚→←跡。未来設定:同棲中、甘えられるのは嬉しい)/君を見つけてしまったあの日(塚→跡。知らなかった君のこと)/ただ、君と居たいと(塚←跡。ライバルでいいから)
⑨バラエティセット4 SS9本/32P/400円
スパイ組織(塚→跡。ちょっとバイオレンス)/何かが変わった気がした日(塚→跡。何げない日常だったのに)/気持ちを言葉に変えた日(塚→跡。正直に、直球で)/君に居留の恋をした日(塚→跡。二度目どころか)/飽きないか、そんなに俺のことばっかり見てて(塚→←跡。絶対にこっちの方が負けている)/勘違いするな、遊びだよ(塚→←跡。そのつたないキスが)/おいで(塚→←跡。疲れているなら、この腕の中で)/先に言ったら負けよ(塚→←跡。お互い意地っ張り)/視線の絡む瞬間に(塚→←跡。そろって告白)
⑩ちょっとエッチなセット(R18) SS7本/26P/300円
長いキス(塚→←跡。キスのルーティン)/ディープキス(塚→←跡。舌の色を見る)/背中にキス(塚→←跡。不安にさせていたなんて)/何度も言わせるな、ばか!塚→←跡。足りてるわけ、ないよな?)/あー…愛されてるって感じ(塚→←跡。未来設定:一緒にお風呂)/苦しい位が丁度いい(塚→←跡。隠れてキスを)/余裕なんて、ない(塚→←跡。未来設定:玄関先で)
#両想い #ラブラブ #未来設定 #両片想い #片想い #新刊サンプル
情熱のブルー

【装丁】文庫サイズ/310P/R18/1700円
【書店通販】フロマージュブックス様(https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/de...
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/)
【あらすじ】
※「永遠のブルー」を手塚サイドから書いたストーリーとなります。
関東大会の試合以来、跡部のことが頭から離れない。僅かな心の動揺に手塚は恋情を自覚したが、告げるわけにはいかなかった。気持ちを押し殺し好敵手として長く過ごしてきたが、それは些細なきっかけで崩れてしまう――。
作中にリョ桜表現がありますので、苦手な方はご注意ください。
三日、最後のリハビリに励んだ。病院での手続きを済ませて、いちばん早い飛行機に乗った。今日はちょうど、全国大会の組み合わせ抽選日のはずだ。くじを引くまでに間に合うだろうか。
青学が無事に全国大会へと勝ち進んだことは伝え聞いていて、信じていたがやはり安堵した。
全国大会という大舞台で、またテニスができる。
医師からはあまり無茶をしないようにとクギを刺された。できるだけそうしたいが、どの学校も強敵ばかりだろう。王者立海大付属とも当たるだろうし、油断はできない。
――――氷帝は……跡部はどうしているだろう。
いちばん気にかかるのはそこだ。
彼らの〝夏〟は終わってしまった。怪我を負いながらも全国大会に進んだ自分が、「テニスをしたい」などと、ともすればいやみにも取られかねないことを跡部に望んで、受け入れてもらえるかどうか。
そもそもどうやって連絡を取ればいいのか。ふわりと跡部の顔が頭に浮かんで、唐突に顔の熱が上がった。また無意識に跡部のことを考えてしまっている。
あまりにも強烈な印象を残した試合だったから、頭から離れないのだと思う。そうしておきたい。そうに決まっている。何も問題はない。ともかく跡部のことは全国大会が終わってからだと心に決めた。
そうして空港から電車を乗り継ぎ、抽選会場である立海大付属の校舎に着いた。
途中で竜崎に連絡を入れたら、もっと早く連絡しなと怒られた。失念していたのは手塚の落ち度だ。それでもホッとしたような竜崎の声に背中を押されて来たわけだが、抽選はどうなっているだろうか。青学がまだ引かれていないのなら、自身のこの手で引いてみたい。
ドアのノブに手をかけたら、中から青学の代表を呼ぶ声がした。どうしてか笑い声も聞こえて、若干躊躇う。それでもギッとドアを開け、中の様子を目の当たりにした。
今まさに、大石が抽選の壇上に向かうところだ。間に合ったと安堵するより早く、たった一度きりのくじは自分が退きたいという欲求が駆け抜けた。
「大石、それは俺に引かせてくれないか」
声をかけた瞬間、ざわついていた室内がしんと静まりかえる。手塚の声を認識して、大石が振り向いた。安堵と歓喜でくしゃくしゃになった顔が、手塚をも安堵させる。大石が、どれほど頑張って部を支えてくれたかが分かるようだ。
手塚は壇上に向かって段を下り、駆け寄ってきた大石に頷いた。
「おかえり手塚、待ってたぞ」
「ああ、遅くなってすまない。次は全国だな、大石」
嬉しそうに頷いて、大石は元いた席に腰をかける。くじを引く役目を果たそうと壇上に視線をやって、途中、息が止まりかけた。
――――跡部。
視界の端に、跡部景吾が映ったせいだ。一瞬だけの交錯を、彼は認識しただろうか。驚いたような表情は、あの日ボールをたたき返した時のものよりも幼く見えた。
――――そうか、開催地枠。出られるんだな跡部…………よかった。
上位枠はもう埋まっていたはずだ。それなのに、敗退した氷帝学園の代表としてここにいるということは、開催地枠としての出場が決まっているということだ。
くじによっては、氷帝学園と当たることもあるのかと手塚は口の端を上げた。叶わないと思っていた公式戦で、彼のプレイを見られる。胸がざわめいて、指先がそわついた。
ざわざわと、自分のことを囁く声が聞こえる。噂話は本人のいないところでやるものではと思いつつ、気に留めるほどのものでもない。
「ふん、手塚がなんぼのもんじゃい。ワシのスーパーテニスで――」
「やめとけ。テメーじゃ十五分ももたねーよ」
ただ、跡部の声だけが鮮明に耳に届く。なぜ跡部が得意げなのだと眉が寄ったが、じわじわと胸の辺りが熱くなってくる。
――――なぜ、こんなふうになるんだ。
顔を見ただけだ。声を聞いただけだ。会話をしたわけでもないのに、なぜこんなにも胸が鳴るのか。
段を下りる途中、長い足を突き出されたが、そんなものに引っかかりはしない。
「随分と長い足だな」
そう挑発し返してやったら、高笑いが返ってくる。楽しそうだなと思っていたら、跡部が肩を震わせているのに気がついた。何かおかしなことをしてしまっただろうかと心配にもなった。
あれ以来初めて顔を合わせる。いや、合わせたというレベルではないが、元気そうでなによりだと思う。タイミングが合えば、連絡先の交換ができればいいと思いながら、生涯で一度きりの、全国大会の抽選くじを引いた。
氷帝学園はもう決まっていた。勝ち進めば、準々決勝で当たる。それを認識した瞬間、ドクンと心臓が大きな音を立てた。
湧き上がってくるのは純粋な闘志で、ぐっと強く拳を握る。
――――テニスがしたい。思いきりラケットを振りたい。
欲求は尽きない。抽選会が終わって青学に向かえば誰か相手をしてくれるだろうかと、珍しく心が逸る。
己を律することがいつもより難しくて、ゆっくりと深く息を吸い込んだ。
「手塚、本当に良かった。もう万全なのか? 大会、出られるんだよな?」
「ああ、心配ない。大石、皆を率いてくれて感謝する。全国大会に出られることを、本当に嬉しく思うぞ」
席に戻れば、大石がそわそわしながら訊ねてくる。手塚は頷きながらそれに答えた。
どのような練習をしたのか、どのような試合運びだったのか、あとで聞かせてもらおうと静かに抽選会を見守る。
大石の顔を見て安堵したが、跡部の姿を認識した時とは全く違う。
跡部も全国大会に出られるのだと知って嬉しかった。それは好敵手として認識しているからであって、何もおかしなことではないはずだ。
それなのに、どうしてこんなにもそわそわしているのだろう。同じ空間にいるというだけで、抽選の結果より彼の動向の方が気になってしまう。座った位置からでは彼が見られないということが、余計にそうさせていた。
――――終わったら、声をかけるのはおかしくないだろうか。しかし何と言えば……? また戦えることを嬉しく思うというのは、変だろうか……。
自分から行動をするのはあまり得意ではない。
普段はどうしてか相手から声をかけられることが多く、テニス以外ではイニシチアブを取るのが上手くなかった。お互いラケットを握っていれば簡単なのに、跡部は制服だ。テニスをする格好ではない。
どう声をかけるべきか、そもそも声をかけていいものかどうか悩んでいるうちに、抽選会は終わってしまった。大石に声をかけられてハッとしたくらいだ。よほど深く考え込んでしまっていたのだろう。気がつけば室内に人はまばらで、跡部の姿もなかった。
手塚は失態に気づき、眉を寄せた。悩んでいるうちに対象を逃してしまうなんて。
「さあ手塚、青学に行こう。みんな喜ぶよ」
「ああ……」
大会中にでも声をかけた方が自然かと諦めて立ち上がり、抽選会に使われていた教室を出る。青学のメンバーに報告もしなければいけないし、彼らの報告も聞きたい。今日は顔が見られただけでよしとしようと、やはり不可解な感情に悩まされた。
「手塚」
だが、教室を出たところの廊下で声をかけられて目を瞠った。跡部がたった一人でそこに佇んでいたからだ。
「話がある。少し、いいか」
神妙な面持ちはたぶん珍しいのだろう。
何かあったのかと心臓が嫌な音を立てたが、せっかく向こうから声をかけてくれたのだ、この機会を逃す手はない。
「ああ、構わない」
頷きながらそう返せば、跡部はどうしてか驚いたような顔をした。自分から誘っておきながらどういうことだと目を瞬く。
「大石、すまないが竜崎先生への報告を任せてもいいだろうか」
「え、あ、ああ……いいけど、大丈夫かい? 手塚」
大石が、心配そうに視線をよこしてくる。それは跡部にも向かっていって、手塚はなるほどと胸の内で納得した。あの日の試合のことを気にしているのだろう。容赦なく弱点を攻めてくるような男相手に、平気なのかと言いたいようだ。二年前テニス部の先輩に絡まれていたことを目の当たりにした大石が、心配するのは理解ができた。
「心配は無用だ」
「分かった、何かあったら連絡してくれよ」
そう言いつつも、大石はまだ心配そうに跡部を通り過ぎていく。気まずそうな顔をした跡部を、手塚は物珍しそうに眺めた。
「トップがこの調子じゃ、苦労してそうだな、大石は……」
ぼそりと呟かれた言葉が耳に入る。どういう意味だと訊ねてみたいが、ひとまず用件を聞くために跡部に歩み寄る。少しずつ距離が近づくにつれて、鼓動が速くなっていくようだった。
「それで、話とは?」
「…………肩、どうなんだ」
触れられるくらいの位置にまできて、手塚は促す。眉間にしわを寄せて、跡部が口を開いた。視線は左肩に向かってきていて、まあそこは気になるだろうなと軽く頷く。
「治療は終わった。もともとそんなにひどいものでもなかったのでな」
「どの口が言いやがる。俺様にあんな姿さらしておいて」
目を背け舌を打つ跡部に、ぐっと言葉につまる。彼の前で膝をついてしまったことは、悔しくてしょうがない。だが、事実は事実として受け止めなければと、コクリと唾を飲んだ。
「本当のことだ。どうも、心の方が重症だったようだが……イップスも克服してきた」
そう告げれば、跡部がわずかに目を瞠ったようだった。お前ほどの男でもイップスに陥るのかとでも言いたげだ。
良い経験ができたとは思っている。自分の中の弱さを理解できた。世間に言われるほど強くはないと思うのだが、跡部がそれだけ評価してくれているのかと考えると、胸のあたりがくすぐったい。
だが、次の瞬間手塚は目を瞠った。跡部がすっと頭を下げてきたせいだ。
「悪かった」
一瞬何を言われたのか理解できなかった。困惑ばかりが胸の中に渦巻いて、口をついて出たのは「なんの謝罪だ?」と訊ねかける言葉。いやみでなく、なぜ跡部がそうするのか本当に分からなかったのだ。
「あァ?」
跡部の顔が、不可解そうに歪む。そうしても元の美しさを損なわないのはすごいなと、この状況で的外れなことを考えた。
ふと思い当たる。
「……跡部、まさかとは思うが、気にかけてくれていたのか、肩のこと。ずっと」
跡部が頭を下げる理由などないが、思い当たるのはそれしかない。彼との試合で痛めてしまった肩のことを、謝罪しているのか。
「なっ……てめ……、気にかけるだろうが、普通は! テメェのその怪我は、元は俺がっ……」
何を言っているんだと憤る跡部に、お前の方こそ何を言っているんだと言ってやりたい。肩を指してくる指先には見向きもせずに、手塚は跡部の瞳をじっと見つめ返した。
「跡部、言っておくがこの怪我は俺の責任だ。俺が選択した結果だろう。お前には関係ない」
そう強く言い返した瞬間、さっと跡部の顔から血の気が引いたように見えた。そうしてから気がつく。これではまるで、拒絶のようではないか。
そういうつもりではなかったのだが、硬直した跡部の表情をみるに、誤解させてしまったに違いない。
「いや、関係ないというのは語弊があるな。お前に責任はないと言いたかった」
思っていることを言葉にする難しさを痛感する。こんな時テニスならば、簡単に伝わるのに、ラケットを握っていないと途端にこれだ。印象が悪くなってしまっただろうかと、胸が痛む。その理由を探したくはなかったけれど。
「……責任がねえわけねえだろ」
「ないと思うが」
「あるんだよ」
「ないと言っている」
強情な男だなと手塚は思う。自分のことを棚に上げているのは気づかずに、どうあっても譲らないと言いたげに突き刺してくる視線を、同じだけの強さで押し返す。謝罪を受け入れられなくて戸惑っているようで、瞳が揺れていた。
しかし事実として、跡部が直接手塚に何かをしたわけではない。無意識に肘をかばっていたせいで、肩に負担がかかってしまっただけだ。跡部に咎はない。
「……俺がテメェに対してできることはねえのか」
跡部の苦しそうな声音が耳に届く。責めてさえいるようなそれに、手塚は「肩はもう治っている」と小さく首を振った。
「だが、リハビリのせいで練習時間は奪われただろう」
「それは仕方がない。跡部、本当に気にしないでくれ」
対戦相手の怪我を気にするような男ではないと思っていたのに、また裏切られたようだ。義理堅いとでも言えばいいのか、それはそれで跡部景吾としての資質を損ねていない。
「逆の立場だったら、テメェは気にせずにいられるのかよ」
問いかけられて、手塚はわずかに目を瞠る。それは、無理だ。
真剣勝負とはいえ、相手の選手生命を絶っていたかもしれないというのに、一切気にかけないというのはできやしない。その沈黙を答えと取ったようだったが、手塚にも言い分はある。
「では逆の立場なら、お前は気に病んでほしいのか」
跡部が一つ瞬いて、チッと舌を打つ。言葉として答えは返ってこなかったが、それだけで充分に伝わった。
本意ではないのだ、お互いに。
あの時試合を棄権しなかった手塚と、全力で迎え撃った跡部。
お互いの責任――なんて格好つけたものではなく、ただ単に真剣に球を交わしたがった情熱だ。それで負った怪我に、どちらがどれだけ悪いということもないだろう。
「しかし跡部、そんなに心配したのなら、一度くらい顔を出してくれてもよかったんじゃないのか?」
お互い連絡先は知らないが、跡部の財力と行動力をもってすれば、九州に飛ぶことなど造作もなかっただろうに。
手塚はやんわりとため息交じりに責めてみる。跡部景吾が手塚国光の帰りを待つだけだなんて、らしくない。
「アーン? 俺様が見舞いに行ってやらなかったからって拗ねてやがんのか、手塚ぁ?」
責めたはずが、返り討ちにあった気分だった。
見舞いに来てほしいと思っていたのかと――今気づかされて、いたたまれない。いや、見舞いなどと大袈裟なものでなくて良かったのだ。顔が見たかった。
――――いやそれもおかしいだろう。なんで跡部の顔を見たがるんだ。
やはり不可解な感情が渦巻いて、眉が寄る。テニスがしたいというならまだしも、〝顔が見たい〟という願望が先に出てきたのに困惑した。
「……まあ、テメェがそう言うんだったら気にしねえようにしてやる。できるだけな。けど力になれることがあるようならいつでも言ってこいよ。なんでもいいから」
「何でも……その方がお前の気持ちが軽くなるのなら、そうしよう」
「だから、俺がどうこうより、自分のためにって考えろよ。無欲なヤツだな」
呆れた調子で肩を竦める跡部に、何を言っているのだと言ってやりたい。自分ほど強欲な人間はいないだろうにと。テニスがしたい。その欲は、誰よりも強い。
「……分かった。だがそれをしようにも、お前の連絡先を知らないのだが。個人的なことで氷帝に電話をかけるわけにもいかないだろう。都合が悪くなければ、何かしらの連絡先を交換しないか」
流れに乗った形で、跡部の連絡先を求める。不自然ではなかったはずだ。そう思うと、跡部の提案はありがたかった。いきなり連絡先が知りたいなどと言っても、不審がられるだけだっただろう。
跡部はハッと気がついたように目を瞬いて、「そうだな、構わないぜ」と端末を取り出してくれた。手塚もポケットから端末を取り出して、操作をしようとした。
したが、やり方が分からない。
なんてことだ。せっかく教えてもらえるのに、どうやったらここに登録できるのか分からない。
青学テニス部のレギュラー陣は登録されているが、向こうにやってもらった――というか登録された形だ。自主的に登録しようと思ったのは、これが最初。
手塚は気まずい思いながらも、一時の恥だと口を開いた。
「……跡部、すまない、やり方が分からないんだが」
素直にそう呟くと、跡部はぽかんとした顔で見つめてきた。間抜けなものだと自分でも思うが、どうしようもない。跡部はクックッとおかしそうに肩を震わせて笑い、それでも手を差し出してきた。
「貸してみな」
跡部は慣れているのだろうと、手塚は躊躇いもせずに顛末を手渡す。個人情報の塊であるにもかかわらずだ。しかし跡部景吾が妙な真似をするとは考えづらい。
そう思って彼を見やると、ひどく優しげな表情ですいすいと画面をなでていた。そんな表情は見たことがなくて、息を呑む。
ほわほわとしたむずがゆさを感じて、そっと顔を背ける。
――――コートの外では、そんな顔もするのか……。
本当に跡部景吾のことを知らないのだなと改めて実感する。あの日の試合で彼を知ったような気になっていたけれど、ほんの一欠片に過ぎないのだろう。
「ほらよ。できたぜ」
「あ、ああ、すまないな、ありがとう」
登録ができたらしい端末を返されて、手塚はホッとする。
これでいつでも連絡が取れるのだと思うと、指先が落ち着かない。
「手塚、本当に……試合、出られるんだよな」
険しい顔つきで、跡部が訊ねてくる。心配しているが、気に病むなと言われた手前、抑えているらしいその表情が、痛々しかった。
「肩は治ったと言っただろう。全国大会に支障はない。氷帝とも、準々決勝で当たるな。……楽しみだ」
そう返すと、跡部が目を見開く。氷帝が、青学と当たる前に負けるとは思っていない。そう暗に含んだつもりだったが、明確に伝わったようだった。負けるつもりで挑む試合などひとつもない。それは、誰もがそうだろう。
「俺も、楽しみにしてるぜ、手塚」
跡部が口の端を上げながらそう返してくる。ざわりと肌があわ立ったように感じられた。
このまま会話を終えて別れるしかないだろうか。つい先ほど、テニスがしたいと強く思った。対等な相手と、ボールを交わしたい。
目の前の男は、この欲に応えてくれるだろうか。
手塚は俯いて、たった今連絡先を登録したスマートフォンを見下ろす。
いつでも連絡が取れる状態にはなったけれど、跡部にも予定というものがあるだろう。今この機会を逃したら、ずっと重ならないかもしれない。
そもそも、申し出を受け入れてくれるかどうか分からない。肩のことを気にして、無理だと言われるかもしれない。できたとしても、手加減をされる可能性は高い。
「手塚?」
「先ほど……力になれることがあるならと言ったな。なんでもいいのか?」
俯いて黙りこくった手塚を怪訝に思ったのか、跡部が声をかけてくる。訊ねれば、どこかホッとしたような表情に変わった。力になれることがあるのかと安心したようだ。
「ああ、こっちでのリハビリ施設でも見繕ってやるか? それともジムの方がいいか。体力もちょっと落ちてんだろ。英気を養いたいってんなら、俺が最高のプランを考えてやろうじゃねーの」
生来世話好きなのか、生き生きとした声で提案をしてくる。どれも手塚の望みからすれば的外れなものだが、気遣いは嬉しく思った。
「いや、そういうことではなく……」
「なんだよ、俺様が叶えられないことがあると思ってやがんのか?」
「本来なら、頼むようなことではないと思う。望まないかもしれない相手に言って叶えたところで、それが本当に叶ったと言えるのかどうか」
「おい、俺様に哲学でも説きたいってんじゃなきゃ、さっさと言え手塚。まどろっこしい」
呆れたように跡部が息を吐く。手塚は意を決して、跡部をじっと見つめた。
そうして、あの日からずっと、焦がれている思いを音にした。
「俺はまたお前とテニスがしたい」
跡部が目を瞠るのを至近距離で見つめる。その青の瞳はあの日と何も変わっていなくて安堵した。
「……俺と?」
やはり戸惑ってはいるようだが、搦め捕るような深さは同じだ。そうだ、この瞳が見たかった。ネット越しでしか見られなかったその青が、今傍にあることが、手塚の胸に火を落とす。
「ああ、お前とだ。公式戦でなくても構わない。時間の都合がつけば、今からでもいいんだが」
「……頭沸いてんのか?」
「いや、沸いてはいない」
思考は正常だ。そんなふうに言われるほどおかしなことを言ったのだろうか。
跡部が、困惑と憤りを込めて一歩踏み出してくる。
触れてしまえそうな距離だが、跡部はいつもこんな距離で他人と言葉を交わすのかと、妙なところに思考が向かう。
それでも、跡部とテニスがしたいという思いは変わらない。
「どこの世界に! 怪我のきっかけになった相手とうきうきゲームしたがるヤツがいるんだよ!」
「なるほど。ならば世界初かもしれんな。うきうきというよりはうずうずだが」
跡部が何に困惑して、憤っているのか理解した。気にしないでいてやると言いつつも気にしているようで、まだ素直に受け入れられないのか。今の肩の状態を知らない――というより、あの日肩を痛めた時の様子をいちばん間近で見ていたせいなのだろう。
逆の立場であれば、手塚も跡部と同じだっただろうなと思うが、怪我のせいでテニスができないとは思わせたくない。
やはり、跡部とだからこそ今ボールを交わすべきだと感じた。
「……俺とお前は準々決勝で当たるだろうが」
敵同士だと跡部は眉を寄せる。データでも盗むつもりじゃないだろうなと疑う言葉を突きつけられて、その発想はなかったなと新鮮な気持ちだった。
乾であれば確実にデータを取るのだろうが、跡部とプレイしながらデータを取るなど、そんな余裕があるとは思えない。それに、プレイデータを晒すのはお互い様だ。リスクは同等である。
そう説いたら、「誰がデータなんか取らせるかよ」としたたかに跳ね返される。その根拠と自信はどこからくるのだろう。いっそ心地良いほどのプライドだ。
「ならば問題ないだろう。お前が……俺とはやりたくないというのなら、仕方ないが」
データの搾取が問題でないのならば、あと拒まれる理由はひとつだ。「お前とやると負けるの分かってるから」などと言って対戦してもらえないことが、今までに何度かあった。
跡部がそんな弱気なことを言うところは想像できないが、好まないプレイスタイルというのもあるだろう。
事実、手塚だって跡部のプレイスタイルはあの日まで好きではなかったのだ。跡部にとっての手塚のプレイがそれに当たれば、この先ボールを交わすのは難しくなる。
「いや、そんなわけねえだろ。どこからそんな発想出てくるんだよ、アーン?」
思考をむしばみ始めたそれは即座に否定された。
「俺はお前のプレイ好きだぜ」
否定されたどころか、逆に好きだと言われた。あまりに明け透けな言葉に面くらい、心臓がトクンと音を立てる。
外国での暮らしが長かったと聞いたことがあるが、そのせいなのだろうか。
「予想外に強引で傲慢なアレを打ち負かすのを想像すると楽しいな」
ふふんと楽しそうに鼻を鳴らす様子に、手塚は目をぱちぱちと瞬いた。自身が勝つことを前提にされたのもそうだが、強引で傲慢と表現されたことに驚く。
「傲慢……そんなことは初めて言われたな」
強引だというのは分かる気がする。いつの間にか手塚ゾーンなどと名付けられた技は、ボールの回転を利用してすべて自分のところに返ってくるよう打つからだ。相手の打ちたかった軌道を強引に変えるそれは、そう言われても仕方がない。しかし、傲慢というのはどういうことだろう。
「そうかよ? でもまあ、頂点に立つものには必要な要素だろう。自分は周りを引っ張っていくべき立場、自分にしかできないっていう自信は、プレイにも現れる。褒めてるつもりはねえが、貶したわけでもねえんだぜ」
氷帝学園テニス部の二百余名を率いている跡部が言うのは、さすがにリアルだ。元々のカリスマ性に加え、その自信に満ちたプレイで周りを引っ張ってきたのだろう。強引に、傲慢に。それを褒めたわけでも貶したわけでもないというのは、自身に向けたものでもあるのかもしれない。
改めて、すごい男だと思った。本当に同い年なのだろうかと疑いたくなるほどだ。
だが、あの日知った情熱に、歳など関係ない。
強引な情熱。傲慢なほどの自信。交錯した視線の強さは、背筋を震わせた。
手塚はぐっと拳を握る。
「跡部、やはり今からテニスがしたい」
「……俺様は制服なんだが」
「何でもいいと言ったな?」
火を付けたのは跡部だ。ラケットやウェアなどどうにでもなる。使い慣れたものでないと本来の力が発揮できないと言うのなら、それをそろえてからでも構わない。次の機会など待っていられないと強く見返せば、跡部の瞳には戸惑いも躊躇いも見受けられない。あの日と同じ強さで見つめ返されて、胸が熱くなった。
「……近くのコート、屋内でもいいか」
「ああ、構わない」
頷けば、跡部はどこかに電話をかけ始めた。屋内だろうが屋外だろうが、コートがあればどこでもいい。
そうは言ったが、まさかコートを借り切るとは思っていなくて、彼が財閥の御曹司だということをすっかり忘れていた。
「何も貸し切りにしなくとも……お前が跡部だということを忘れていた」
「ハ、テメェが万が一肩の怪我で無様なプレイしてもギャラリーに見られないようにっていう、俺様の配慮だぜ。感謝しな」
「余計な世話だが」
「冗談だ」
意地悪く片眉を上げる跡部に、手塚は眉を寄せる。本当に余計な世話だ。
そんなプレイしかできない状態で戻ってきたわけではないのだと続けようとしたが、じっと前を見据えながら跡部がぼそりと呟いた言葉に、そんな抗議は飲み込まれていく。
「邪魔されたくねえ」
跡部は音にしたつもりはなかったかもしれない。誰にも聞こえないように呟いただけだったかもしれない。
だが手塚の耳には届いてしまった。
邪魔をされたくないと思うほど、力を入れるつもりらしい。それは嬉しくて、胸のあたりがむずがゆい。
「……俺の肩のことは気にするなと言ったが、お前に貸しができたのだとでも思えば、なかなか愉快だな、跡部」
それを誤魔化すように返してみれば、当然面白くなさそうに跡部が振り返る。
「アァン!?」
「冗談だ」
先ほどの跡部を真似てそう呟いたら、彼は引きつったような笑みを浮かべた。
「テメェ、いい性格してるじゃねーの」
「褒め言葉か?」
「褒めてねーが!? まさかこういうヤツだったとはな……読み切れなかったぜ……」
冗談を冗談で返してくるような男だとは思っていなかったのだろう。指先で額を押さえ睨みつけてくるが、手塚には心地よさだけが残る。
予想外だったのは恐らくお互い様なのだ。手塚は跡部景吾をこんなに真摯な男だとは思っていなかった。跡部は手塚国光がこんなに強引な男だとは思っていなかった。
「まぁいい。おら、行くぞ手塚ぁ」
「ああ、楽しみだ」
まだ知らない面がたくさんあるのだろう。ボールを交わす間に、もう少し知ることができるかもしれないと、手塚は珍しくそわそわとした足取りで跡部の隣を歩いた。
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#新刊サンプル #片想い #シリーズ物 #R18
その唇で蕩かして

【装丁】文庫44P/300円/R18
【書店通販】フロマージュブックス様
【通販】BOOTH
【あらすじ】焼き肉バトルのヘリデート後、泊まっているホテルの部屋になだれ込んで濃密なキスを交わす二人。昂ぶった体を、お互いの恋情が見逃すはずもなかった――。
※途中、跡部が手塚に乗っかっている描写がありますが、最初から最後まで塚跡です。
ドアを開けて招き入れた。その瞬間腕を引かれ、今閉めたはずのドアに押しつけられる。
「あ、……っ」
すぐに重なってきた唇を拒む気はさらさらないが、唐突な接触に跡部はくぐもった声を上げた。
「んん……っ」
熱く、力強い舌が入り込んでくる。追われた舌が出逢って、口の中で暴れ回った。ちゅ、ちゅ、と濡れた音が響く。足の間に膝を割り込ませ体で押さえつけてくる強引さを、本能で押しやろうとしてしまう。だけど舌先で口の中から頬を撫でられて、ぞくぞくと這い上がってきた快感が、その手を緩めさせた。
「んっ……ふぁ……んぅ」
唇が離れてもすぐにくっついて、むさぼるように吸われる。そのたびに心臓が音を立てて、息が続かない。テニスをしている時の呼吸とはわけが違う。このまま呼吸困難で死んでしまうのではないかと思うほど激しく、奪われていく。
がっちりと腰を抱く腕。膝から太腿を撫で上げる左手。ジャージの上からでもその手が熱を持っているのが伝わってきて、嬉しくて仕方がなかった。
「ん、んっ……」
熱い舌先と器用な指先に蕩かされ、膝から力が抜けていくようだ。それでもどうにか踏ん張って耐え、混ぜられた唾液を飲み込んだ。
「手、塚……っ」
唇が離れた隙に名を呼んで、衿を掴んで引き寄せる。
手塚国光が自分に欲情しているという事実が、跡部景吾を興奮させる。それを、この男は分かっているのだろうか。
奪われていた唇を今度はこちらが奪い返して、離れてやるものかと両腕で手塚を抱きしめた。
どうして離れていられるのだろうと思うほど、互いの恋情は深く、強い。
ドイツへ行けと背中を押したのは跡部自身だし、それ以外の選択肢などなかった。だけどこうして逢えてしまうと、触れたくて仕方がなかった自分を思い知らされる。
「……っおい、ば……馬鹿、待て、手塚」
ジャージの上から胸に押し当てられていた手が、ジャッとファスナーを下ろす。すぐに中のウェアをたくし上げてきて、さすがに慌てて手塚の体を押しやった。
「がっつくんじゃねえよ、こんなところでっ」
「お前が言うな。ヘリの中でも散々俺を煽ってくれたな」
ぐっと言葉に詰まる。
各国を巻き込んだ焼肉バトルの最中に、手塚と優雅にヘリデートとしゃれ込んでいたが、こっそり腰を抱いたり指を絡め合わせたりしていたのは跡部だ。そういう欲が少しもなかったかと言えば嘘になるし、あわよくばという気持ちも確かにあった。
だがだからといって部屋に入ってすぐにとは思っていない。まさになだれ込むような状態だ。
「跡部。まさか俺には性欲がないなどと思っているんじゃないだろうな」
「さすがにそこまでは思ってねえよ! 思って……ねえけど、だから、ちょっと、待てって」
手塚の手のひらが、素肌を撫でてくる。危うくこのままここで許しそうになるが、すんでのところで理性をかき集めることに成功した。
「やりてぇのはこっちだって同じなんだよ、ばか、おい……ほんの少しじゃねえかっ……」
手を引き剥がして、ようやくまともに手塚を正面から見る。濡れた唇やわずかに上気した頬はこんな時しか見られなくて、さらに欲情させられた。ストイックな雰囲気を醸し出すドイツ代表の黒いジャージが、逆にエロティックに手塚国光を包み込んでいる。
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#新刊サンプル #塚跡 #R18 #両想い #ラブラブ #新テニ
■完売■クリスマスには早いけど

【装丁】文庫128P/700円/R18
【通販】BOOTHおよびフロマージュブックス様にて予定
【あらすじ】クリスマスを絡めた、手塚と跡部それぞれの片想い。
お互い相手に好きな人がいると思っているけれど、簡単には諦められない。応援したいけれど、募っていく想いは矛盾した感情をつれてくる。
跡部は的確に状況を判断し、理解してくれる。それには正直驚いた。大勢の部員たちを率いていた男だ、周りをよく見ているのだろうと思っていたが、ここまでとは。もし同じ学校に通っていたら、どちらが部長に据えられていただろうかと、考えても仕方のない想像をしてみたりもした。
「相手が優しければ優しいだけ、たとえ気持ちを受け入れられても〝本当に好きでいてくれてんのか〟って考えちまうだろう。拒まれるにしたって、拒んだ相手の方が傷つくかもしれないって思ってんだろ」
「恐ろしいほどにその通りだな。眼力(インサイト)はそんなことも分かるのか」
どれもこれもが一度は考えたことで、いっそ憎たらしくなる。そこまで分かるものならば、この気持ちにも気づいてくれていいのではないかと。そして盛大に拒んでくれればいい。その方がすっきりするというものだ。
「フン、眼力(インサイト)を使うまでもねぇぜ」
「じゃあ、お前はどうなんだ?」
「……アーン?」
「よく知らないが、女生徒に人気があるのだろう。交際を申し込まれたこともあるのではないのか? そういう時、お前ならどうするんだ」
「ねえが? 交際を申し込まれたことなんざ」
「は?」
思わず、低い声を上げて聞き直した。
何を言っているのだこの男は。
言ったようによくは知らないが、跡部景吾は男女関係なく人気がある。青学にまで噂が届くほどなのだ、手塚の思い違いというはずがない。
好意があるなら、親しくつきあいたいと思うのが普通だ。それにも関わらず、申し込まれたことがないというのはどういうことか。
「あまり面白くない冗談だが」
「本当のことだぜ。俺様の人気が高いのは否定しねえが、今まで一度も告白なんかされたことねえ。あ、イギリスにいた頃……いやあれは社交辞令だな。参考にならなくて悪い」
もしかして、申し込みだと気づいていないだけなのではないだろうか。そう思いかけて跡部をじっと眺め、「ああ……」となんとなく察した。なるほど、跡部景吾に交際を申し込むなどということは、恋を諦めるより勇気がいるのだ。
まず彼の放つオーラに負けない覚悟をもって目の前に立たなければいけない。それからひどく綺麗な顔をしたこの男に恋を告げる。――無理では? と容易に答えが導き出される。
跡部景吾と同等の自信を持ち、強くなければ、告げることさえままならないのだ。それを考えると、跡部が一度も告白などされたことがないというのも頷ける。
「なるほど」
「何がなるほどだよ。なんかムカつくな。……しかし、お前がねえ……青学の女かよ?」
「いや、…………他校だ。テニスで知り合った」
「なるほど」
「何がなるほどなんだ」
真似をされて、真似をし返して、跡部がふっと笑うのが目に入った。「お前らしい」と言われて、ああテニスだからかと納得した。交流会か大会などで知り合ったと解釈したのだろう。それは間違いではない。
跡部が、どこかホッとしたような表情になった。
「テニスでつながってんなら、いいじゃねえか。最初はギクシャクしても、同じ世界で生きてりゃ理解し合える」
「そうだろうか」
「ああ。なにせテニスだからな」
満足げに頷く跡部に、手塚こそ満たされる思いだ。テニスというスポーツに全幅の信頼を寄せるこの男が、本当に好きだと思う。
それならば、言ってしまっていいのだろうか。拒まれるだろうが、テニスの世界でなら理解しあえるという彼になら、この想いを告げてもいいような気がする。
「だから手塚、ちゃんと言ってみろよ。お前の惚れた女は、お前の真剣な想いを茶化すようなヤツじゃあねえんだろ? 惚れたお前が、相手の価値下げてんじゃねーぞ。もし万が一駄目でも、この俺様が直々に慰めてやろうじゃねーの」
相手の価値を下げるな――言われて気づく。
拒まれるのは仕方ないにしろ、その後に関係が壊れてしまうのが怖いというのは、跡部がそうする男だと言っているのと同じことだ。最初は絶対に気まずいだろうが、跡部景吾はそんなことで揺らぐ男ではないと信じたい。
それにしても、当人がどうやって慰めてくれるのかと思うと、愉快な気分にもなってくる。
告げてみようか。お前が好きだと。
「俺のは無理だが、お前の恋は叶ってほしい」
口を開きかけたその時、体中に衝撃が走る。ひゅっと呑んだ息が、そのまま止まったかのような感覚を味わった。
――俺のは無理だが――
なぜ。
なぜ気がつかなかったのだろうか。跡部の指摘が的確過ぎたのは、彼自身が叶わぬ恋をしているからなのだと。
カタカタと震える歯を食いしばり、唾を飲み込む。全身から血の気が引いていくようだ。
「……跡部、お前にも、好きな相手がいるのだな」
跡部は一つ瞬き、ハッとしたように眉を上げ、次いで寄せる。言うつもりはなかったらしく、珍しく油断している彼に不謹慎だと思いつつ胸が鳴った。
「……普通だろ、別に」
「…………そうだな」
絶望的だ。もともとなかった希望が、ここで絶たれる。親身になってくれたのは、自分が叶えられない恋の代わりだったのだろう。なんて残酷なことをしてくれるのかと、心臓がずきずきと痛む。
「俺に恋を叶えろというのなら、お前だって努力をできるはずではないのか」
「こっちだってまるで絶望的なもんなんだぜ。優しいヤツだからな、拒ませたくねえんだ」
跡部は寂しそうにふるふると首を横に振る。優しい相手なのだと言う彼の方こそ、優しい。拒ませることで傷つけたくないのだろう。それほどに相手を理解し、好きなのだと分かる。
跡部の恋が叶えば、諦めもつくだろうか。
手塚は高い天井を見上げ、ふうーと息を吐いた。
「跡部」
そうして跡部に向き直り、口を開く。
「お前の恋が叶うように願っている。友として、心から」
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#両片想い #クリスマス #未来設定 #R18 #新刊サンプル #塚跡
ただの好意かそれとも恋か2

いつかみた永遠のあと2ndにて発行
『ただの好意かそれとも恋か』続編。一応これで完結、旧テニの世界線です。
【装丁】文庫サイズ/206P/R18/1000円(対面イベント価格)
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/items/422502...)匿名性なし
書店:フロマージュブックス様(https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/de...
【あらすじ】まっすぐすぎる手塚の想いに触れて、跡部は恋人としてつきあうことを承諾した。そうなった以上は手塚を好きになってやりたいが、どうすればいいのか分からない。卒業まであまり時間もなく、離れる前に恋人らしくなりたいけれど、気持ちが追いついてこない。それでも手塚からの想いは嬉しくて、
心が傾きかける。そんな中、もうすぐ互いの誕生日で──?
他人の体温が、こんなに落ち着くものだとは思っていなかった。
そう表現するとあらぬ誤解を受けそうではあるが、あながち誤解というわけでもないような気はする。
跡部は手塚の背を抱いて撫でながら、はあーとゆっくり息を吐いた。
まさか、手塚国光と恋人として交際をすることになるとは思っておらず、受け入れておきながら若干展開についていけない。
勢いだったと言うつもりはさらさらないけれど、この状況をどうしたらいいのだろう。
自分を抱いてくる手塚の腕は先ほどよりさらに強くなっているし、小さく「跡部」と呟く声は、震えているようにも感じられる。それほどに歓喜しているのかと思うと、胸が締めつけられた。
「……手塚。なあ、いったん離れろ……少し、苦しい」
なだめるように背中をぽんぽんと叩けば、手塚はハッと我に返ったように体を強張らせ、慌てて距離を置く。跡部はそれがおかしくて、口の端を上げた。
「す、すまない。夢ではないかと思って」
「アーン? 夢じゃねえだろ。今さら撤回するつもりはねぇぜ、俺様は」
手塚に好きだと言われて、応えてやれないことが苦しいと思うくらいには、手塚に好意を持っている。それならば受け入れた方がいっそ楽だと思ったのだ。
間違いなく恋ではないが、手塚はそれでも構わないと言ったはず。相変わらず自信満々に「恋に変えてやれば問題ない」などとのたまいながら。
二人でソファに座り直し、同時に息を吐く。示し合わせたわけでもないのにタイミングが重なってしまったことに、どこかむずがゆさを感じた。
「真似すんなよ」
「してないだろう」
「……ふん。なあ、ところで手塚よ」
「なんだ」
「つきあうってのはいいんだが、お前は具体的に何をしたいんだ」
ソファの背にもたれふんぞり返ってそう呟けば、手塚は珍しく表情を崩す。「何を言っているんだこの男は」とでも言いたげなその顔は珍しくて、後から写真でも撮っておけばよかったと思ったことだろう。
「なんだ、その顔は」
「いや、跡部お前……交際というものの意味くらい分かるだろう」
言いながら手塚はポケットから携帯端末を取り出し、何かを打ち込み始める。
そうして、跡部にも見やすいようにと端末を互いの真ん中辺りに移動させてくる。跡部は反射的にそれを覗き込んだ。
「親密な関係を前提とした、互いの適合性を確認することを目的としたつきあいの段階……フン、なるほどね。って、そうじゃねーよバーカ。さすがに意味は分かる」
どういう解釈をしたら、交際そのものの意味が分からないと思うのだろうか。跡部は自身が世間一般の常識から若干外れているだろうことは自覚しているものの、そこまで世間知らずではない。
「俺が言ってんのはそこじゃねえ。つきあうってなったらいろいろ、その、あんだろーがよ」
「いろいろか。俺とお前では、一緒に登下校というのは無理だな……休日にどこかへ出掛ける……今までもそうしていた気がするが。……跡部、もしかして俺たちはとっくにつきあっていたのではないのか?」
「んなわけあるか! こういうのは双方の合意が必要だろうが。俺が頷いてやったのはついさっきだぜ。……そういうとこでもねえんだよ手塚、テメーは幼稚園児か」
会話が成り立っているような成り立っていないような。跡部は呆れたように項垂れて、額を押さえる。手塚がそこまで考えていないということはないはずだ。頭の中でどうこうしようが構わないと言った言葉に、すまないと返してきたことがあるのだから。
「どういうことだ、跡部」
「察しの悪いヤツだな。恋人同士ってことは、肉体的なつきあいもあるのがほとんどだ。俺がお前を抱くか、お前が俺を抱くかとか、いろいろあんだろ!」
何を言わせるんだと眉をつり上げ、声を張り上げる。
恋人になることを承諾した以上、そこは重要な部分ではないだろうか。きちんと役割が決まっている男女とは違って、自分たちは男同士だ。どちらがどちらになるかというのは、あらかじめ話し合っておかないと、認識のズレで大変なことになる。
「そうか、分かった。では俺がお前を抱こう」
至極真面目な顔で頷きながら、手塚はさも当然のことのように返してくる。跡部は今度こそ本当に呆れてしまった。最大限譲歩したような口ぶりで、少しも譲る気のない言葉は、手塚らしいとも思ったけれど。
「テメェ俺様を抱く気でいんのか」
「そうだが」
「こっちだって抱く側の性別なんだよ」
「知っている。……待て跡部、お前も俺を抱きたいのか?」
「そういうことを言ってんじゃねーよ! さも当然のように俺を女役にすんなっつってんだ!」
そもそもたった今恋人同士になったばかりなのに、抱きたいかどうかなどと分かるはずもない。
話題にしておいてあれだが、考えたことがなかった。
もし抱けと言われたら抱く努力をしてみようとは思うが、努力をしなければならない段階ではそんな行為はしたくない。何をするにもお互いの合意が必要だ。
「交際を承諾されたばかりでこんなことを言うのもどうかと思うが、俺は跡部を抱きたい。お前は俺を抱きたいわけではないと言う。それならば、抱きたいという明確な思いを持っている俺がお前を抱くべきだろう」
テニス馬鹿だとばかり思っていたこの男にも、人並みの欲望があったのだな――なんてことを言うつもりはないが、ここまで押しが強いとは思っていなかった。
プレイスタイルを考えればそう不思議なことではないのかもしれないが、手塚国光という男に抱いていたイメージというものが、ガラガラと音を立てて崩れつつある。
「なるほどね。……いや違う、納得すんな。くそ、もっともらしいこと言いやがって……。じゃあ訊くが、もしこの先俺がお前を抱きたいって言ったらどうするつもりなんだよ。大人しく抱かれんのか、テメーは?」
「……お前がそう望むのなら、……努力は、する。お前とは、対等でありたい」
眉間にしわを寄せて険しい顔をし、めいっぱい躊躇いながらも、手塚は頷く。
どうせ突っぱねるのだろうと思っていただけに、跡部は「努力する」と言われたことに驚いた。自分の願望を何が何でも押し通したいわけではないようで、毒気を抜かれた気分になる。
「だから跡部、お前はまず俺を好きになってくれないか。順番で言ったらそこからだろう」
「あー……そこは前向きに考えておいてやるぜ。言っておくが、つきあうのを承諾したのは、テメーがめんどくせぇからだ」
「考える余地があるという時点で、俺の勝ちが決まったようなものだな。覚悟をしておけ」
「アーン? 早々に勝利宣言とは、いい度胸してんじゃねえか手塚ぁ! 俺様が負けるわけねえだろうが!」
「いや、俺は必ず勝つ」
ソファの上でお互いに向き合いながら、不毛な争いが始まる。勝ちだの負けだのの言葉に過敏に反応してしまうのは、プレイヤーとしての性だろうか。
「上等だ、コート行くぜ手塚!」
「勝負か、受けて立とう」
ザッと跡部が腰を上げれば、手塚も同じ勢いで立ち上がる。視線はお互い相手を捉えたままで、一触即発と言っても過言ではない雰囲気だ。ことの発端がベッドの中での役割の話だったなどと、この状況で誰が思うだろう。
それでも二人は、意気揚々と部屋を出て跡部家のテニスコートへと向かっていった。
汗が飛び散る。荒い呼吸が空気を揺らす。握りしめる手に力がこもる。荒い吐息の中で相手の名を呼んで、足を大きく――踏み出す。
「まだだ、跡部……っ」
「……くっそ……!」
頭より先に体が反応して、受け止める。もちろん、小さな黄色いボールを、だ。
長いラリーになった。お互い負けるわけにはいかないと、意地でつながっていくボール。恐らく二人ともが、どこからこんなことになったのかもはや覚えていないのだろう。
ただネットを挟んだそこに相手がいる。ラケットがある。ボールがある。
それだけで、この瞬間すべてを懸けるに値した。
この広い世界の中で、そう思えるものに――そう思える相手に巡り会えたのは僥(ぎよう)倖(こう)だ。
なくしたくない。繋がりを断ちたくない。好意を向けられているのなら、受け止めてでも。
そう頭の隅で考えた瞬間、ボールが足元を撃ち抜いた。跡部はハッとして、転がったボールを振り向いた。
「油断しているお前が悪い」
「…………してねーよ」
チッと舌を打ち、ボールを拾い上げる。まったく厄介な相手だと思いながら、ぐいと汗を拭った。なんとも思っていない相手ならば、突き放すことなんて簡単なのに。手塚国光だというだけで、それが難しくなる。
ぽんとボールを放ってよこすと、手塚はぱしりと受け止めただけでサーブ位置に向かうことはしなかった。不思議に思って首を傾げたら、責めるような眼差しで突き刺された。
「勝負の最中に考え事とは、随分余裕だな、跡部」
「アーン?」
「打球が軽くなった。言い直すぞ。今お前の足元を抜けたのは、お前の油断じゃない。慢心だ」
わずかに怒りが混じる声に眉が寄る。頭ごなしに言われるのは不愉快だ。心当たりがあるとしても、だ。
「何を考えていた? 本調子ではないお前に勝っても、嬉しくないな」
「てめーが勝つこと前提かよ。…………いや、悪い、まだ少し……受け止め切れていねえんだろうな」
挑発するように笑ってみたものの、すっきりしなくて跡部は視線を逸らす。ひとつ深呼吸をして、非を認めた。
せっかく手塚と打ち合っているのだ、集中したい気持ちはもちろんある。勝ちたい気持ちも、叩きのめしたい気持ちも大きい。
だけど、心のどこかで引っかかっている。
「受け止めきれないというのは、俺がお前を好きだということをか?」
ネット際まで歩んできた手塚を見やり、小さく首を振った。手塚の気持ちを疑うことはない。何しろ視線も気持ちも、痛いほど自分に向かってくるのだから。
「受け止めきれねえってのは、俺の……自分の狡さだ」
そんなまっすぐな気持ちに応えられないことを、ずっと心苦しく思っていた。ただ種類が違うだけでこちらもちゃんと好意を持っているというのに。
だからもういっそ受け入れてやれと思ったのは、勢いだけではない。手塚ならばいい、本当にそう思っている。
後悔はしていないのに、引っかかる。
「俺はお前に恋してねえ。お前とテニスがしたい、お前をつなぎ止めておきたい、この糸を断ち切りたくねえ。そんな自己欲を満たすために、お前の気持ちを利用している。……お前じゃなけりゃあ、もっと簡単だったろうにな」
自嘲気味に笑い、己の矮小さに初めて気づく。跡部景吾ともあろうものが、そんな形のないものに縋るだなんて滑稽だ。
らしくないと呆れられるだろうか。
真剣な想いを利用するなと怒るだろうか。
手塚に応えたいと思う傍ら、応えられなかった時のことを思うと怖い。きっとこの糸は切れてしまう。切りたくないから、応えたい。だけど――と無限ループに陥ってしまいそうだった。
「お前のそれがずるいということならば、俺はもっとずるくて卑怯な男ということになるが」
ややあって、呆れも怒りもまじっていない声が耳に届いた。跡部は反射的に俯けていた顔を上げ、正面に手塚国光を見た。
「アーン……? 卑怯って、てめぇがか」
「そうだ。俺はお前が俺とのテニスを望んでくれていることを知っている。純粋に嬉しいと思う横で、テニスを引き合いに出せばお前が断らないと分かっていて、ラケットを握る。テニスにそんな感情を持ち込みたくはないが、お前の瞳が俺の動きを追う様を見るのは気分が高揚する。恐らく、快感と言っていいものだろう」
「かっ……」
思いも寄らない言葉が返ってきて、ボッと頬が染まるのを実感する。当の手塚は恥ずかしげもなくまっすぐに見つめてきているから、余計に羞恥が増大した。
「跡部、俺はお前を好きになってからずっと、己の中の相反する心と戦っている。テニスを利用することへの怒りや不甲斐なさや、純粋に楽しみたいのにできないもどかしさが、常にあるんだ」
跡部の瞳が、ゆっくりと見開かれていく。テニス馬鹿だとばかり思っていた手塚が恋をしていることもそうだが、そんなふうに考えていたなんて。
ぐっとボールを握りしめるその拳の強さは、そのまま彼の中の葛藤を表しているのだろう。手塚の中でいちばん大切なものと、大切にしたい相手、そしてその相手が大切にしているものが、複雑に絡み合っているに違いない。
「相手がお前でなければもっと簡単だっただろう。もっと上に行きたい――それだけだったのに、テニスをする理由が増えてしまった」
「理由……?」
跡部がひとつ瞬いて再度手塚に目をやれば、互いの真ん中で視線がぶつかる。絡んで、結ばれて、引き剥がせないところにまできてしまった。
「お前に負けたくない。お前と同じだけの熱量でこの世界にいたい。俺はこの先一人で歩いていくものだと思っていたが、できればお前とずっと共に歩めたらと、そう思っている」
すうっと、乾いていた土に水が染み込むようにその言葉が体の中に入ってくる。緩やかに体を潤していくそれは、指先にまで到達した。
テニスにかける熱量はお互い同じ。そこに恋愛感情を混じらせたくないという思いも、利用してしまうことへの葛藤も、同じなのか。ずるくて卑怯だと言いつつも、手塚はどこか満足げで、楽しそうですらある。
跡部は顔を下向けてはあーと息を吐いた。
同じだというのならば、もういいかと。
テニスをお互いの不埒な想いに巻き込みたくはなかったが、手塚はそんな自身さえ受け入れている。手塚にできて、自分にできないわけがないと、跡部は顔を上げてキッと手塚を睨みつけた。
「中学生の分際でプロポーズとは、大した度胸だなあ、手塚ァ!」
「プロポ…………そういうつもりで言ったわけではない」
「んだよ、そこまで考えてねえってか?」
「違う、お前にプロポーズするなら、もう少しちゃんと言いたいというだけだ。今のをプロポーズなどと思ってもらっては困る」
揶揄ったつもりが、撃墜された気分だった。頬が火照るのを自覚したが、悔しくて顔を背けられない。負けたような気分になってしまう。
「……ハ、口下手なテメェがどんなプロポーズするつもりなんだか。いいか手塚よ、俺は跡部の後継者なんだぜ。それなりの覚悟で――」
「分かった。では予約だけしておこう。お前にいちばん初めにプロポーズするのは俺だ、覚えておいてくれ」
二の句が継げない。交際を承諾したその日のうちに、プロポーズの予約とは。
その単語を出してしまったのは跡部だが、後悔した。手塚は本気でそうするつもりでいる。
まっすぐに、強く、強く、見つめてくる瞳に、ぞわぞわと肌があわ立った。毎度のことながら、すさまじい自信だ。断られることなど微塵も考えていないようなオーラが腹立たしくて、恥ずかしくて、悔しい。
「……テメェの相手すんのは、疲れるな」
「それはこちらの台詞だ。お前相手だと、いつも気を張っていなければならない。ひとつの油断がお前に嫌われることにならないかと……そんなことばかり考えている」
跡部がため息を吐けば、手塚がその倍ほどの量を吐き出す。
跡部は目を見開いた。あの自信満々の声の底で、そんなことを考えているというのか。まったく、内側が少しも読み取れない男だ。
間抜けにもぽかんとしていた己に気がついて、我に返り跡部は肩を竦めて小さくハッと笑う。そうしてネット際まで歩み、手塚の額を指先ではじいた。
「……っ、何を、するんだ」
「ばぁーか。テメェを嫌いになんかなりやしねえよ。安心しな」
それなりに痛かったのか、額を押さえる手塚に自信たっぷりに言ってみせる。
この男に恋をできるかどうかは分からない。だけど、嫌いになることだけはないと、胸を張って言ってやれる。
「たとえ何らかの罪を犯しても、張り倒してやるだけで、嫌いにはならねえ」
「……俺はそんなことしない」
「たとえっつってんだろ。だが、そうだな……俺が手塚国光を嫌いになることがあるとしたら――ひとつだけだな」
手塚がひとつ瞬き、先を促してくる。
跡部もひとつだけ瞬き、言葉を舌に載せた。
「お前が、テニスを嫌いになったら、俺はお前を好きではいられねえ」
ぐっとラケットを握る。
この先テニスを続けていく中で、ずっと同じテンションでプレイできるとは限らない。体に限界が来て、辞めざるを得ない時もくるだろう。
だが、だからといってそれを責めるようなことはしない。責めたいとも思わない。それが手塚の選ぶものならば、納得ができる。
「テニスができなくなってもいい。テニスを好きじゃなくなってもいい。だがテニスを憎むような男にはなるな。そうすりゃ俺は、死ぬまでテメェを嫌いになることはねえ」
「テニスを……嫌いになるという発想がなかった。あり得ない話だ。安心しろ、俺にはテニスとお前しかないからな」
「……っちゃっかりさらっと口説き文句入れてくんじゃねーよ」
無意識だったと、眉を寄せた手塚の困ったような顔に、胸の辺りがくすぐったくなった。ついうっかり口に出てしまうほど、自然に想ってくれていることが、嬉しいと思ってしまった。
「手塚、今日はこれくらいにしておこうぜ。叩きのめしてやりてぇっつー気持ちが萎えちまったからな」
「お前こそ、ちゃっかり自分の勝ちで終えようとしているが」
「そうだったか?」
そもそもどうしてこんなことになったのだったか、忘れてしまった。確かに跡部の方が多くポイントを取っていて、勝敗をつけるのならば跡部の勝ちだ。
それを面白くなさそうにする手塚を、どう受け止めたらいいのだろう。
頑固だと言えばいいのか、融通が利かないと言えばいいのか、大人げないと言えばいいのか。それとも、可愛らしいと思ってしまってもいいのか。
「次に取っときゃいいだろ」
「次だって、お前は負けるつもりがないんだろう」
「当然だ。まあ、そうむくれんなよ。今日はテメェにとっちゃ最高に幸せな日だろ? 何しろこの俺様を手に入れられたんだからよ」
「俺に恋をしていないというお前をな」
言いながらも、続けるつもりはないらしい手塚は、タオルを取りにベンチへと向かいかける。恋に変えさせるなどと強気なことを言っていても、そこは気にしているようだ。
「手塚」
跡部は、体を翻しかけた手塚の腕をつかんでぐいと引き、振り向かせる。少しだけ踵を上げて伸び上がり、汗の浮かぶ額に唇を寄せた。先ほど指先ではじいた場所に。
こんなことで痛みは消えないだろうし、らしくないことをしているということも分かっている。
触れて、二秒。離した唇の端を上げた。
「せいぜい頑張って落としてみせな。今はこれで我慢しておけ」
至近距離で見た手塚の表情は茫然としており、一秒後にはカッと頬が染まって見えた。
「…………跡、部っ……!」
「そんな反射神経で、よく俺様のライバルなんてやってられるよなあ。ほらもう戻るぜ」
掴んでいた腕を放せば、らしくなく手塚がよろめく。ネットを掴んで支えにしつつ、手塚は項垂れていた。
まったく愉快な光景だと、跡部は気分が良い。あの手塚国光が、額へのキスひとつでこうまで動揺するなんて。
邸内へ戻ろうと踵を返す跡部の後ろで、手塚の大きなため息が聞こえてくる。ちらりと視線だけで振り向けば、口許を押さえて頬を赤らめた手塚が見える。
あんな手塚を、他に誰か知っているのだろうか。青学の連中は、家族は。
胸が小気味よいリズムを刻む。じんわりと熱を持ったような唇に、そっと指先で触れる。
そこは、わずかに汗で濡れていた。
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#片想い #両想い #誕生日 #R18 #塚跡 #新刊サンプル #シリーズ物
ただの好意かそれとも恋か

【装丁】文庫サイズ/92P/全年齢/500円(イベント価格)
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/items/383416...)匿名性なし
【書店通販】フロマージュブックス様(https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/de...)
【あらすじ】全国大会後、跡部は物足りない日々を過ごしていた。気まぐれに手塚をテニスに誘えば、意外にも快諾が返ってきて驚く。それでも日が暮れるまで打ち合い、抑圧のないゲームを楽しんだ。気晴らしになったと言う跡部に、誘ってくれてありがたいと手塚は恋を告げてくる。跡部はそれを受け入れる気は当然なくて断るが、手塚は諦める気はないようで――? 旧テニの世界線です。
手塚は小さくこくりと頷き、理解をしてくれた。手塚とはいいライバルでいたいのだ。それは跡部の本心だが、手塚にそういう気持ちがある以上無理だろうかと、ほんの少し寂しくて、悲しくなってくる。
緊張が解けてしまったのか、手塚がらしくなくどさりと音を立てて隣に腰をかけてきた。
「では、どうしたら交際してもらえるだろうか」
「――テメェ理解したんじゃなかったのかよ!? ついさっき分かったって言ったばかりだろうが!?」
「提案が却下されたのは分かった。だから妥協案を」
「何も妥協してねえだろ。最終的には俺とつきあいたいってことじゃねーの」
「それはそうなる」
至極真面目くさった顔で素直に頷かれて、くらりと目眩がするようだ。跡部は思わず屈み込んで頭を抱えた。
「手塚、お前な……」
「可能性が少しでもあるならつけ込んで、……すまない言い方を誤った。攻めてみた方がいいだろうと思って」
「つけ込むんじゃねーよ。可能性なんざ欠片もねぇ」
「欠片もか」
ああ、と大きなため息とともに返してやる。それには「そうか」と返ってきたが、先ほどのことを考えると、理解したというだけで諦めたというわけではないのだろう。
テニスで心地の良い疲労を感じた後にこんなことで疲れることになるなんて、思ってもみなかった。跡部は体を起こし、髪をかき上げた。
「俺様の美貌に血迷うヤツがいるのは仕方ねえが、男からってのはあんまり気分のいいもんじゃねーな」
「……すまない。俺も、好きになろうと思って好きになったわけではないんだが、お前からしてみたら、そうだろうな」
肩を落として手塚が小さく呟く。
心なしかしょんぼりとしているように見えて、跡部は気づかれないようにぱちぱちと目を瞬いた。いつも強引なプレイで相手や観客を巻き込んでいく男が、跡部景吾の言葉ひとつでこうもしおれてしまうなんて。
手塚には悪いが、面白いものを見たと感じてしまう。
「まったく面倒なこと言い出しやがって。俺はテメェにそういう勘違いさせる態度取ってた覚えもねぇ……ん、だが……」
言いかけて、ふと思いとどまる。指先を額に当てて記憶を掘り起こしてみるが、恋に発展してしまう態度を取っていなかったとは言い切れないような気がしてならない。
好敵手として認識していたし、試合会場で顔を見れば声をかけてもいた。それはライバルとしての挑発でしかなかったけれど、わざわざ近くに行ってまでというのはやりすぎだったのではないだろうか。執着と取られても仕方がない。越前リョーマとの試合でも、頭のどこかに手塚のプレイが存在していたのも事実だ。
他校の選手相手に、自分から話しかけることは少ない。手塚だけは違う。それを自覚していなかったのは認めるが、断じて恋心からではない。
しかし、跡部のその態度から周りが勘違いする可能性はあったのだと今初めて気がついた。それで囃し立てられて祭り上げられて、手塚も勘違いしてしまったのだろうか。
「おい手塚よ、俺様はな、別にテメェのことは」
「気分を害させてすまない。何しろ初めてのことで、勝手が分からないんだ。誰に相談すればいいかも分からない。跡部は困るだろうと思っていたんだが、隠しておくのは誠実ではないと思ってのことだ」
勘違いをさせたのなら詫びねばならないと思った弁明を、手塚は遮ってくる。この物言いからするに、周りはともかく彼自身は跡部の感情を変なふうに解釈したわけではないらしい。ホッとした反面、あれは少しも特別なことではなかったと思われているようで面白くない。複雑な気分だった。
「テメェいったい俺様のどこに惚れたんだよ」
好敵手とはいえ、普段の生活はお互いまったく知らない。ふとした仕草や価値観に触れて恋に落ちるほど、共に過ごした時間があるわけでもないのだ。学園生活でそういう時間が多いのならばまだしも、いつ、いったいどこに惹かれたのだろう。
「どこ……」
訊ねた言葉に、手塚は腕を組んで考え込んでいる。すぐに出てこないというのは、多すぎて分からないのか、それとも言い出せないほどマズイ部分なのか。
――――コイツが跡部のコネや財力云々なんて言うはずもねーが、顔なんて言ったら張り倒してやるぜ。
整った容姿というのは惹かれるひとつの要素だろうが、そんな理由で恋を告白してこないでほしい。そんな男相手に気を揉んでいる時間が惜しいのだ。
跡部はそのわずかな懸念と苛立ちを眉間のしわに刻む。責めるような眼差しで、手塚の答えを待った。
「テニス、だろうか?」
「――は?」
ややあって、振り向いた手塚が思いも寄らなかった答えを告げてきた。いや、思いも寄らなかったというよりは、接点がそれしかないのだから当然でしかない。選択肢にもしていなかった。
「だろうか、ってお前な……訊いてんのはこっちなんだよ。なんで疑問系なんだ」
「あまり理由を考えなかった。普段のお前を知らないし、他に何を挙げればいいのか分からない」
「俺のことを何も知らねえのに、よくもまあ好きだなんて言えるな。テメェはプレイスタイルだけでなく恋愛スタイルまで強引で傲慢なのかよ」
「お前のテニスに触れてしまえば、好きになっても仕方がないと思うが」
呆れて物が言えないと息を吐き出すように笑ってやれば、さらなる追撃を受ける。ぐっと言葉に詰まった。
テニスと人格がイコールで結ばれているのもどうかと思うが、嬉しくないわけではなかった。跡部のテニスには、恋をするにふさわしい価値があるのだと、恥ずかしげもなく言われているのだ。
少しばかり、くすぐったい。
「それに、その理論でいうなら、俺のことをよく知りもしないのに付き合えないとは言えないんじゃないか?」
「屁理屈こねんな、次元が違うぜ。俺の美技が観衆を惚れさせるってのはまあ間違いねえがな、手塚よ。要するに俺とテニスがしてえってことだろうが。それはただの友人とか、ライバルでも成り立つぜ」
跡部自身大会を経て、尊敬するプレイヤーは増えた。対戦はできなかったものの観戦してうずうずした選手や、受けてみたいと思う技はたくさんあった。もう公式戦では当たらないからこそ、焦がれるような思いだってある。
手塚のそれも、同じものではないのか。
たった一度対戦したあの試合。頂上決戦と言われているのも知っている。あの試合を上回る熱戦も多々あるが、多くの選手たちの胸を打っただろうことには変わりがない。跡部の中でも、ただひとつの特別な試合だ。
跡部にとって手塚が特別な相手であることは否定しない。
手塚にとっても跡部が特別になってしまっていることも、否定はしない。
しないが、テニスに焦がれるのと相手自身に焦がれるのとはまったく違う。
そう諭してやったというのに、手塚は面白くなさそうに眉間にしわを刻んだ。
「成り立たないな。少なくとも俺は、ただのライバルにキスをしたいとは思わない」
即座に否定されて、絶句した。まさか手塚国光の口からそんな単語が飛び出してくるとは思わないだろう。違和感だらけだ。
「キ、………………ス、とか言うのかよ、お前が」
「心配しなくても、無理やりどうこうするつもりはない。怖がるな」
「だっ……誰が怖がってんだよ。……少し、驚いただけだぜ。少しな」
思わず強張ってしまった体を、深呼吸ひとつでなだめる。
しかし、困った。手塚は頑なに恋情だと示してくる。キスがしたいなどと、人並みの感情も持ち合わせていたんだなと若干的外れなことを考えた。健全な男子中学生らしくて微笑ましいことだ。相手が自分でさえなければ。
無理やりどうこうするつもりはないという彼の言葉を信じたいが、信じ切れるほど手塚国光という男を知らない。
もちろんイメージというものはあって、その中で彼がそんなことをする男だとは思っていない。そもそも恋愛感情をきちんと認識できる男だとは思っていなかったのである。これは跡部のデータ不足だ。
「もちろん、純粋にテニスプレイヤーとして尊敬もしている。テニスにかける情熱は見ていて心地がいいし、負けたくないという思いも強くなる」
膝の上でぐっと強く拳が握られるのが見えて、跡部はそっと視線を上に上げる。前を見据える横顔は、跡部も惹かれて止まないテニスプレイヤー・手塚国光だった。
テニスに関する思いは同じなんだよなと、呆れにも似た歓喜が膨れ上がる。
「お前とテニスをしたいという思いも嘘ではない。それでも跡部のことを考えていると、ふとした瞬間に触れたくなる。抱きしめたくなるんだ。これが恋でないというのなら、俺は本当の恋を知らなくても構わないと思う」
振り向いた視線は、まっすぐに向かってくる。
ひとつひとつ、音を確かめるように呟かれる言葉はするりと耳に入り込んで、跡部の中に留まってしまう。
ここまで言われてしまっては、否定するのは野暮というものだ。
「……本当に、好きなのか、俺のこと」
跡部は最後にもう一度、確認した。
「ああ、好きだ」
答えは分かっていたけれども、揺るがない手塚の恋情を受け止めるには、必要なプロセスだった。
「そうか」
短くそう返し、ふうーとゆっくり息を吐く。膝の上で手を組んで、こくりと唾を呑んだ。
畳む
#片想い #塚跡 #新刊サンプル #シリーズ物
永遠のブルー

【装丁】文庫サイズ/264P/R18/1500円
【書店通販】フロマージュブックス様(https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/de...
【自家通販】BOOTH(https://hanaya0419.booth.pm/items/377821...)
【あらすじ】
手塚の怪我について負い目を感じている跡部だが、「お前とテニスがしたい」と言われ自分の中の厄介な想いに気づく。こんな勝手な感情は告げられるわけがないと必死で心を押し殺しながら、好敵手として接していた。けれどそれは、手塚の一言で崩れてしまう――。
なぜお前が膝をついているんだ。
跡部景吾は、瞬きをするのも忘れてその男をネット越しに見つめた。
中学生男子テニス・関東大会。初戦の試合だった。シングルス1、多くの学校が部長を据えるこのゲームは、跡部と手塚の初対決でもあった。
手塚国光は、青春学園テニス部部長だ。
国内の中学生プレイヤーならば誰もがその存在を知っていると言っても過言ではない。寡黙ながらも正確で冷静なプレイスタイルには跡部も一目置いていて、戦いたい相手ではあった。当然ながら自分の力を見せつけて圧勝するものとして。
だがその認識は誤っていた。
冷静に状況を判断して時には妥協もするだろうと思っていた男は、ただチームを勝利に導くために自分の腕さえ懸けるような、とんでもない男だった。
分かりやすく弱点を攻める跡部に、『遠慮するな、本気でこい』などと煽るようなことまで言って、実際本気でやらなければこちらがやられると思わせる。『それでも俺が勝つ』とでも言いたげな球筋が腹立たしくて、跡部も全力で返した。
いつしか、弱点を攻めていたことなど忘れていた。
手塚が激痛に顔を歪めて肩を押さえ、膝をついた瞬間に沸き上がってきたのは、怒りと焦燥感。
自分が弱点を攻めていたにもかかわらず、なぜだ、と思った。なぜ今この瞬間なのだと、身勝手にもだ。
もう少し早ければここまで心技ともに昂ぶっていなかっただろう。もっと遅ければ、必ず自身の勝ちという結末を迎えていたはず。
そもそも持久戦など受けて立たずに退いていてくれれば、所詮その程度かと嗤(わら)ってやれたのに。
攻め立てたのは跡部で、選んだのは手塚だ。
互いの間にあった糸が、ぷつりと切られたような気がした。
青学のベンチで、他の部員たちに棄権を促されている中、跡部はただコートで待った。
納得できない。
――――こんな形で終われるわけがねえ。俺たちがこんなところで終わっていいはずがないだろう!
ぐっと強くラケットを握る。燃え上がった心はあの男でなければ鎮められない。
――――出てこいよ、手塚。手塚。……――手塚ァ!
祈り、怒り、信じて待った。こんな終わり方では納得できないのはお互い同じだと根拠なく思って。
いや、根拠はあった。手塚が打った球のひとつひとつにだ。
果たして、手塚は部員たちの反対を聞き入れず、親友と生意気な後輩の後押しを受けてコートに戻ってきた。
「待たせたな、跡部。決着をつけようぜ」
背筋を、何かが駆け抜けていったような気がした。武者震いに似た歓喜。
やはり同じ気持ちだったと、ラケットを握り直す。
決着をつけなければ前に進めない。いや前ではない、上だ。お互い部長同士で、チームを率いている以上責任がある。勝って次の試合に進むのは自分たちだと、それぞれ思っていたはずだ。負けるつもりでコートに立つプレイヤーなどいやしない。
だがこの時ばかりは、個人としての闘志が渦巻いていた。お互いにしか分からない機微だったとしても、それは事実だった。
「なんだ手塚ァ! このサーブは!」
球を打ち返す。激痛に顔を歪め、肩も充分に上がりきらない相手のボールを、容赦なく打ち返すなんて非情だと責める者もいるだろう。始めのリターンエースを見ていてそれを言うならば、眼科に行けと言ってやりたい。
そもそも、手を抜くべき場面ではない。それは手塚に礼を欠く。手塚は激痛に耐えてまで、勝つためにコートに戻ってきた。容赦がないのは手塚の方だ。あのボールを受けてみれば分かる。この期に及んで、負けるつもりなど毛頭ないことに。
手塚の息が上がっている。跡部の息も乱れている。
どちらも引くということを知らない男だ。その事実を、観戦している誰もが初めて知った。相対しているお互いさえも。
こんなにがむしゃらで熱いプレイをする男だったなんて。こんなアイツは見たことがない――近しい相手すらそう言うのだ。今までろくに言葉を交わすこともなかった状態では、当人たちだって同じ思いを抱いているだろう。
自分の中にもこんな必死さがあったのかと、自分自身に驚いてさえいるかもしれない。
跡部はそれを自覚していた。幼い頃イギリスで同年代の少年たちに負け続けていた時だって、ここまで必死になった覚えはない。
自分自身の未熟さに腹を立てて技術を磨いたが、あの時とは全然違う。己の内にあるすべてのもので挑まなければならない相手だ。
間違いなく、この先の人生で無二の試合になる。直感でそう感じた。
体も、心も、魂も、比べるもののない試合になると分かる。
だからこそ打ち込む球に最高の力を込める。誰になんとそしられようと構わない。
この球を受ける相手に――手塚には分かっているはずだ。
トスを上げる直前に交錯した視線で、手塚がわずかにグリップを握り直したことで、それが自分の独りよがりではないと確信ができた。
たとえこのタイブレークがどれほど続いたとしても、自分を――そして、手塚がテニスに懸ける想いを裏切ることのないように、すべての力をもってプレイをしよう。
――――手塚、ありがとよ。今ここでお前と戦っていなければ、お前が全力で挑んできたりしなければ、俺は俺の進化を自分で止めていた。
一瞬たりとも気など抜けない。全神経をボールと手塚の動作に集中させているのに、それでも横を抜かれる。仕返しに足元を撃ち抜いてやっても、すぐ次の手に備えなければならない。
一ポイント取っても、次は取られる。全力で打っているのに、向こうも全力で打ち返してくる。
だが不思議と腹が立たない。悔しくはあるが、余計に気分が高揚した。魂が吼(ほ)えたような気分を味わう。
いつしか、審判のカウントの声も聞こえなくなっていた。
聞こえるのは、コートを踏みしめる音と、強烈なインパクト音。互いの咆哮と、荒れた吐息。それだけだった。
いつまで続いたっていい。
日が暮れたって構わない。
ずっとこうして、球を交わしていたい。
だが終わりというのはいつかくるもので、ポイントを取るために打った手塚の零式は彼の思惑に反した軌道を描き、跡部のラケットがそのボールを拾い返す。その際に倒れ込んだ跡部の反応が遅れる。
手塚が打ち返してポイントを取られ、まだタイブレーク状態が続くものと思われた。だが手塚の打った球が跡部のテリトリーにまで届くことはなく、ネットに捕らえられて――落ちた。
ゲームセット! という審判の声で、周囲の音が戻ってきたように思う。
ああ終わったのか。終わってしまったのか。
跡部は立ち上がって、ネット際に歩んできた手塚の顔を見た。相変わらず表情は読みづらく、この勝敗をどう思っているのか分からない。
跡部はじっと手塚を見据え、彼の背負うものに思いを巡らせた。
勝ちは、勝ちだ。そして、負けは負けだ。
だがそれでも、差し出された右手を握り返して、高く掲げてみせる。
お互いが勝者で、お互いが敗者だと。
周りが驚いているのが空気で分かる。手塚すら驚いているようなのが手のひらを通して伝わってくる。
他にどうもできなかったのだと、跡部自身らしくないことを理解していて、長くはそうしていられない。
ゆっくりと手を放せば、「跡部」と小さく呼ばれる。だが何も聞くつもりはなくて、揃って審判への礼を終わらせ自陣へと戻った。
ベンチに腰をかけ、息を整える。
ここまでとは思わなかった。手塚という男が。跡部景吾(じぶん)という男が。
満たされた気分だ。そう思う傍から、まだ足りないと思う自分がいる。
まだ、もっと、高みへ行ける。恐らく同じ思いを抱えている男がいるから。
だが、と跡部は吐き出した息を飲み込んで止めた。
――――次の補欠戦、恐らく負ける。手塚が目をかけている新人だってえんだから、相当な腕の持ち主だろう。日吉まで回ることを想定していなかった俺のミスか。
日吉も二年の中では優秀なプレイヤーだが、まだメンタル面に未熟なところがある。次代の氷帝を背負うには、ここを乗り越えられるかどうかにかかっている。
ふと顔を上げると青学ベンチの手塚が目に入った。何をしていやがる、と眉間にしわが寄る。早く病院に行けと叩き出してやりたい。
ネット際で握手をした時だって、わずかながら左手が震えていただろう。その肩はすぐに治療をしなければいけないのではないのか。周りの連中も、いったい何を悠長に構えているのだ。
「おい、てづ……」
思わず腰を上げかけた時、気づく。手塚がじっとコートを見据えていることに。
後輩である越前の試合を、余すところなく見届けなければならないと。その勝利を信じ、熱望して。
跡部は上げかけた腰を下ろし、ふっと口許を緩めた。
そうだ、信じて観ないでどうするのだと。これは個人戦ではなく団体戦なのだ。率いているキングが周りを信じなければ、誰もついてこない。
自分がするべきことはした。自分自身も想定外に熱くなった試合は日吉の闘志を刺激しただろうし、準レギュラーですらない部員たちにも、何か響くものがあったはずだ。そして自分のペースで心技ともに磨いていくきっかけになっただろう。それでいい。後はここでどっしりと構えているべきだ。
それがキングたりうる者の使命。
――――勝ってこい、日吉。今お前の持てるすべてでぶつかってこいよ。
信じてここで待っている。
跡部はいつものしたたかな笑みをたたえ、ちらりと手塚を見やった。
周りを信じられるかどうか――自分たちの勝負はまだ続いている。青学と氷帝の勝負であり、頂点同士の勝負でもある。
――――同じなんだろ、手塚。背負うものは俺もお前も変わらねえ。てめぇとの決着は、まだついちゃいねぇぜ!
どよめきやインパクト音が響く中、跡部はふっと視線を上げて目を細めた。
まだ昇っていける。あの高みへ。あの瞬間の快感を忘れることなどできやしない。
――――ああ、なんて……鮮やかな青をしてやがる。
夏に向かう色だ。
日吉の――氷帝の敗北がきまったのは、それからしばらくの後だった。
「手塚、九州やて?」
手塚が療養のために九州へ向かったことは、人づてに聞いた。
「ああ、そうみたいだな」
跡部はそう返すしかできず、ふいと顔を背ける。
「見舞い、行かへんの」
忖度も何もなく無遠慮にそう訊ねてくるのは忍足で、ある程度予測のできたものだった。
「九州までか?」
「跡部なら金の心配はあらへんやろ。自家用ジェットでも使たらすぐなんとちゃう?」
暗に行かないと答えたつもりなのに、懸念事項はないとばかりに続けてくる。
確かに金銭的な問題はない。ヘリでもジェットでもすぐに使える立場にはある。
生徒会やテニス部のことで時間がないと言っても、この男は「跡部がそんなつまらん言い訳するやなんてなあ」と言ってくるに違いない。そして実際、調整できないわけでもない。
「行って何するってんだ、テニスができるわけでもねえのに」
「よう言うわ。朝から晩まで気にしとるくせに。詫び入れたいんやないんか?」
「詫び、ねえ……」
手塚が療養に行ったのは、跡部との試合で痛めた肩の治療のためだ。
罪悪感は、ある。
弱点を攻めて潰しにかかったのは跡部なのだから。だが跡部にとって誤算だったのは、肩に負担がかかっていると理解しつつも手塚が退かなかったことだ。
なにも、本当に再起不能にしようとしたわけではない。選手生命にも関わる部分だ。およそすべてのプレイヤーが、その先を考えて棄権するか、攻め急いで墓穴を掘るかだと思っていた。今まで相手にしてきたどの選手もそうだった。
それなのにあの男は、肩の不調を抑え込んでまで持久戦を挑んできたのだ。
読み切れなかったことで、手塚の肩を破滅させた。
詫び、で済むのかどうか。
もし今後テニスができなくなったりしたら――どうすればいいのか。あれほどの選手を、自分が死なせてしまうのか。
九州には確か、青学大附属の病院があったはずだ。そこに罹っているのだろう。
これが跡部家の息がかかった施設なら最優先にしろと手を回すところだが、……と思いかけて、踏み留まる。
治療を必要としている人はなにも手塚だけではない。それこそ一生をふいにする怪我を負っている患者だっているだろう。それを押し退けて治療を優先させろなどとは、口が裂けても言えやしない。
「手塚がそんなもの受け入れるかどうか……」
口許に苦笑を浮かべて、忍足に答える。望まれるなら詫びでもこの先の生活補償でもするが、手塚はそれを受け入れないだろう。「必要ない」とにべもなく言ってのける姿が、目に浮かぶようだ。
「お前がそないに苦しそうな顔するんやったら、やっぱりあの時止めといたら良かったわ」
けど、とそこでいったん言葉を止める忍足を振り仰ぎ、そこに苦笑する友人を見つけた。
「なんやあの時は、止められへんかった。あないに必死にボール追う跡部やなんて、そうそう見られるもんとちゃうしなあ。手塚に関しての読み違いはあそこにおる全員がそうやったろうけど、跡部も大概やで。観たかったんや、宿敵同士のまたとない試合。止めへんで、堪忍な」
「……宿敵同士?」
跡部は目を丸くする。何の不思議もなく出てきたその単語が、ストンと自分の中に落ちてきて、じわりと体中に染みこんでいく。
「なんでそこで驚くん、自分。変なこと言うたか?」
「い、いや……そうじゃねえが、アイツが俺を宿敵として認識したように見えたってのか?」
確かに跡部は手塚をライバルとして意識していた。だがあの試合まで彼とはろくに言葉を交わしたこともなかったし、手塚が他人をそう意識しているようには見えなかったのだ。
「俺のことはあくまで敵対校の部長だとしか思っていなかったはずだぜ」
「そないなどーでもいい相手とあないにアツい試合繰り広げるんかいな」
「……手塚だからだろ」
「分からんなら、本人に訊いたらええんとちゃう?」
「連絡先を知ってると思うか?」
「せやから見舞い行って直接訊け言うてんねん。自分やったら、宿敵に見舞い来られたら嬉し……いや、ちゃうな、跡部の場合は。発破かけにきたんかってテンション上がって、それまで以上にリハビリ頑張んのやろな」
忍足は、どうしても跡部を見舞いに行かせたいらしい。
一度くらいは顔を出すべきだと思うが、それでテンションが上がる手塚など想像もできない。本当に宿敵と思ってくれているなら悪くない気分だが、当の手塚はそれどころではないだろう。
「男らしゅうないで、跡部」
「アーン?」
「あの試合からずっと手塚のこと考えとるくせに」
男らしくないとは聞き捨てならねぇなと煽るようにすごんでみたが、次に忍足が発した言葉に瞠目し、息を呑んだ。
ずっと手塚のことを考えている――それは、事実だ。その事実に今気がつかされただけで。
「…………それは、仕方ねえだろ」
肩の怪我は。治療はどのくらい進んでいるのか。今も痛むのか。次の試合には間に合うわけがない。青学はどうしているんだ。この先テニスはできるのか。
日がな一日、考えるのはそんなことばかりだ。
手塚がどう思っていようと、跡部が怪我のきっかけを作り一因になったのは間違いない。その跡部が手塚のことを心配するのは、なんらおかしなことではないはずだ。
「気にかかることがあるのに、行動に移さんてのは男らしゅうないて言うてるやん。毎日そないに眉間にしわ寄せられてたら敵わんで」
「眉間にしわだと?」
「自覚しとらんのか、跡部。部室になんか来とらんと、はよ見舞いに行きや」
言いながら自身の眉間を揉む忍足に、跡部の眉根が寄る。それに気がついて舌を打ち、顔を背けた。
手塚のことを考えている時、いい気分でないのは仕方がないにしても、周りに悟らせたどころか気を遣わせていることを不甲斐なく思った。
跡部はふうーと盛大にあからさまなため息をつき、ジャケットを脱いでネクタイを緩め、着替えを始めた。それを見て、忍足の方こそあからさまにため息を吐いた。
「ジャージで行ったかて、手塚とテニスはできんで」
「自主トレだ、バァカ。これ以上てめぇのたわごとなんざ聞いていられるか」
制服の替わりにバサリとジャージの上着を羽織って、跡部は更衣室を後にしようとする。ドアを開ける直前、口許に笑みを浮かべて振り向いた。
「気を遣わせてすまねえな、忍足。今この瞬間からは、そんな気遣いは捨てな」
体を翻したこの瞬間からは、もう周りに心配をかけるようなことはないと暗に含み、足を前へと踏み出す。それは氷帝のキングとしての一歩だ。
キングの背に、忍足のため息は届かなかっただろう。
「あの日で氷帝の夏は終わったのに、お前の夏はあの日に始まってもうたんやな、跡部。なんちゅう皮肉や」
そんな呟きさえも。
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永遠の情熱に
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エイプリルフール
不意打ちのアイラブユー
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贈る側のはずなのに1007
その瞳に映るもの
唇が奏でる音は (BOOSTお礼)
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次に逢うときは
キスを贈る
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