おそろい

 手塚と二人で店に戻り、並べられたマフラーを手に取る。迷うことなく、深い緑色のマフラーを選んで。
「お前に似合うと思って」
 それをレジで綺麗にラッピングしてもらい、手塚に差し出す。自分がもらったものと同じショッパーなのは紛らわしいが、手塚はしっかりと両手で受け取ってくれた。
「ありがとう、跡部。まだ……実感がわかないが」
「こっちの台詞だ。つーかてめぇ勝手にキスまでしといて実感がねえとはどういうことだ、アーン?」
 手塚はぐっと言葉につまったようだった。両想いだったことが判明して、ついうっかりあふれ出してしまった情動が、二人の唇を触れ合わさせた。跡部も別に嫌ではなかったが、場所を考えろとは言ってやりたい。
「……お前があんまりにも可愛かったものだから」
 気まずそうに口にされた言葉に、カッと頬が染まり、今度は跡部が言葉に詰まる。
 この男の審美眼はいったいどうなっているのだろう。可愛い? と首を傾げてみるが、さっぱり分からない。手塚がそう思っているならいるでそれで構わないが、どうにもむずがゆかった。
「お前本当に俺のこと好きなんだな……」
「お前も俺のことが好きなんだろう? おあいこだ」
「まあそうなんだが」
 まさか、手塚の想う相手が自分だなんて思わなかった。
 叶わないのだと思って涙を呑んだのに、こんな奇跡があるなんて。
 ちらりと見やると、手塚の方も同じことを思っているらしく、どことなく落ち着かない様子だ。それがなぜか可愛らしく思えてハッとする。可愛いとはこういうことなのかと。手塚もあの時、こういう感覚を味わっていたのかと思うと、恥ずかしくて嬉しい。
 指先がそわそわとして、胸が鳴る。跡部景吾ともあろう者が、こんな些細なことで心を揺さぶられるとは。それも手塚相手ならしょうがないと思ってしまうあたり、相当重症だった。
「手塚、なあ……クリスマス……空いてんのか?」
「特に予定はない。夕食は家族と共にするが」
「じゃあ、それまでデートしようぜ。テニスもいいが、もう少し恋人らしいことしようじゃねーの」
「デートか、そうか……これからはお前と逢うとなると、そう言えるのだな」
 手塚の口許がふっと緩む。こんな些細なことでと思うと、途端に愛しさが増した。
「手塚、ちょっと来い」
 袖をつんとつまんで、傍の通路に引っ張り込む。不思議そうに小首を傾げる手塚に身を寄せて、頬にそっと口づけた。
「……っ跡部」
「何照れてんだよ、つられるだろうが」
「いや、その、突然で驚いて」
「俺はもっと驚いたんだぜ」
 反論できずにいる手塚にもう一度唇を寄せ、今度は頬でなく唇に触れる。
 あの時は感触を味わう暇もなかったから、今度こそと思った。案外に柔らかなそれは心地良くて、本当に恋人同士になれたのだとじわじわ温かみが広がってくる。
 だがしかしここはどうしても人目がある。名残惜しいが体を離して、愛しそうに見つめてくる手塚にまた恋をした。
 恋をしてもいいのだと思うと、嬉しくて仕方がない。右肩に額を乗せれば、手塚がそっと抱いてくれた。
「跡部、クリスマスにはもう少し長いキスがしたい」
「デートの行き先よりもキスの長さか」
「俺はお前といられるならどこでもいいが」
「可愛いこと言ってんじゃねえ」
「俺は可愛くないだろう」
 言いながら、左手と右手が重なり、指が絡んでいく。
 そんなことをしていたら、心配した友人たちからことの成り行きを訊ねるメッセージを受信した。
 説明をしに行くかと、二人は待ち合わせの場所へと歩き出す。空いた手に、揃いのショッパーを提げながら。


 



2022/12/18