GOOD MORNING :Atobe
ベッドの上で目を覚ますと、見慣れない光景が広がっていた。
自分のものではない肌の色。ぼんやりとした意識がはっきりとするにつれて、自分の体に巻きつく誰かの腕があるのに気がついた。
――――いや、誰かの、なんて……。
恋人のものに決まっているのに。決まってはいるが、こうして一緒に朝を迎えるのは初めてなんだ。驚きと歓喜に打ち震えてもしょうがない。
――――大事そうに抱きしめてくれやがって。
正直、こんなことになるなんて思わなかった。ずっと片想いだったし、そろそろ自分の気持ちにケリをつけなきゃならねえと思ってはいたんだ。コイツが――手塚が大事な相談があるなんて言うから、てっきりどこぞの女との結婚だろうと踏んで、ひとり涙を呑んでたってのに。
――――好きだ、ってよ……愛してるって、言ってくれた……コイツが。
まだ実感が湧かないか? なんて手塚に訊ねた俺の方こそ、実感がなかった。だってよりにもよって手塚国光だぜ? テニスしか興味のなさそうな顔したカタブツ相手じゃ、俺の恋はおろか誰の恋だって叶いそうになかったのに。
こんなに大事そうに抱きしめながら眠るような男だったなんて。
「跡部……起きたのか?」
「……っ起き、て、たのかよ。人が悪いな」
「先ほどまで寝顔を眺めていたが、無防備なお前は可愛らしいのだな」
「なっ……!」
読み切れなかった。コイツはこういうことを言うのかよ……。くそ、悔しい……跡部景吾ともあろう者が、こんな手に落ちるだなんて。
「フン……俺の無防備なとこなんて、散々見ただろうがよ」
「ゆっくり堪能できる余裕があったと思うなよ」
「…………お前、割とガツガツしてんのな、こっち方面」
「すまない……お前があまりに色っぽいので」
心なしかしょんぼりとした声音に笑って、あちこち痛む体を起こす。痛みさえ嬉しいなんて、俺も相当重症じゃねーの。まあ十年こじらせてたあたり重症で当然なんだが。
「メシ、どうする? ルームサービス取るか。さすがに今夜のパーティーまでベッドでゴロゴロってわけにもいかねえだろ」
「そうだな。そういえば腹が減っている気がする」
「あれだけ動けばな」
手塚も起き上がって眼鏡をかける。今日も腹立たしいほどいい男だな。
こんな男が俺の恋人かって思うと、胸の辺りがくすぐったい。見える世界が色彩さえ変えちまったように感じる。
俺はそっと手塚に唇を寄せてキスをした。
「モーニン、ダーリン。今日も愛してるぜ」
「ああ、おはよう跡部。俺もお前をとても愛している」
ハニーと返ってこないところはさすがだが、そんなことはどうでもいいさ。俺が手塚を愛してて、手塚も俺を愛している。
「今日はさすがにテニスはできそうにないな。次からは加減をしたい」
それと、テニス。
「ああ、よろしく頼むぜ」
俺の世界には、それだけで充分だ。
2022/05/09