脱がせてやろうか?
くらくらする。
息を吸うのに、すぐに出ていってしまう。肌がぶつかるリズムに合わせて呼吸をして、目の前の男にしがみついた。
「あっ、……う、んんッ、あぁ……、っひ、ン!」
汗が飛ぶ。頬を伝って唇の端から入り込んできたそれが、自分のものなのかそれとも恋人の――手塚のものなのか分からない。跡部はそれをぺろりと舐め取って、はあ……っと湿った吐息で手塚を誘った。
そのせいか、ぐっとえぐられる場所が変わって快感が上乗せされる。こんなのでノッてくるのかよとは思うものの、欲情されることは嬉しくてしょうがない。
手塚国光が、自分に対して欲情している。その事実が、跡部をさらに興奮させた。
「手塚、イイ……っ、そこ、もっと強く……っん、んんっ、あ……はあっ」
ぱちゅ、ぱちゅ、と淫猥な音をまとって責め立てられて、ぞくぞくと背筋が震える。それを分かっていてかそうでないのか、手塚の手のひらが背骨を這い上がってくる。
そんな些細な仕草にさえ感じてしまって、体が震えた。
「てづかぁ……っ」
制服のシャツから覗く胸元が、汗で濡れている。
テニスのユニフォームならばこんな劣情は抱かないだろうが、中学生らしからぬ色気を放つそこに、食らいついてしまいたい。
立ったままのこの体勢ではいささか難しいが、そこに、触れたい。そう思う傍から、体が揺れて腕がずれてしまう。胸の間の隙間が寂しくて、跡部は手塚の首に腕を回してしがみつき直した。
「……っぁ、ア」
そうしたことで、繋がりがもっと深くなった。びく、びく、と体が震える。つながった部分が熱くて、とろけてしまいそうだ。はあ、はあっ、と荒い呼吸の中で精一杯手塚の熱を感じる。
「手塚、手塚っ……」
跡部は自らも腰を揺らし、もっと気持ちよくなりたいと視線で訴える。もっと気持ちよくさせたいと喘ぐ声で誘う。
もっと、もっと、もっと、もっと奥に、ずっと深く突き刺して、そこで果てろと尻を押しつける。
足元に引っかかったままのズボンが、手塚の腹を阻む。跡部自身は拒んでいないのに、脱ぐ時間を惜しんだツケがこんなところで回ってきた。
「……やはり、服が邪魔だな」
同じことを思っていたのか、手塚がそう呟く。言いながらもしっかりと攻め立ててくる辺りが手塚だが、ここで素直に脱いでやる跡部ではない。なんだか負けたような気がしてならないのだ。
跡部は手塚の熱を存分に感じつつ、首に回していた腕を外し、手塚のシャツの裾から手のひらを忍び込ませた。
「ンッ……は、ぁ……なら、俺様が脱がせてやろうか?」
確かに邪魔だぜと、素のままの背中をなで上げる。汗に湿る肌の感触は、とても好きだ。鍛えた背筋をなぞり、衿を噛む。この体勢ではさすがに舌先でボタンを外してやるなんてことできやしないが、跡部だって恋人の素肌を楽しみたい。
「邪魔なのはお前の服だ、跡部。……まだ余裕のようだな……」
「あッ……!? ちょ、待て馬鹿……っ」
手塚が、跡部の足元に引っかかっていたズボンを掴みぐっと引き抜く。そのまま脚を抱え上げ、腰を押し進めてきた。
「や、め……っんぁ、あ、アッ……だ、め、だめだ、って、言って……あぁ……ん」
押しこまれ、引き抜かれ、また押しこまれて跡部はのけぞる。
肌がぴったりと合わさって、恥毛の感触さえまざまざと感じられる。
「ひ、あッ……あ、あ、っあ……待て、ほんとにっ……や、あ」
余裕を見せられて気に食わなかったのか、手塚の攻めが激しくなってしまった。ギリギリまで引き抜いて、一気に突き刺してくる。その衝撃に慣れる暇もなく、次の波。
小さく揺さぶられ、じれったさに喘ぐと、満足そうに手塚が笑った。そうして、再び激しく攻め立ててくる。
「はあっ、あ、あぅ……待てって、おい、……ッい、ぁ……」
「どうした跡部、脱がせてくれるんじゃなかったのか」
「てめっ……脱がせてほしいならちょっと、止まり、やがっ……ぁ、あんっう……」
これだけ激しくかき回されたら、脱がせるどころではない。欲しかったところを突かれ、跡部はふるふると首を振る。気持ちよくて指先が震え、ボタンのひとつさえ掴めなかった。
反対に、手塚の指先が跡部のシャツのボタンにかかる。もどかしげに外された先に現れた素肌に、手のひらが当てられた。
「手塚っ……」
「触っただけだが。……締めつけるな、跡部」
「んな、こと、言われても、お前の手、好き、なんだから……しょうがねえだろ……!」
は、と詰まったような吐息が聞こえたかと思った次の瞬間、唇が奪われる。触れるなどという可愛らしいものではない。ぢゅっと吸われ、入り込んできた舌に捕らわれる。
「んんっ、ん、む……ぁ、っん、く」
上も、下も、さらには胸までいじられて、どこに集中したらいいのか分からない。入れたつもりはないのに、手塚にスイッチが入ってしまったようだ。
だがやられっぱなしは性に合わないと、跡部も舌を絡め返す。のけぞっても追ってくる手塚を抱きしめて、音を立てて吸い上げた。
「……手、だけではないようだな」
ややあって、追い立てる速度が緩くなる。濡れた唇を指先で拭う仕草は、興奮すると知っていてなのか。跡部はそれをとろけそうな目で見つめた後、息を整えながら答えた。
「フフッ、ああ……全部好きだぜ。手も、唇も、舌も、その欲情した目も、てめぇのコレも、……な」
「っ締めるなと、言った、だろう」
「締められんの好きなくせによ」
手塚の腰に脚を絡めて、ぐっと押しつける。意図的に締めつけてやったら、眉間のしわが深くなった。この隙にとボタンへと手を伸ばし、ひとつひとつ外していく。その向こう側に現れた素肌に満足して、ニッと口の端を上げる。
「ホントに、俺様好みのイイ体してやがんな」
「――お前の好みなど知らないが、明日予定通りに起きられると思うなよ、跡部」
がっちりと腰を抱かれ、煽り返された。ぞくぞくと肌があわ立って、欲張りな自分が出てきてしまった。
「テメェこそ、眠る時間があると思うんじゃねーぞ」
睡眠は大事だけれども、それより欲しい熱がある。ワンセットでは終わりたくない夜がある。跡部はぐっと手塚の肩を抱き寄せた。
開始の合図は、どちらからともなく唇を重ねたキスだった。
2023/03/30